幸せの絆
テスト最終日、最期のテストが終わった途端にクラスに解放的な空気が流れた。
薫と月ちゃんと毎日、遅くまで勉強したのも良かったのかもしれない、今回はかなり調子良かったように思える。
「ヒデ、おっつかれ~。今日何か帰り喰って帰る?」
薫も、晴れ晴れしい顔で近づいてくる。
「ゴメン、今日は部のみんなと映画観に行くことになってるんだ」
「わりぃ、星野は俺とデートなんだ」
割り込んできた清水の言葉に、薫は吹き出す。
「じゃ、フラれた僕は、さみしく一人で買い物でもいくよ。じゃ、バイバイ」
薫は笑いながら鞄もってサッサと教室から出ていった。
清水と僕は、駅前の待ち合わせ場所にいくと、副部長の山本さんが二年の井上と一緒に立っていた。殆どが土曜日へと回ったので、今日のメンバーはコレで全てなはず。
「実は、月ちゃんが土曜日家の事情で行けなくなったとかで、今日にしたんだ」
山本さんが、説明していた時に向こうから、小っちゃい子が猛然とコチラに走ってくるのが見えた。
「お待たせしました! すいません遅くなって」
ゼイゼイと息をしながら、月ちゃんがみんなに挨拶をする。清水が月ちゃんの姿を見て人の悪い笑みを浮かべる。
「北野って本当に憐れな男だよな」
コッソリ耳打ちしてくる清水の言葉に、僕も笑ってしまう。
一生懸命走ってきたんだろう。荒い息で電車の中で汗をハンカチで必死にぬぐう月ちゃんに『大丈夫?』と声をかけると、ヘラっとした笑顔を返してくる。
「いや、参りましたよ、父が突然今週末温泉行くぞ! 言い出しちゃって。家族の予定とかお構いなしなんです。アノ人は」
月ちゃんはそう言って大きく溜息をつく。微妙に質問と回答が噛み合わない事があるのがこの子の特徴。
「そうなんだ」
とりあえず映画館で五人分のチケットを買い席を押さえてから、ファミレスでお昼を食べることにした。最近のファミレスもメニューが多く、しかも季節毎に特別メニューまであって迷うものである。でも、こんな所で迷うもは僕だけなのか、山本さんも、清水も、井上も食べるもの決めてしまっているらしく、夏休みどうするかといった話しをし始めている。
「二人とも、決まったか?」
山本さんに聞かれ、僕は悩んだ結果、決断する。
「じゃあ、讃岐夢豚のミニ豚丼と讃岐うどんのセットで」「讃岐夢豚のミニ豚丼と讃岐うどんのセットに決めました!」
悩んでいたのは僕だけではなったらしく、月ちゃんが隣で嬉しそうに顔を上げて宣言する。
そこにいたみんなに何故か爆笑される。
「え? なんで笑われるんですか? コレ凄い美味しそうじゃないですか!」
月ちゃんも何故笑われるのか分からず、そう問いかける。
「いや、二人とも、同じモノというか、それ選ぶんだって思って」
山本さんはクスクス笑いながら、テーブルのボタンを押す。
「いやいや、この二人は前からそうですよ! 相性良すぎるというか、妙な息の合い方するんですよ」
「へぇ、そうだったんだ気が付かなかった」
この頃から、僕と月ちゃんはこういった事で、よくみんなに指摘され笑われるようになる。どちらかというと内向的で理屈っぽい自分と、社交的で脳天気な月ちゃん、真逆な性格だと思ってた彼女が、実は僕に非常に近い感性と性分の持ち主だったというのに気が付き始めたのもこの頃からだった。
「逆に、皆さんがコレを選ばないのが不思議ですよ! 通常メニューでいつでも食べれるもの注文します? 普通、ねえ星野先輩」
月ちゃんは、ミックスグリルとか、パスタとか、カレーとかを普通に食べてる三人にそう力説をしていた。
僕に笑いかける月ちゃん、その笑顔につられるように僕の顔も笑顔になる。可愛い後輩で、彼女へのその愛しい感情は単なる親近感だと、思っていた。それにそんな感情への名前なんてどうでも良い。こうして顔を合わせているのが凄く楽しかったから、それで良かった。
幸せの絆(暖春 Warm Spring)
2003年 中国映画
監督・脚本:ウーラン・ターナ
キャスト:チャン・イェン
ティエン・チェンレン
ハオ・ヤン
ユー・ウェイジエ