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この三人

 劇場で出てみんながトイレに走るメンバーを待つ間、月ちゃんはイソイソと映画のチラシを集めている。そして一枚の映画チラシを興味あり気にジッと見ている。

僕の視線に気が付いたのか、チラシをコチラに示してニコリと笑う。

「この映画ご存知ですか? 私凄い気になっていて」

「『明日、君がいない』か、ソレ僕も気になってる! カンヌ国際映画祭でも評価高かった作品だよね、 いつ公開?」

月ちゃんは、真面目にチラシを見る。

「七月の第二土曜日ですね! 公開期間短そうだから、気をつけないと」

そう言いながら携帯を取り出し、スケジュールを書き込んでいるようだ。

「月ちゃんも観に行くんだ だったら一緒に見に行く?」

ウッカリ口から出てしまった言葉に月ちゃんは、ビックリしたように、携帯から視線を上げコチラを見る。なんか凄く気恥ずかしい気持ちになってくる。仲良いとはいえ後輩の女の子を気安く映画に誘うってオカシイかなと思い始めた。

「はい! 喜んで!」

 月ちゃんの驚き顔が、満面の笑みに変わるのを、ホッとしつつも、心の奥底でなんかうろたえていた。複数人で映画に行ったことあるけど、女の子と二人だけで映画って、考えてみたらそんな事初めてだ。ソレってデートっぽい状況では? そんな事まで考えてしまうと余計にドキドキしてくる。

「お待たせ~どうしたの? 月ちゃん、妙にニヤニヤして」

 後ろから清水の声が聞こえる。

「そんな顔してないですよ! 私、真面目な顔していてもそう言われるんですよね」

楽しそうなに話す二人を見て、僕はある打開策を思いつく。二人の会話の流れなんて関係なく清水に声をかける。

「あ、あのさ、清水、月ちゃんと夏休み『明日君がいない』って映画を観るんだけど、一緒にいかない?」

清水は僕の顔をシゲシゲ見て、その映画のチラをもっている月ちゃんをチラっと見て、何故か僕をみて『ウーン』と考える。

「俺、そういった系苦手だから、二人で行ってきたら!」

 何故かニヤリと笑いながら、僕の肩をポンポンと叩く。あっさりフラれてしまった。

「お、ソレよりこの映画のほうが、すっげー楽しみ。前売りまで買って待ちわびているんだよね~」

 月ちゃんの持っていたチラシの一枚を指さし語り出す。戻って来た副部長や井上が戻って来たときには話題がすっかり変わっていて他の二人を誘う事もできないまま、解散となってしまった。

 普通の会話を皆がしている間、僕一人だけがずっと動揺していた。


 ※   ※    ※


 女の子と二人っきりで映画に行く、何てことない事の筈なのに意識すればするほど気になってきてしまう。

「どしたの? なんか今日、溜息を多くない?」

 目の前で弁当を広げながら、薫が首を傾げながら聞いてくる。

「ん、いや、そうだ! 薫さ、夏休み暇? 映画観に行かない?」

 薫は、「ん?」という顔をする。

「……何の映画?」

 多分、薫は知らないだろうなと思いつつタイトルを伝えると、やはり首を傾げている。

「ソレ面白いの? それに何か妙に緊張した感じで誘われると怖いんだけど、何か裏があったりする?」

 僕の映画の誘い方って、そんなに怪しいのだろうか? 月ちゃんも変に思ったのではないか、ますます心配になってきた。

 僕は更に大きな溜め息をつき、事情を説明すると、薫は笑い出す。

「気にし過ぎだよ! 二人だけで出掛けたら即デートって事にならないだろ! 気にするって事は、お前さ、もしかして、月ちゃんが好きなの?」

 思いもしなかった、薫の言葉に僕は更に動揺し、慌てて否定する。

 そんな僕の言動をどうとったのか分からないが、やけに嬉しそうにニヤニヤ笑いだす。

「行ってもいいよ! お前と二人で映画デートだったら、絶対嫌だけど。可愛い月ちゃんがついてくるなら喜んで行くよ」

 薫は態々『デート』という言葉を使って僕をからかってくる。でも取りあえず二人っきりで出かけるという事は避けられた。薫と月ちゃんは、それなりに親しいし、楽しい映画鑑賞になりそうだとホッとする。

