第36話 ギンガ先生とシコル君教室
※全年齢のため寝室での衣服の描写を避けます。各自の妄想に期待します。
「じゃあシコル。書いてみて?」
俺が072に戻るとギンガの私室に連れ込まれた。
072は拍子抜けするほど何も変わっていなかった。
まるで何事もなったかのようにあの時のまま。
でもそれが、なんだか嬉しい。
ゼロスが言っていたな。
この世で一番尊いのは平和と静寂だ。これに勝るものは無い。
確かにこの旅で一番痛感したのはここだろうな。
街は平和だ。
俺の波打つ鼓動以外は。
俺とギンガはベッドに横になって向き合っていた。
ギンガの銀髪とその銀の瞳が俺の目を捕らえて離さない。
俺はそっと手を伸ばすとギンガに渡された金属製のペンでギンガの頬に触れる。ペンと言ってもただの棒だ。インクもなく、何かを書く事は出来ない。
それを分かっていて俺はギンガの頬に文字を書く。
シコル・ギウス。
俺はギンガの言う通りにギンガの頬に俺の名前を書く。
シコル・ギウス。
俺の名前をギンガに書きつける。
「よくできました。シコル。自分の所有物に名前を書くのはどんな気分?」
「た、たまりません! ギンガ先生!」
「シコル君? 真面目な授業中に何を考えているの? ちゃんと私に集中して。次はどこをシコルの所有物にしたい?」
ノォォォ!!!
「さ、鎖骨は、いいですか先生」
「勿論。私の全てはシコルのもの。ちゃんと名前を書き込んでね」
グホォォォ!!!
俺は震える指で、首筋に自分の名前をギンガに書き込む。
「ギンガ先生! 動かないでください!」
「鎖骨よりもこっちの方がくすぐったい。シコルは鎖骨よりも私の弱い所を自分の物にしたいんだ?」
アアァァァ!!!
「ギ、ギンガ先生! もう耐えられません!」
「しょうがないシコル君。じゃあギンガ先生がお手本を見せてあげる」
ギンガが新しいペンを召喚すると俺の唇に文字を書き込む。
それは一瞬だった。
ギンガの名前が書きこまれた。その事実が敏感な唇の感触から伝わってくる。
「・・・」
「シコル。唇を私のものにされたからと言って黙らないでいいの。これは占有権を主張するだけで共有財産。二人のもの」
「お、俺、既婚者なんですが」
「これはシコルの心の占有権。何も書かれていないでしょう? シコルが書かれた事実だけを記憶していいればいいの。簡単でしょう?」
ンンィゥゥゥ!!!
「次は何処を私のものにしようかな。・・・シコルの胸はどう?」
「そ、そこはアレシスのものだから! アイツを抱きしめるための場所だから!」
「そう、じゃあそう書き込むわ。ア・レ・シ・ス。なんだか妬ける。そんなにアレシスを愛しているの?」
「息子、だからな。アイツの場所は残しておきたい」
「シコル。・・・シコルシコルシコル」
ギンガは何かに目覚めたかのように俺の名前を呟くと、そのペンが俺の右腕を走る。そこにはありえないほどの数のギンガの名前が彫り込まれていく。彫り込まれていくと言っても跡があるわけじゃない。ただ俺の脳に、肌に刻み付けられたギンガの名前が俺の中に刻み付けられていく。
「ハァ。シコル、大好き。シコルの全てを私のものにしたい。シコルの男の子は絶対に私のもの。シコル。私の初めての男の子はシコルに捧げたい」
「ああ。そっちの探求はだいぶ後になっちまったがな」
「それでいい。この恋がずっと続くならシコルはシコルのままでいい」
「ギンガは俺の全てを受け入れてくれるんだな」
「恋人だもの。シコルも私の全てを受け入れてくれてるじゃない」
ギンガが微笑む。
ンンィゥゥゥ!!! 可愛すぎる!!! 俺の心の男の子が持ちあがりそう!!!
