影
三題噺もどき―きゅうひゃくいち。
ジメジメと嫌な暑さが居座っている。
外はどんよりと雲が覆い、暗い空が広がっている。
今朝は登校のタイミングで大雨が降って散々だった。
「……」
それがいきなりだったからまぁ、大変だった。
幸いその時に通っていた道は、近くに雨宿りできる場所があったからよかったものの。
しかしそこで立ち止まって雨が止むのを待つとかできないので、忙しなく合羽を着て鞄を袋に入れて……とやっていたら止んだからもう。
「……」
朝から疲労困憊もいいところなのだ。
なんで土曜日なのに学校に来ないといけないのか不思議でならない。
別に来たところで授業をするわけでもないのに……3年生になってからは、ほとんどが模試で終わる。毎回する必要あるのか?って感じだ。もう飽きた。
「……」
まぁ、今回は期末テストもあるからそれに向けての授業兼、進学に向けての授業みたいな感じだ。よくわからないが、私もよく分からない。
もうそれよりも教室の中が暑くて暑くて仕方がない。
教室に冷房はついているのに、点けない教師はどうかしている。
このご時世に窓開けとけばなんとかなるは、危険だといつになったら気付くのか。
「……」
本人はそりゃ、制服なんて暑苦しいものじゃないからいいだろうけど。
こちとらそんな涼しい素材の物でもないモノを着て、椅子に座ってジメジメとした暑さを耐えているのだ。汗がじわじわと吹き出して来て気持ち悪いことこの上ない。
「……」
さっきの休み時間に食べたチョコレートなんて半分ぐらい溶けていた。
何でこんな日に持ってきたんだという感じだが、仕方がないだろう。
家にあった小腹を満たせそうなお菓子がオレンジピールの入ったチョコレートしかなかったんだから。
「……」
おかげで口の中は甘い匂いでいっぱいだし、チョコレートって夏に食べるとこんなに喉に絡んだだろうかというくらい居座っていて、授業どころではない。
きちんとその後水分も取ったのだけど、やけに喉に残っている感じがして……チョコレートってこんなだったか?若干溶けた状態で食べたのがよくなかったのか……。
「……」
教壇では何やら教師が滔々と説明している。
もうなんというか、暑さと不快さでそれどころではない。
誰も授業聞いていないの気づいていないんだろうか。
「……」
授業にろくに集中もできず、また外を眺める。
今朝の大雨が嘘のように雨の降る気配はない。
ただ重い雲が立ち込めているだけで、あの特有の匂いもしない。
「……」
校門沿いを歩いている人が居た。
大きな白い百合の花束を持って、真黒な服に身を包んで。
やけに暗い空気を纏いながら、静かに歩いている。
「……」
こんな暑い中でよく外を歩いている。
それにそんな真黒な服装で、更に拍車をかけるような格好だろう。
まぁ、私も普段着は基本白か黒なので何も言えたものではないが。
「……」
こんな時期にどこに行くのだろうと思ったが、まぁ普通に考えて墓参りだろう。
少し離れた位置に墓地があるので、そこに向かっているのだろう。
あんないかにもな格好で行く必要性があるのかどうかは分からないが……。
「……?」
はたと、その人が足を止めた。
何かあったのだろうかと思ってみていると、くるりと踵を返していった。
何か忘れ物でもしたんだろうかと思ったが、またすぐに戻ってきた。
道を間違えたんだろうか……しかしそのまま真っすぐ道沿いに行けばつくはず……
「 」
――っくりした。
何でいきなりこっちを向いたんだ。わざわざ横を向く必要あったか?というかそもそもなんで一度帰ろうと?したんだ。すぐに戻ってきたけど、何のために?というか。
あんなに、この距離で、視線が、合う事が、あるか?
「……」
なんとなく、視線を戻すことに躊躇してしまい。
そのまま、授業が終わるまで外を見ることはなかった。
なんだか久しぶりに教師の話に耳を傾けていたような気がする。
「……」
授業が終わり、ホームルームを迎えたあたりで、また外を見た。
まぁ、そんなところに何十分もいる訳はないので、当然同じ人の影はなかった。
たまたま、何かがあったんだろう。昔この高校に通っていたとかかもしれない。
「……」
そう言い聞かせながらも、ごまかしきれない違和感を抱え、ホームルームを終えた。
せっかく今日はあの子と帰るんだから……切り替え切り替え。
さっさと忘れて、帰路につこう。
お題:オレンジ・チョコレート・百合




