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第38話 聖剣

 俺は俺の似姿に近づいていく。

 そいつが障壁を張るが、俺はENヘカトンアームですり抜けると顔面に拳を食らわす。

 障壁が荒いんだよ。強度を上げるために網目を太くしている。その隙間がスカスカだ。人体に浸透できるほどの俺のENアームなら素通りも簡単だ。

 俺はボコボコと殴っていくがトドメは刺せない。

「ギンガ。こいつはどうすれば殺せる?」

「それはこの聖剣があれば・・・、駄目!」

 俺の返答に反射的に答えてしまったのだろう。ギンガの胸元から現れた聖剣をギンガが渡すまいとその胸に抱く。

 じゃあ、しょうがない。

 俺に殴られて障壁を出せなくなった俺の似姿に大口径ハンドガンを突き付けて連射する。

「まって! やめてシコル! 彼女は何も悪くないの!」

 そっか。

 俺はダンジョン用拳銃弾ガトリングのハンドバッグを召喚する。こいつは薬莢が出ないから撃ち続けるには最適だな。

「彼女を傷つけないでシコル!」

 このハンドバッグには改良を施してある。左手のトリガーをレバー式にして握りこむことで回転数を変化させられる。

「だったら止めに来いよ」

 俺の言葉にギンガが動くが鎖に遮られる。

 俺がレバーを握りこむと回転数が上がりジャイロ効果で銃身が安定する。ここでは消音化は必要ない。熱吸着の付与をマガジンにかけ、断熱を砲身に付与する。砲身だけに断熱付与をしたら熱がマガジンに篭って爆発しかけたからな。熱で弾丸が変形するがこの距離なら問題ないだろ。


「やめて!!!」


 ギンガの叫びが俺の目の前で発せられる。


 やっぱりあの鎖引きちぎれんじゃねぇか。


 俺はハンドバッグを放り捨てるとギンガの構える聖剣を握りしめる。


「な、なにを・・・」


 案の定ギンガはその手を放す。俺の血が見えたからだろう。

 俺は血の付いた左手を振り払って右手で聖剣を構える。 

 そして後ろの俺の似姿に差し込む。

 変化が起きた。これで殺せる。


 呆然とするギンガを横目に俺は血の付いた左手でハンドガンを呼び出す。


「や、やめて、シコル。まだ話したいことがあるの。まだ、語りたい言葉があるの。彼女はまだ生きているから・・・!」


 俺は引き金を引いた。


ーーー


 結果的に言えばここのボスにはトドメをさせた。やはりイベントボスは倒すためのギミックが必要。ゴリ押しは出来ないのか。

 そしてそのボスは最後に言葉を残した。


「ギンガなんて大っ嫌い! もう二度と会いたくない! さようなら!」


 ・・・喋れたのか。いや何か話していたが異世界語でわからなかった。


 それを聞いて放心したようにへたり込むギンガ。

 俺はそれに付きあって隣に座っている。


「フラれちゃった・・・」

 ギンガがぼそりと呟く。

「何をしたんだ?」

「えと、ね。私は、えと、彼女は私に世界を救ってほしいって頼んできたの」

「出来たのか?」

「出来た。私なら出来た。彼女を、死なせて、聖剣の封印が解ければ、私が世界を救えた」

「・・・しなかったのか?」

「うん。しなかった。彼女は私が世界を救う所を見せてって言ったの。だけど、出来るわけないじゃない。だって死んだら見せられないじゃない。死んだら何も残らないじゃない」

「助かったのか?」

「助か、た、助けえ、ら、れな、た」

「・・・」

「彼女は私に助けてって言ってくれなかった。だから、呪ったの。彼女が私に助けを求める様に」

「・・・」

「だから彼女は『助けの言葉』しか口に出来なくなった。ほ、本当の、ホントの、『救いの言葉』を彼女は紡げなくなった」

「・・・」

「だから、私は救世主ではなくなったの。か、彼女から逃げたの」

 そこまで言うとギンガは大粒の涙流して静かに泣いた。


「・・・シコル、聞いてくれる?」

 しばらくしてギンガは口を開いた。俺は素直に頷く。

「もう何でも聞くぜ」

「うん。本当はね。もう彼女と言葉を交わすことは出来なかったの。生まれ変わっても、世界が変わっても、それは叶わない筈だった。それが、たった一言でも彼女と話せた。フラれちゃったけど。彼女の言葉を聞けたことが、この全ての世界の中で一番嬉しかった」