「お、俺のギンガに書き込んでいいかな・・・?」
「どうぞ。私はシコルのギンガ。ちゃんと名前を書き込んでね」
「あああっぁぁぁーーー!!!」
俺の脳は焼き切れた。
ーーー
「おいシコル。お前ギンガとどれだけ激しいことしたんだ?」
次の日、ここはいつもの食堂、、いつもの四人、俺とゼロスとギンガとアレスだ。俺は朝のゴッドゴーギャンフルヘルスキャノンの砲声で目を覚ませず、今は昼食だ。
「そんな大したことはしてねぇよ。体じゃなくて脳だよ。脳っつうか心だな。天罰や魔物堕ちはない安心しろよ」
「それが安心できねぇんだろうが。俺に言えないような事をしているんじゃねぇかって話だ」
「ゼロスにはつまらない話だぜ。俺とギンガだから通じる話だ。今日のベッドでやってもいいが期待するなよ。お前と俺じゃうまくいかねぇってすぐにわかるぜ」
「それは俺が決める事だ。ギンガはそれでいいのか?」
ゼロスがギンガに話を振る。
「勿論。恥ずかしい事は何もしてない。ただシコルと共有しただけ。私はそれで満足。あなたはそうじゃないのゼロス?」
「シコルは俺の嫁だ。それは理解しているな?」
「理解している。そしてそのシコルと私は感情を共有している。あなたはそれすら許せないの?」
「ああ許せないな。俺のシコルの心を奪おうってんだからな」
「奪ってない。シコルはあなたを愛している。それは理解している? シコルの全てを奪っているのはあなたでしょうゼロス? シコルがあなた以外に心を開かなくなるまでそれを続けるつもり? それはシコルの敵ではないの?」
「・・・シコル。今日の夜に全て話してもらうぜ。判断はそれからだ」
ゼロスが重い口を開いて俺に向く。
「いいぜ。だけどな、ゼロスが言うほどの事は無いと思うぜ。拍子抜けしても知らないぜ?」
「それでもだ。俺の平穏を崩す気はねぇだろうな?」
「俺はそんなことしねぇよ。もう全部俺のダンナ様に捧げちまったからな。ギンガとの関係は・・・、ただの恋人、でいいよな」
俺はギンガに確認する。
「勿論。私はシコルの味方。ゼロスがシコルの敵になりそうだから牽制しただけ。私達は私達からもシコルを守る。忘れたのなら思い出させるけど?」
ギンガの言葉にゼロスは溜息をつく。
「忘れてねぇ。ギンガ、お前が忘れてねぇならそれでいい。今日の夜は俺のシコルだ」
「ええ。それでいい。シコルをちゃんと大切にしてね」
ーーー
「・・・正直ここまでこじれるのは意外でしたね」
俺とアレスは俺達第072冒険者ギルドの野外訓練場で訓練をしていた。
「そうか?」
俺は聖母のストレージにあるMP強化系の施設を見ながら返事を返す。
「はい。シコルさんが結婚して落ち着くと思っていましたが、バチバチでしたね。シコルさんはどちらかを選ばないんですか?」
「選べねぇよ。俺は俺の気持ちに素直に生きるぜ。何のためにこの地獄に落ちて来たんだよ」
「・・・そうですね。ある意味魔物堕ちは自分に素直に生きられる人間に起きるのかもしれません」
「ああ。地獄に落ちて体裁を整えてもな。俺がここに居るのは俺の仲間がここに居るからだしな。俺が嘘の気持ちで向き合ったらアイツらは俺を仲間だと言ってくれるか?」
「難しいですね。シコルさんがシコルさんでいることが最善。そこまでお二人を信じているんですね」
「お前もだろアレス。部外者面してるが・・・。わたしのお姉ちゃんムーブにメロメロだろ♡」
「残念ですがそれはもう効きませんよ。僕の中でシコルさんは神格化されていますからね。信仰する神が裸で迫って来ても情欲は起きないでしょう?」
「なんだかそれはそれで嫌だな」
「これ以上ゼロスさんを虐めないでください。ですが僕も新しい恋がしてみたいというのは感じています」
「相手が居るのか?」
「いえ、シコルさんとゼロスさんが結婚出産してからそういう動きが活発化していますからね。良い事も悪い事もですけどね。良くも悪くもチルドレンは増えるでしょう」
