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恋に落ちたら…

 二枚目のファストパスをとれる時間がきたら、また清水は走り、別のパスを取りに行く。そんな感じでテンポよくアトラクションをこなし、僕たちはディズニーランドを満喫していた。


 アトラクションを出た所にあるショップで、薫と月ちゃんが楽しげにグッズを見ている。周りで買い物している女性達に負けていないテンションで買い物を楽しむ薫に、今日のメンバーで素でつきあえるのは月ちゃんだけで、二人でキャピキャピという表現が似合うノリで買い物を楽しんでいる。

 そんな薫を見たのが初めての清水は、やや驚いたようにその様子を見つめていた。

「で、お前はアソコにつきあわなくて大丈夫?」

 僕は首を慌てて横にふる。

「お前こそ、アソコに入れるの?」

 清水は苦笑する。

「俺はどうでもいいから、でもさお前は薫が月ちゃんと仲むずましくしているのって嫌なのでは」

 僕はその言葉に動揺する。

「え、えぇえ、なんで?」

 清水は、ヤレヤレといった感じでため息をつく。

「お前はさ、月ちゃんに惚れてるから」

 その言葉に思わず固まってしまう。

「え?」

 ただ呆然と清水を見返すことしか出来ない。

(僕が月ちゃんに惚れている?)

「そうなんだろ?」


 言われてみると、今までの月ちゃんに対する気持ち、月ちゃんと話している薫に対するなんともいえない感情の理由に気付く。

 心の奥底から何かが激しく吹き出すそんな感覚がした。蓋の開けられたパンドラボックスのように。

 その時吹き出したのは、何だったのか。

「ノンビリしていると、他の誰かに持って行かれるぞ!」

 僕はただぼんやりとその言葉を聞くしかなかった。

 買い物を終えたらしい二人がコチラに向かってくる。月ちゃんはニッコリ笑ってくる。その笑顔にキュンと胸を捕まれるような感覚で、自分が月ちゃんが好きだという事を実感する。

「おまたせしました~」

 月ちゃんはそういってコチラに走ってくる。頭には買ったばかりであろうミニーのカチューシャをつけている。

 薫も近づいてきて、ニヤリと笑って、僕にミッキーのカチューシャをかぶせ、清水にリトルグリーメンのカチューシャをかぶせる。

「なんだよコレ」

「後でお金払ってよ、立て替えといたから、今日はそうやって遊ぶというコンセプトだから文句言うな」

 ニヤニヤ笑う薫もドナルドのカチューシャをつけている。

「所で俺はなんでこんな可愛くないのだよ、お前はドナルドで」

 外して、改めて緑の物体を見て、ブチブチいう清水。

「薫先輩って、アヒル口だがらドナルドのイメージですよね」

 得意げに言う月ちゃんに、思わず皆笑ってしまう。確かチョットつきだした薫の唇ってアヒルみたいだ。

「でもさ、俺もミッキーとかメジャーが良かったよ」

 自分のカチューシャを不満そうに清水が見つめている。

「あっ、だったら交換しようか?」

 僕は自分のカチューシャを外して清水に渡そうとするが、清水は俺と月ちゃんを見て首を横にふる。

 そして意外にも素直にカチューシャをはめながら、そっと僕に近づき顔を近づける。

「お前は月ちゃんと、ペアルックでも楽しめ!」

 清水の言葉に僕は赤面をする。そんな僕を月ちゃんは不思議そうに、薫にニヤリと笑って見つめてきた。


 ※   ※   ※


 清水の所為でカチューシャが気になって仕方がない。まあ清水に言われなくても、こんなモノつけたことないだけに普通に違和感があって気になるものだったのだろうが。

 メンバー全員がつけているので、一人外すわけにも行かず、ミッキーのカチューシャをつけた僕はミニーのカチューシャをつけた月ちゃんと並んでレストランの席に着きながら、そわそわしていた。