「あれがただ一人の愛した女性って事か?」

「そう。居なくなっちゃったけど。フラれちゃったけど。それでも私は彼女を愛したことだけは後悔しない」

「そっか。俺は余計なことしちまったかな?」

「ううん。シコルじゃなければ彼女を止められなかった。私じゃ、出来なかった」

「ならよかったぜ」


 ギンガは一息つくと立ち上がり、微笑んだ。

「・・・彼女がこんな私を愛し続けてくれるわけがなかった。フラれて当然、でも・・・」

 ギンガは天に向けて言葉を放った。

「彼女と一度だけでも言葉を交わす事が出来た。私は救われた。神様、私の望みは叶ったよ。だからもう一度この名を拝命する。私は救世主ギンガ。この世界を救うためのつるぎをこの手に再び握りしめる!」


 ギンガは聖剣を手に天を突く。


「・・・え、と。シコル、名前付きを拝命した私の使命を聞いてくれる?」

「お、おう。なんだぜ」

「072の防衛。何もしてくれるなって」

「ブホォォォ!!! 何のためのイベントだったんだよ!」

「きっと、神様の粋な計らい。そう思う事にしておく」


「でもシコル。あれは何だったの? あんなに意地悪なシコルは始めて見た」

「いや、あれはさ。俺の顔した奴がギンガを虐めてるんだぜ。流石に頭に来たぜあれは。絶対ギンガに止められない様に立ち回ったしな」

「・・・凄く意地悪だった。百年の恋が冷めるほどに」

「あれ、俺、フラれちゃいました?」

「そう。恋は終わり。重婚申請をする。シコル。覚悟は良い?」

「いやそれ出来るのかよ!?」

「同性婚では出来た。もうシコルをお人形には出来ない。私をあなたの妻にして。シコル・ギウス」


ーーー


「シコルさん! おめでたいけどドン引きです!」

 ここはギルド本部。あっさりと重婚は通ってしまった。

「ありがとう! いくらでも罵ってくれアレス!」

「罵りますよシコルさん! すけこましシコル・ギウス! 女ったらし! 男の敵! 豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ!」

「アッハハハ! 心地いいぜアレス! 史上最低の重婚TS野郎シコル・ギウスとは俺の事だァァァ!!!」


「本当にいいのゼロス?」

「間違いが起きても問題ないならそれでいい」

「独り占めしたいとは思わないの?」

「もうしてるさ。俺はシコルからあり得ないほどのものを貰っている。これ以上は俺が貰いきれねぇな」

「それはわかる。けど、私がシコルを愛することにあなたは耐えられるの?」

「お前が男だったら殺していたな。女同士は正直ノーカウントだ。俺が止めようとしたのはBANの危険だけだ。嫉妬はほぼねぇぞ。BANの危険はないだろうな?」

「勿論。そこは信用してもらって構わない。シコルを私に取られるとは思わないの?」

「ギンガ。シコルがどっちかだけで満足すると思うか? 俺は思わねぇな。TS落ちなんてする奴だ。その強欲さは俺達の比じゃねぇぞ」

「シコルが強欲?」

「ああそうだ。アイツは何もかも手に入れたがる。無欲に見えるがその実全てを手に入れる。実質そうなってるだろ?」

「それをシコルが意図している?」

「まさか。だから退屈しねぇのさ。ギンガ、お前もアイツの配偶者になったんだ。覚悟はしておけよ。それこそいつかのお前の言葉だ。シコル・ギウスはこんなものじゃ終わらない。お前は付いて来られるのか?」