「そっか。惑星ファンタジーナンバーワンのギルド長とその聖母が子供を成す。しかもその聖母は窮地に陥れられてそれを夫と子供が助け出す。そんなお伽噺が生まれたんじゃな」
「当事者のあなたがそれをいいますか」
「実感がなさ過ぎてな。その聖母って誰だよって感じだな」
俺はその聖母のストレージにあるMP強化系の塔を設置する。
MP回復塔、最大MP強化塔、MPコンバータ塔。
回復と最大強化はそのままとしてコンバータは消費MPの軽減だな。
「これは凄いですね。どこに行っても腐らない最高のジョブ特性じゃないですか」
「ただこれ移動が出来ないな。ヘカトンケイルで動かせても、効率が落ちて効果が減る。嫌がらせで塔ってわけじゃねぇな」
少し揺らしてみるがそれだけでも効果が落ちる。完全に防御していないと効果が発揮されない。守れないようなら効果が落ちても移動させた方が良さそうだな。
「これほど強力な唯一無二の特性ですからね。神からの指示は何もないんですか?」
「ねぇな。なんで聖母になったかもわからねぇ。その内神の啓示が来るのかもな。それまでにはものにしておかねぇとな」
聖母といい一兆Gといい。待遇が破格すぎる。これも俺が寄越せと・・・、ん? 俺は何処かで一兆Gを寄越せと言った気がしたが、流石に気のせいだな。
「本来なら拝命した時に伝えられる筈ですが、この囚神監視惑星で野放しはないでしょうしね。あれ自体がイベントだったというのが真相でしょう」
「そっか。衆神環視惑星であれだけ注目されればお役御免か。ま、スローライフのために鍛えておくのは悪くねぇな」
俺はMP強化塔の出力を上げていく。広域ではなく収束。そして俺自身に直結する。
凄まじい量のMPが俺に集中する。
これはオーバーパワーだな。強化することはなさそうだ。
ーーー
「これか? これがそうなのか? これに何の意味がある?」
この日の夜。ゼロスの私室。
ゼロスに昨夜のギンガとのやり取りを教えると案の定混乱していた。
「そうだぜ。この書けないペンで名前を記入して自分の物ってだけの遊びだぜ」
ゼロスは手に持ったペン型の金属を手で玩んでいる。書き込む気はなさそうだ。
「だから言っただろ。大したことじゃないって。ゼロスと俺じゃ意味がないってわかったか?」
それでもゼロスは悩む様にペンを玩んでいる。そしてようやく重い口を開いた。
「・・・シコルの性癖に刺さったのか?」
「違うって。俺とギンガだから成立したオママゴトなんだよ。俺達がやっても意味はねぇ。やってみろよ。本当にそれだけだからな」
ゼロスの手が伸び、俺の頬にゼロスの名を書く。
「それで所有権を主張するっていう遊びだぜゼロス。ギンガに言わせれば心の所有権だけどな」
「さっぱりわからねぇぜシコル。お前には刺さったのか」
「だからギンガと俺だからだって言ってるだろ。他の奴とやっても無理だぜ。俺にしてもギンガ限定だ。ゼロスがこれに夢中になる姿は見たくねぇぞ」
「だろうな。・・・ギンガだけの領域という事か」
「ああ。ギンガだけとの行為だな。なんかすごくエロかったぜ」
それを聞くとゼロスが俺を抱きしめる。その手に持った召喚魔法金属ペンが床に落ちる前に消えてなくなる。
そして俺の背中に俺の名前。シコル・ギウスと指でなぞる。
「シコル。俺の名前を書き込んでくれるか?」
俺は抱きすくめられている体勢だ。背に手は回せない。ゼロスの胸板にゼロスの名を指でなぞる。
「俺ならこうする。俺はゼロスで、お前はシコル・ギウスだ。所有権なんかねぇ。俺はお前を抱きたいんだ。お前を俺のモノにするのはお前がシコル・ギウスだからだ。俺の名札の付いたお前じゃねぇ」
さらに強く抱きしめてくるゼロス。
う。こんなに苦しいのに安心感が俺を支配する。
「ゼ、ゼロス。もっと安心したい」
「任せろ。俺のシコル・ギウス」
そして、夜は更けていった。




