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雨情

 七月になったものの、まだ梅雨は明けておらず、ジメジメした日が続いている。グランドが使えない事で運動部は校内を走ったりしてなかなか大変そうだ。

 その点、文化部は、天気関係なく楽しめるるので、本当に良かったと思う。特にウチのクラブはみんなマイマグに好みの飲み物入れ気侭に過ごす、進学校だけに皆こういう時間を過ごす事で息抜きをしていた。今日もいつもの面々で映画話を楽しんでいる。

「うーん、俺はタランティーノって、何か合わないんだよね。それに月ちゃんがああいうノリって嫌いだと思ってたけど好きなのがチョット意外」

 清水の言葉に、マグカップを手に月ちゃんは首を傾ける。

 逆に、清水の方こそクエンティン・タランティーノ監督の作り出す世界は好きだと思っていただけに苦手という言葉が出たのが意外だった。

「清水先輩が、苦手って意外です。でも、タランティーノの脚本作品って、台詞のセンス秀逸じゃないですか?」

「そうだよね!」

 僕も月ちゃんの言葉に頷く。今日もいつものように清水、高橋、僕、月ちゃんが話している。前では、北野が二冊のノートを広げ勉強しているふりして月ちゃんを見つめている。北野のクラスと月ちゃんのクラスは、英語の授業が1日のラグがあるのに目を付けた北野は、月ちゃんのノートを丸写しする亊で万全の体制で授業に臨むつもりならしい。彼としては月ちゃんにより近づく口実ができ、しかも英語の授業も気楽に受ける亊が出来る一石二鳥と思っているようだが、ノートを書き写している間は孤独な作業を強いられ、その間に月ちゃんは高橋や清水らと、楽しく盛り上がっている。北野に空回りの行動を指摘してやるのもどうかと思うので、僕はあえてその事には触れずに映画談義を楽しんでいた。

「え? あの人の脚本って、大概ラスト登場人物が皆、同じところに集まって、殺し合ってチャンチャンで終わりでは?」

 高橋も、タランティーノはあまり好きではないようだ。

「脚本の流れというか、台詞が凄いんですよ。特にトゥルー・ロマンスの台詞とかのぶっ飛びぶりには、私やられましたよ。主人公が愛する彼女の為にマフィア相手に危険で馬鹿な事をやって怪我して帰ってきた時、あり得ない台詞とか」

 月ちゃんが、僕もお気に入りのシーンを話し出したので嬉しくなる。

「ああ アレ凄いよね、僕も凄すぎて逆に感動したもの『なんてロマンチックなの~!』って出てこないよね、あそこで普通」

 月ちゃんは、『そうそう』と僕の方を嬉しそうに見上げてくる。

「普通、『私なんかの為、何て馬鹿な事したのよ』って泣いて怒る所に、そこに相手の強い愛に抱きしめて感動という発想、もう只者じゃないですよ」

 この部分、映画好きな人にも『ん?』という返される部分に反応してくれる人がいたのがなんか嬉しい。

「主人公がお父さんにドエライ頼み事した時、主人公の台詞も凄いよね」

「『お父さん、俺が今まで何か頼み事した事あった?』でしょ? しかもその後、お父さん納得して息子を抱きしめてしまう展開も良かったです! 普通、父として社会人として断り、叱るべきという内容なのにね」

 つい、月ちゃんと二人だけで盛り上がってしまい。ふとこっちをジトっと見ている北野や高橋や清水の視線に気が付き、チョット恥ずかしくなる。

「なんかさ、前から思ってしまったけど、お前達って映画の好みというか映画のツボって同じだよね」

 清水は面白そうに俺達を指さしていう。

「そうですか?」「そうかな?」

 同時に似たような言葉を応えてしまう僕と月ちゃんに清水と高橋は大笑いする。でも北野だけは面白くなさそうな顔をする。

「そういえば前何だかの映画について、別の時に二人から、同じような話聞いた事ある。デスペラードだっけ」

 清水が、その映画の何処について話した時の事言っているのか分からず、僕は首を傾げるしかかった。隣で月ちゃんも同じように首を傾げている。

「ねえ、部長! 部長! 映画研究部らしいイベント思いついたんですけど!」

 隣のグループで談笑していた部長に清水が突然声をかける。部長がコチラを向く。

「試験終わった日にでも、みんなで一緒に同じ映画観にいきませんか? そして、同じ映画の感想を書くんですよ! あとそれぞれと全体の簡単な評価をチャートグラフで示して、表現すると面白くないですか?」

「確かに、みんなでというもの面白そうだね」

 部長も興味もったようだ。

「感動した、泣いた、笑った、怒ったとか 十段階くらいでそれぞれ評価して、チャートグラフに示すと、視覚的に表で映画の評価を示せますよね?」

 部長に熱心にプレゼンをしていた清水は、そう言った後何故か僕と月ちゃんの方をみてニヤリと笑う。

 何か企んでいるよのは分かったけれど、その企画自体は面白そうなので、僕も参加をすることにする。結局ディズニーのCGアニメ作品をみんなで観に行くことにした。流石に部全員で観るのはスケジュールも調整しにくいという問題もあり、テストが終わった日に行くグループと、その週の土曜日に行くグループと二日に分けて観に行くことになる。


 僕はどちらでも良かったけど、土曜日メンバーの方が多い様子だったのでテスト最終日のグループでの参加にする。月ちゃんは永谷や小倉と一緒にいる土曜日に行く事にしたようだ。それを見ていた北野も高橋をさそって土曜日参加を表明していた。恋する男は本当に健気なものである。

 高橋が、ある事を思い出したかのように、北野の名を呼ぶ。

「頼む、今日の帰り英語のノートコピーさせて!」

(高橋……お前ってヤツは……あの状況を見てそのノートのコピーをとるんだ)

 思わす、高橋と北野の顔を交合に観察してしまう。高橋はいつもの様子で脳天気に笑っている。北野は流石に楽しそうではない。

「お、おう!」

 北野はそれに一瞬詰まるが、頷く。本当にコイツってイイ奴なんだなと僕は感動した。

雨情

1957年 日本映画 117分

監督:久松静児

キャスト:森繁久彌

草笛光子

久保明

木暮実千代

青山京子

月形龍之介

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