「・・・食らいつく。私はもう何も失わない。シコルが一緒に居てくれるから」

「あいつの強欲さにあてられるなよ。欲をかくのはアイツだけでいい」

「そう。あなたもなのねゼロス。わかった。私も欲はかかない。シコルには欲情するけど」

「お前も気を付けろよ。TSの同性愛なんて経験ないだろ。自分の体がどう反応するかもわからねぇ。シコルの方もな。これは俺からのアドバイスだ」

「わかった。ただそんなに踏み込んだ事にはならない。ただ一歩踏み出したいだけ。シコルが望んだらそれには応えるけど」


「おいシコル。いつまでおちゃらけてやがる。いい加減向き合え」

 喚いている俺の所にゼロスがやってきた。

「わかっちゃいるぜ。だけどな、俺の国では重婚は重罪だ。それを受け入れるには時間が要るってんだよ。ゼロス、お前が良いって言ってもな」

「嫌だったのか?」

「嫌じゃねぇ。ただ俺の中で折り合いがつかねぇんだ。犯罪侵して幸せにするって言葉が出てこねぇ。ここは日本じゃねぇってわかってはいるんだ。重婚できるって事はここでは合法。天罰も来ねぇ。ただ俺の価値観が邪魔してる。これはいいのかってな」

「だったらコイツだな相棒」

 ゼロスは右拳を振り上げる。俺はそれをもろに食らってもんどりうつ。

「何が気に入らないって? 行ってみろよシコル・ギウス」

「言ってやるよ。怖ぇんだよ。幸せにするって言葉が出てこねぇ。俺はTSで重婚のクソ野郎だ。生きてる価値のないゴミクズだ。それがなんでギンガを幸せに出来る。答えてみろやァァァ!!!」

 俺の拳がゼロスに刺さる。だがゼロスはまるで怯まず言葉を続ける。

「出来るんだよシコル・ギウス。お前にしか出来ねぇんだよ。他に誰が出来るんだ。お前しかいねぇんだよ半端なゴミカス野郎!!!」

 クソ。殴られた顔よりも心が痛ぇ。

「怖ぇよ! ギンガが泣くのが何より怖ぇよ!」

「俺ん時お前は何をした? 泣きながら笑ってくれたじゃねぇか。逃げねえって笑ってくれたじゃねぇか。そんなお前が自分の女は信じられねぇのか? シコル・ギウスが愛したギンガって女はそんなにクソな女なのかって聞いてんだよTS野郎!」

「そんな訳ねぇだろ!!! ギンガは最高の女だ!!! 絶っ対ぇ俺は幸せになるに決まってんだろ!!!」

「だったらギンガも幸せだろうが! なにが怖いんだシコル・ギウス! 言ってみっろよ!」

「俺は、え、と、なんだっけか! 俺は幸せになる! ギンガも幸せになる! だったらなんだ! なんだっけか!」

「重婚が犯罪だって話だ。重婚して幸せになったお前らはクソか?」

「・・・違ぇよ。そんな事はねぇ。ウルトラハッピーな新婚生活だ。ギンガと一線超えちまうしな。ヘヘッ」

「まだ何かあるかシコル?」

「あー。思いつかねぇや。・・・ありがとうな相棒」

「俺はお前のダンナ様だからな。行けよ重婚野郎。俺は受けいれたぜ」


「あ、ギンガ。遅くなっちまった。重婚した後に言うのはなんだけどよ。ギンガ、お前を幸せにする。約束だ」

「・・・」

「ギンガ?」

「シコル。今は私が怒っているのはなんでかわかる?」

「悪ぃ。遅すぎたか?」

「なんで今のを私とやらないの? それは妻である私とすべきじゃなかった?」

「いや、待てよ。俺はギンガと殴り合いはしたくねぇぞ。絶対に傷つけたくねぇ! 誰よりも大切にしたいからな!」

 俺の言葉でギンガの怒りは収まったようだ。

「・・・それは、伝わった。うん。ゴメン。嫉妬してた」

 ギンガは一息つくと言葉を繋ぐ。

「シコルの、男の子、カッコよかった。惚れなおしたかも。私のアナタ」

 グホォォォ!!! ギンガの笑顔が刺さりやがる!!!

「じゃあシコル。今から仲直り。一晩中、いてくれる?」

「お、おう。任せろよ。体は女でもやれることはやるぜ!」

 これからギンガとウルトラハッピータァァァイム!!!

「行ってくるぜゼロス!」

 俺は相棒と親友を背に新たな戦いに挑む。

 俺達の戦いはこれからだ!

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