「月ちゃんのソレ、おいしそう!」

 正面の薫は興味津々で、月ちゃんプレートを覗いている。何処にいても薫は薫なようだ。

「メキシコ風ターキーの唐揚げだとか」

 薫の正面に座っていた月ちゃんは、律儀に答える。

「美味しそう! いい?」

 月ちゃんが頷く前に、薫はソレを奪って食べる。月ちゃんはビックリした顔をしたが、『旨い』と満足げな薫を見て笑う。

「お前な~、友達のおかずならいいけど、後輩のおかずまで取るなよ」

 清水は呆れたような言葉に薫は、『悪い、つい』と謝る。そして月ちゃんのプレートに自分の皿にあったミートボールをのせる。

「あのさ、取るなら、同じもん食べてる星野のを奪えよ!」

 今日も、同じものを選んでしまったようだ。その事に今更のように気がつく。

「ゴメンって、月ちゃんの皿の方が近かったから」

 薫は謝りながらも唇を突き出す。

「ターキー食べると、共食いになりますよ」

 月ちゃんの言葉にみんなで吹き出す。

「でもさ、薫のそういう所見ると、一人っ子なんだなと思うよな」

 僕の言葉に、薫は首を傾げる。

「そうでもないだろ? 一人っ子っぽいって言われたことあまりないよ。それに一人っ子っぽいって褒め言葉じゃないよな?」

 何故か隣にいる月ちゃんに、そう問いかける。

「親の愛情を一心に浴びて育った、自由で大らかという感じですか? 一人っ子って」

 薫は、その言葉に納得してないようだ。

「あと絶対、自己中、我が儘、強調姓がないとか続くよね」

 月ちゃんはヘラっと笑って否定はしない。

「でも、薫さんって、自分をもっていて、まっすぐ思った道を歩いていきそうな格好よさありますよね」

 清水は、その言葉にうーんという。

「まあ、我が道をゆくという意味では合っているかな~」

「結局、我が儘っていいたいのかよ」

 薫が清水の言葉に突っ込む。

「でも、私は一人っ子が羨ましいです。だって親に必要とされ愛されて生まれてくるでしょ?」

 薫は、月ちゃんの言葉に『ん?』と視線を戻す。僕もその言葉になんか妙な引っかかりを覚え月ちゃんを見てしまう。

「私なんて、三番目だから、いてもいなくてもいい、そんな子供なんですよね」

 いつもの明るい調子の言葉だったので、皆笑っていたけれど、僕にはその言葉が意味する内容に心が一瞬冷えた気する。月ちゃんの目が妙に冷めた色を秘めている。

「ということは末っ子? 月ちゃんってなんか、みんなに甘やかされて可愛がられて育ったって感じがするけどな」

 清水の言葉に薫も頷く。僕は月ちゃんの目がどこか思い詰めたように遠くを見ているのに何も言えなかった。月ちゃんみたいな子が、家族からか可愛がられないわけないと思うし親からも愛されていると思うのに月ちゃんの瞳は清水の言葉を否定していた。月ちゃんはそれでもヘラっと明るい笑みをつくり清水の方を見る。

「でもね、ベビーアルバムってあるじゃないですか。長女である姉はなんと五冊もあり、内容も写真をハートにくりぬいてあって、成長の記録とコメントがいっぱいあって、それはもう感動的なものなんですよ。で二番目の兄は、流石に細工は減るものの二冊あって…」

 僕は、自分はどうだったかな? と考えてみる。家が忙しいこともあったのだろう。どの兄弟も、一冊まるまる赤ちゃんというものはなく、また兄弟三人別々のアルバムもなく一冊の中でみんなが成長している姿を纏められている。

「私の場合は、赤ちゃんの時代は数ページだけで、そのあと数ページしたら小学校入学になるのですよ! ソレ見ると、愛が明かに減少方向にあるって感じですよね」

 みんな戯けたような月ちゃんの言葉に薫だけは驚いた顔をしていたけれど、皆は大爆笑する。そのアルバムが意味する事ってこの時は、そこまで深くは考えていなかった。でもなんか月ちゃんと家族の関係がどこか歪だという事をこのときどこかで感じとっていた。

「親だって、三人目だと忙しかったんだろ、俺んちは五人だから、アルバムすらなくて写真の状態だぞ!」

清水の言葉にみんながどよめく。

「五人!」

 みんなの言葉に清水が照れた顔になる。

「元々二人兄弟だったんだけど、下に三つ子が生まれてそうなったんだよね。全部男だから大変だよ」

「いいな~」

 薫が羨ましそうにつぶやく。子供五人って親は大変だろうなと思うけど、薫にとっては無邪気にそう思える状況なようだ。

 一人っ子の薫、三人兄弟で真ん中の僕や、三人兄弟で末っ子の月ちゃん、五人兄弟の清水それぞれ立場が違うだけに、違った不満をもって過ごしているようだ。


 そんな中でひたすら、他のメンバーの生活をうらやましがったのは、薫と月ちゃんだった。やはり隣の芝生はとても青く素敵な世界に見えるようだ。

 そしてチロっと俺の方をみた薫は唇を突き出す。

「お前だけ、何も言わないってことは、けっこう満足しているんだな。家族に」

 薫の言葉に、僕は『ウーン』と首を傾げるしかない。

「というより、こんなだから仕方がないという感じかな?」

「妙にお前達観しているよな」

 清水は笑う。

「でも、兄弟いるって羨ましいよ、一人っ子って…………自由がない」

 薫が溜息をつきながら、そうつぶやく。

「兄弟もつと、不自由という自由があるけどな」

 清水の言葉に、皆が頷く。

「でもさ、兄弟いっぱいいれば、一人くらい外れて奔放に生きていいかなと親には思ってもらえるだろ?」

 薫は一人っ子であることの不満を皆に理解してもらえない事が悲しいのか、そんな言葉をまだ続けてくる。

「自由……奔放か、いいですね、そういう人生」

 月ちゃんは隣で、大きく溜息をつく。

「いいじゃん、月ちゃんはそういう人生、生きれば」

 薫はそういって、月ちゃんを見て、優しい綺麗な笑みを見せる。月ちゃんは、キョトンと薫を見上げる。

「応援するから!」

 月ちゃんは「ん~」と小さい声でつぶやきながら、困ったように笑った。

 薫はそんな月ちゃんに、明るい笑顔を返す。月ちゃんは眩しそうな顔で薫を見上げる。

 なんか、そうやって見つめ合っている二人に、ジリジリとした嫌な感情を覚える。なるほどコレが嫉妬という感情なんだ。僕は納得する。

 この日を境に僕と月ちゃんと薫の関係がなんか変わった気がする。いや変わったのは僕の感情だけかもしれないけれど。僕から見える風景は昨日までの無邪気な世界ではなくなっていた。


※ ポップコーンの味とか、いつの時代に行ったかをぼかすために、レストランの料理は勝手に作っています。


恋に落ちたら…(Mad Dog and Glory)

1993年 アメリカ

監督:ジョン・マクノートン

キャスト: ロバート・デ・ニーロ

ユマ・サーマン

ビル・マーレイ

デビッド・カルーソー

マイク・スター

トム・タウルズ

キャシー・ベイカー

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