「ありがと、助かった」

「ところでさ、その映画、恋愛映画なんてことないよね? それだったら逆に面白いので、その場合は遠慮しようかな。そしてコッソリ後つけて様子みてるよ」


 薫は彼女も何人かいたくらいだから、女の子と一緒に出かける事にも慣れているのだろう。猫のような目がキラキラとしている。完全に僕の事を面白がっている。薫は楽しそうに弁当に箸を伸ばす。祖母の作ったお弁当とは違って、薫のお弁当は彩りも綺麗で、細工も細かくお洒落だ。以前薫の家に遊びに行ったときに、薫のお母さんには会ったことあるけれど、薫によく似たお綺麗で服装もお洒落な女性だった。その時手作りのおやつまで振る舞われて僕は軽く感動したものだ。あのお母さんが、愛情を込めて作ったのであろうそのお弁当が僕にはチョット羨ましい。祖母のお弁当も、愛情はこもっているだろうし、美味しいのだけど、子供だけを見てくれる母親という存在は、親にほったらかしで育てられた僕には素敵な存在に思えるのだ。

「いや、青春群像劇? みたいな感じで恋愛物ではないから」

 薫は脣を突き出して『なんだ、残念』とつぶやく。そして僕のお弁当をのぞきこんだ薫はニカッと笑う。

「お前の、煮っころがし旨そう!」

 僕のお弁当のおかずをかっさっていく。そして替わりにと勝手に野菜の肉巻をゴロンと僕のお弁当の蓋に置いていった。僕は薫の行動がいつもの事なので、好きなようにさせてしまっている。こういう所を見ると、彼が一人っ子だという事がよく分かる。何でも独り占めできて、欲しいものがあっても躊躇しないでソレを掴みに行く。中間子の僕には出来ない芸当である。

「お前、また薫におかずとられているのか、チョットは怒れよ」

 職員室に教師の手伝いで連れていかれていた清水が戻ってきたようだ。

「失礼な、ちゃんと等価交換しているだろ」

 清水は僕らが食べている机にレジ袋を置き、椅子を引き寄せてドッカリと座る。はレジ袋からカロリーメイトと紙パックの飲み物を出す。

「お前、相変わらず不健康なお昼だな」

 薫はその内容を見て眉をしかめる。

「何を言っている! 野菜ジュースとカロリーメイト、栄養学的にいってもバッチリだろ!」

 清水はどうだ! という感じで威張ったように言う。

 そういえば清水は弁当を持ってきたことがない。学食で済ませるか、コンビニでこういった簡単なもので済ませるがどちらかである。

「そういう簡易栄養食品でとる栄養は、身体に溜まらないっていうよ。コレも一緒に喰え」

 薫は、僕のお弁当と自分のお弁当から適当に抜き出しお弁当の蓋にのせ、清水の前に置く。清水は、そのおかずを見て顔をクシャっと嬉しそうにゆるめる。

「いつもすまないね~サンキュ! うまそ♪ そのだし巻きも欲しいな~」

 そう言って、僕の弁当箱から卵焼きを手でつまみ、口にいれた。

 なんやかんやいって、清水もチャッカリ、僕達のおかずをいつも楽しんでいる。所詮男三人でのお弁当風景といったらこんなものである。でも気の合う仲間と食べるから、こんなに美味しいのかもしれない。


 三人って人数は、集団を作れる最小限の人数ならしい。三人という人数そろって周囲はその存在を集団と認め、三人揃うことで状況打開に動いたり、何か行動を起こせるらしい。

 それはまだ、自分という自我が確立出来てなかったからかもしれない。三人でいることの安心感に僕は甘えていた。別に何かを興そうなんて思ってもいないけど、僕は寂しくなくて、しかも程よく自分を保てるこの『三人』という世界の心地良かった。


この三人(THESE THREE)

1936年 アメリカ

監督:チャン・フン

製作:キム・ギドク

デビッド・チョウ

キャスト:ソ・ジソブ

カン・ジファン

ホン・スヒョン

コ・チャンソク

ソン・ヨンテ

チャン・ヒジン

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