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渋谷物語

 薫は僕が此処で抱えていた動揺なんて解る筈もなく、脳天気に笑っている。遅れ来た事も悪いとも思ってないようだ。

その様子に怒り通り過ぎて脱力する。

「お前な、約束の時間とっくに過ぎているの、分かっているよな?」

薫は「あっ」と顔を一瞬して、誤魔化すようにニカッと笑う。

「ゴメン!」

こうやって謝り、次また平然と遅刻してくる。いつものパターンに呆れてしまう。しかし僕らのやり取りが何故か面白かったらしい月ちゃんは、クスクス笑いだす。

「二人はいつもそんな感じで、星野先輩が薫先輩を叱っているのかなと」

薫はその言葉に不満そうに唇を突き出す。

「なんで、僕は叱られる事、限定なの?」

月ちゃんは、首を傾げる。

「なんとなく? 違いますか? 薫先輩なんか自由な所あるから」

薫は納得いかないような顔するが、その表情がいきなりパッ嬉しそうに輝く。

「ところで、月ちゃん滅茶苦茶可愛いね!」

いきなり、話題を変えてきたことで、月ちゃんも僕もキョトンとする。

「そのワンピース、凄く似合ってる!」

興奮したようにテンション上げて、月ちゃんに言葉を発する薫の顔はヤケに嬉しそうだ。

月ちゃんは最初戸惑っていた様子だけど、お世辞でなく本音の言葉なのが解ったのか、薫にはにかんだ笑みを返した。

「その髪型も、お洒落! 面白い」

「暑いので編み込みで纏めちゃったんですよ」

「それ、自分でやったの? 流石、月ちゃん!」

恥ずかしそうに首を振る月ちゃんを、嬉しそうにいつになく目を輝かせみている薫。

「薫先輩の、今日の格好、素敵ですよね。その時計も面白いです」

「でしょ? コレ気に入ってるんだ!」

僕とは異なり、女の子をストレートに誉める事が出来る事に感心しつつ、キャピキャピとしたノリで仲良く盛り上がる二人に呆然としてしまった。ファッションの話になると、僕は入ることができない。

「あ、とりあえずさ、劇場行かない? 先に行ってチケット抑えないと!」

 いつまでも話を続けてしまいそうな二人に声をかけた。楽しそうな所申し訳ないけいつまでもここで話をしていても仕方がない。次の行動を促す事にした。二人は同時にこっちに振り向き、不満そうな顔をするわけでもなく「は~い」と同じように妙に可愛いお返事をしてニッコリと頷く。月ちゃんはともかく、薫ってこういう可愛いという表現が似合う行動をする男だったのだろうか? と僕は首をかしげる。


 劇場の位置を知っている僕と月ちゃんが先に歩き出し、それをニコニコと薫がついてくるという感じで歩き出す僕たち。雑踏の渋谷を三人で歩くのには、横で三人並ぶよりも、このように三角形になるほうが話やすい。

「今時の高校生のクセに、渋谷がなんか苦手って駄目ですよね」

 渋谷の雑踏に揉まれながら、月ちゃんは困ったような顔で溜息つくように言う。

「僕もそうだよ、僕は映画だけみて、あとは人ごみが疲れるからすぐ帰るもの」

 僕の言葉に、月ちゃんは嬉しそうな目を返してくる。

「もう慣れたかな?」

 流石、東京生まれ東京育ちの薫の言う事は違う。月ちゃん同様、僕も薫を尊敬の目で見てしまう。

「疲れませんか? あ、薫先輩は、背があるから少し楽なのか」

 僕と月ちゃんの後ろに立っていても、視界が困らない薫を見て、月ちゃんの言葉に頷いてしまう。確かに完全に雑踏にうずもれてしまう僕や月ちゃんと違って、身長が百七十センチあると楽なのかもしれない。

「う~ん……。なんかさ、この雑踏が心地よいと思えるようになったんだ」

 意外すぎる言葉に、僕は薫の顔を見てしまう。薫はちょっと遠い目をするように雑踏を見つめている。

「最近この周りを見てない無関心な雑踏が、一人で歩いていても心地良いというのかな」

 僕にはこの時はその気持ちがちょっと分からなかった。 月ちゃんは、驚いた顔をしたが、静かにジッと薫の顔を見つめていた。

「なんか、チョットだけ分かる気がします。その感覚も」

 薫はその言葉と月ちゃんの表情にハッとした顔をし、そして唇を突き出して照れたような表情をする。

小さい声で「ありがと」ボソっと言葉を返した。


 孤独を嫌がり人に構って欲しいと思う反面、ほうっておいてほしいとも思う。この時はよく分からなかったけど、人との関係に煩わしいものを感じ始めたときに、薫の言葉に納得することができた。僕がそう思うようになるのはチョット先だった。 

渋谷物語

2004年 日本 122分

監督・脚本:梶間俊一

脚本:石松愛弘、田部俊行

キャスト:村上弘明

南野陽子

遠野凪子

風間トオル

津川雅彦

永島敏行

渡辺裕之


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