静かな夜と、家族の祈り
神殿での「最悪の儀式」を終え、馬車に揺られてベルトラン伯爵邸に帰り着いたとき、私の心はもうボロボロだった。
(……呪いだ、なんて)
耳の奥で、アルフレッド閣下の冷たい声が何度もリフレインする。
運命の番。神様が定めた、世界でたった一人の半身。
それなのに、彼にとって私は「不運な呪い」でしかなかった。
「お嬢様、おかえりなさいませ。……お顔色が優れませんね」
老執事のセバスが心配そうに声をかけてくれるけれど、私は力なく微笑むことしかできない。
「ただいま、セバス。少し……疲れちゃっただけよ」
ふらふらと自室へ向かおうとした時、リビングの扉が勢いよく開いた。
「リリア! おかえり!」
「お姉様、大丈夫!? 変な男に絡まれなかった!?」
飛び出してきたのは、父様と妹のフィオナだった。
父様は私の肩をがっしりと掴んで、上下左右から怪我がないか確認し、フィオナは私の手を握りしめて、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「……父様、フィオナ。ただいま。……あの、結果は、聞いた?」
私が消え入りそうな声で尋ねると、二人の表情が一瞬だけ曇った。
でも、すぐに父様は、私の頭を大きな手で優しく撫でてくれた。
「ああ、聞いたよ。アスラン公爵閣下が番だったそうだな。……あの方は、確かに帝国最強の騎士だが、少しばかり気難しくて有名だ。リリア、お前が無理をすることはないんだぞ」
「そうだよ、お姉様! もしあいつが少しでもお姉様に冷たくしたら、私が聖女の魔力で丸焼きにしてあげるから!」
「フィオナ、物騒なこと言わないの……」
私は苦笑いした。
二人は、私が「無能」と呼ばれていることを誰よりも悲しんでくれている。
世間がどれだけ私を「ハズレ」だと言っても、この家だけは私の味方だ。
でも、だからこそ。
家族の優しさが、今の私には少しだけ痛かった。
(……ごめんなさい。期待に応えられなくて。こんなに愛してくれる家族がいるのに、私は『番』にすら愛されない、不完全な聖女で……)
その夜。
私は自室のベッドで、鎖骨に刻まれた「銀の紋章」をそっと指でなぞった。
本来なら、番と出会えば魔力は安定し、幸福感に包まれるはずなのに。
触れた場所からは、彼が放った「拒絶の冷たさ」だけが伝わってくる気がした。
「……愛なんて、期待しない」
自分に言い聞かせるように呟いて、私は枕に顔を埋めた。




