表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/12

後日談:アルフレッドの隠し事——死神の皮を被った男の惨敗記録——

 あの日、神殿でリリアを初めて見た瞬間。

 俺の心臓は、文字通り一度止まった。


(……なんだ、この可愛い生き物は。……天使か? いや、俺の番だ)


 首筋に刻まれた銀の紋章が、共鳴して激しく脈打つ。

 その瞬間、俺の脳内は「今すぐ抱きしめたい」「どこにもやりたくない」「なんならこのまま屋敷に連れ去って監禁したい」という、獣のような独占欲に支配された。


 だが、俺は軍人だ。しかも「死神」とまで渾名される冷徹な公爵。

 動揺を悟られるわけにはいかない。俺は必死に顔を強張らせ、理性を総動員して彼女を見下ろした。


 なのに、口から出たのは——。


『……お前が、俺の「番」か』


(違う! もっと優しく、お会いできて光栄ですと言うつもりだったのに、声が低すぎて脅迫みたいになった!)


 さらに怯える彼女を見て、俺はパニックに陥った。

 俺の魔力はあまりに強大で、彼女のように繊細で美しい魔力を持つ者を、触れるだけで壊してしまいそうだった。

 その恐怖のあまり、俺は自分に言い聞かせるように、彼女に最悪の言葉を叩きつけた。


『……愛など期待するな。これは呪いだ』


(……死にたい。今すぐ舌を噛み切って死にたい。呪いなのは、彼女を目の前にして理性を保てない俺の方だ!!)


 それからの俺は、自爆の連続だった。


 ■ お着替え事件の裏側

 リリアを屋敷に連れ込み、三、四十着のドレスを用意したのは、単に「俺の好みの服を着た彼女を二十四時間体制で眺めたい」という変態的な欲望ゆえだ。

 背中のリボンを編み上げているとき、俺の指は、武勲を上げた勲章を授与されるときよりも激しく震えていた。

(……肌が白い。柔らかい。いい匂いがする。……ああ、今すぐこの首筋に噛みついて、俺のものだと刻印を上書きしたい。……ダメだ、耐えろアルフレッド、嫌われるぞ!)

 結果、絞り出したのは「安物の宝石を着けるな」という、成金のような暴言。……当然、彼女は泣きそうな顔をしていた。


 ■ 執務室の「宝物ゴミ」について

 引き出しの中身をリリアに見られたときは、人生で一番、心臓が口から飛び出るかと思った。

 あの「実家のリボン」も「クロワッサンの紙」も、彼女が触れたものというだけで、俺にとっては国宝以上の価値がある。

(……それを『呪術の調査用だ』なんて。……どんな言い訳だ。俺はいつからそんな三流の嘘つきになったんだ)


 ■ あの、地獄の「あーん」について

 彼女が倒れたとき、俺は本気で「世界が終わればいい」と思った。

 番の共鳴で、俺の魔力が彼女の負担になっていたのだ。

 回復した彼女に、どうしても自分の手で栄養を摂らせたかった。俺が与えたもので、彼女の血肉を作ってほしかった。

『あーん、しろ』

(……一生言わないと思っていたセリフを言った。恥ずかしさで死にそうだ。だが、彼女が小さな口を開けてスープを飲む姿は、戦場のいかなる勝利よりも俺の胸を熱くした)


 ■ そして、運命の告白

 あの朝。彼女が「愛しています」と言った瞬間。

 俺の理性の防波堤は、音を立てて崩壊した。


(……嘘だ。信じられない。こんな恐ろしい男を、彼女が愛してくれるはずがない。……だが、もしこれが嘘だとしても。彼女が命乞いのために吐いた偽りの言葉だとしても。……俺は、その嘘に一生、縋って生きていく)


 彼女を抱きしめ、口づけを落としながら、俺は神に感謝した。

 俺に向けられた彼女の「恐怖の眼差し」を、俺はあえて「情熱的な視線」だと自分に言い聞かせて、都合よく解釈することにしたのだ。


 今、俺の腕の中で「独裁者だわ……」と震えている彼女。

 ……リリア。

 お前は知らないだろう。

 支配しているのは俺ではなく、お前なのだということを。


 お前の涙一粒で、俺は国を滅ぼせる。

 お前の微笑み一つで、俺は世界を救える。


「……リリア。愛している。……聞こえているか?」


 彼女は「ひっ、はい! 私も愛しています(命だけは助けて)!」と、可愛らしく(必死に)答えてくれる。

 ……いい。それでいい。

 たとえ一生すれ違ったままでも、俺はこの「偽りの愛」を墓場まで持っていき、真実の愛へと育て上げるつもりだ。


 俺の番は、世界で一番、臆病で、勘違いしやすくて……そして、死ぬほど愛おしいのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