表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

番の儀式

 その日は、私にとって人生で一番「消えてしまいたい日」だった。

 王立神殿の大広間。きらびやかなシャンデリアの下、帝国中の貴族が集まっている。

 今日は、二十歳を迎えた貴族の子女が「運命の番」を見つけるための、一生に一度の儀式の日。


(……早く終わって。お願いだから、誰とも繋がりませんように)


 私はドレスの裾をぎゅっと握りしめて、列の隅っこで俯いていた。

 私は、名門伯爵家の長女でありながら、魔力がほとんどない「無能の聖女」。妹は輝くような魔力を持っていて、家族の期待を一身に背負っているけれど、私はただの「おまけ」でしかない。

 そんな私に、番なんて現れるはずがない。

 もし現れたとしても、相手はきっとがっかりする。

「なんだ、こんな出来損ないが俺の番か」って。


「——次。帝国騎士団総長、アルフレッド・フォン・アスラン公爵閣下」


 神官の声が響いた瞬間、会場の空気がピリリと張り詰めた。

 現れたのは、夜の闇を溶かしたような漆黒の髪に、凍てつく冬の湖のような青い瞳を持つ男。

 若くして「帝国の死神」と恐れられる、最強の騎士だ。

 彼が水晶に手を触れた、その時だった。

 カッ!

 視界が真っ白になるほどの銀色の光が、会場を包み込んだ。


「な、なんだ!? この光は……!」

「これほどの共鳴、伝説の番じゃないか!?」


 ざわめく周囲。私の胸元が、焼けるように熱い。


(嘘……熱い、苦しい……!)


 心臓がトクトクと脈打ち、まるで誰かが私の魂を直接掴んでいるような感覚。

 やがて光が収まったとき、私の鎖骨のあたりには、見たこともない複雑な銀の紋章が浮かび上がっていた。

 そして——目の前のアルフレッド閣下の首筋にも、全く同じ、銀の紋章が刻まれていた。

 会場は静まり返った。

 誰もが、最強の騎士の番が「無能のリリア」だったことに絶句している。

 アルフレッド閣下は、軍靴の音を響かせて私に歩み寄ってきた。

 彼が近づくたび、番の絆のせいで私の体は甘く痺れる。でも、彼の瞳に宿っているのは、愛おしさなんて微塵もない、鋭い刃のような冷たさだった。

 彼は私の顎をぐいと持ち上げ、品定めするように至近距離で見つめた。


「……お前が、俺の『番』か」


 低く、温度のない声。

 私は震える唇で、なんとか答えた。


「は、はい……。リリア・フォン・ベルトランと、申します……」

「ベルトラン家の……。魔力測定で最低値を出し続けている、あの『偽聖女』か」

 その言葉は、私の胸をナイフでえぐるよりも深く傷つけた。

 周囲からは、クスクスという忍び笑いや、「可哀想に、閣下もハズレを引いたものだ」という密やかな声が聞こえてくる。


「……申し訳ございません。私のような者が、閣下の番として選ばれてしまって……」


 情けなくて、涙がこぼれそうになる。

 すると彼は、私の耳元に顔を寄せ、周囲には聞こえないほどの低い声でこう吐き捨てた。


「勘違いするな。番という宿命には従うが、俺が望んだわけではない。愛など期待するな。お前との繋がりは、俺にとって不運な『呪い』でしかない」


 突き放すような言葉。

 けれど、彼の手は私の顎を掴んだまま、わずかに震えているように見えた。

 その時の私は、それが彼なりの「必死な自制」だとは露ほども知らず——ただただ、絶望に目を閉じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