第35話 帰途
「あんた! なんてことしてくれるのよシコル・ギウス!」
それはアリアの怒号から始まった。
まあ、その原因は俺にあるのだが。
1兆Gの使い道を模索している時に、今回の俺、サイボーグ体のコールドスリープ棺が結構な被害を出していたようで俺はその補填として街の強化にGを使う事にした。
ここは神の人工物042。
俺の棺、略してヒツギ・ギルスがもっとも暴れた場所だ。だからこそここに多大な還元をしようと俺はギルド権限で042にサブギルド本部を設立。そしてゴッドゴーギャン×5体を設置。その100億Gを超えるGの投入で街のレベルは上がり、復興が爆速。よしこれから全ての街にゴッドゴーギャンを光臨させよう! となった所だ。
そこで冒頭のアリアだ。
ここ042はアリアのギルド『レディーファースト』の本拠地だ。
そこに俺達惑星ファンタジーナンバーワンギルドである『第072冒険者ギルド』が多大なGの貢献をした。
どうなるのかと言えばこの042の統治権が俺達に回ってくる可能性が出てくる。アリアからしてみれば本拠地の横取りに等しいという事だ。
「いやそんなことしねぇって。還元だろ。わかるだろ」
「あんたホントにアホねバカシコル。信用してるって言いながら殴りかかってきてんのよあんたは! わかれ!」
「いうても必要だろ。ここもそんなに発展してねぇだろ。こんな辺境でこの発展レベルは低すぎだろ」
「あんた。それどれだけあたしらを侮辱してるのかわかるわけ? あたしらに恵んでくださるおありがたい聖母シコル・ギウス様? 蹴り飛ばされたくなければ今すぐに謝るのよ。それとも弱小ギルドに下げる頭はないっていうの?」
「うぐ、ごめんなさいわるかったですありあさまのいうとおりですすみませんした」
「わかればいいのよアホシコル。あたしじゃなかったらギルド間抗争だっての。あんたはどれだけヤバいことやってんのか理解しなさい! 取り合えずやるときは本拠地にしてるギルドが居ないのかの確認。そして許可。わかった? 罰則も法律も天罰もないけどやるのよ! わかった!?」
「わかった。だけどよ善意なのだけは信じて欲しいぜ」
「疑うわけないでしょ間抜けシコル。会いに来てるのがその証拠よ。ゼロスはどうしたの? アイツが居ればこんな事しなかったでしょうに」
「いや、普通にサブギルド本部が建てられたんだが?」
「・・・あんたそれもしかして結婚してるからじゃない? ギルドマスター権限が夫婦で共有なんてそんな仕様、聞いた事ないけどありえそう」
「え、マジかよ。もしかして俺やっちゃいました?」
「やっちゃったわよ。またとんでもなく仕事増やして縁切られても知らないわよ」
「ぐ。アリアも協力してくれねぇか」
「勿論よ。当事者だもの。それにしてもあんたホントに聖母様なの?」
「さっきも気になったけどよ。何でアリアが俺が聖母だって知ってるんだ?」
「あんた。ユニオンで噂もちきりよ。惑星ナンバーワンギルドに新たな名前付き、聖母シコル・ギウスって。またなんかのランキングに載ったんじゃない?」
ぐ。まさかの一兆Gかァァァ!!! 早く使い切らなくては!
「シコル。あんた寝ていただけなのにどうしてこんなに問題起こすのかしらね。聖母らしく大人しく寝てれば?」
「いや、俺が好き好んで聖母になると思うかよ」
「思わない。シコル、あんた前世の記憶はある?」
「なんだよ藪から棒に」
「あたしの聞いた話だけど名前付きは特殊らしいのよね。転生しても記憶が消えない。一番手っ取り早い確認方法がこれだったんだけど、あんたはねぇ。どう見ても例外よねぇ」
「確かにねぇな。もうだいぶ忘れてるぜ。前世の名前もな」
「でしょう? 普通はそうなのよね。前世の記憶なんていつまでも引きずらない。名前付きの定義も絶対じゃないってことか」
前世の記憶か。もう日本人だという事しか憶えてねぇな。そしてVRゲーム。もしかしてここはゲームの世界、と言いたくなるぐらい死因も憶えてねぇな。
「アリアはあるのか?」
「多少はね。ただ、あたしは、話したくない。消えるなら消えて欲しい記憶ばかりだから」
「悪ぃ」
「良いのよ。お陰でこの体が使いやすいしね」
アリアは笑っているがその手足は未だにサイボーグのままだ。
ま、邪推は止めだな。
「どうやら一段落付いたようだな」
ここでゼロスの登場だ。間違いなく機を見ていたな。
流石のゼロスもお冠。こっぴどく叱られた俺はこんどやったらケツ穴確定な、の刑を科されることになった。
やりたいのか? という俺の問いに、やらせたいのか? と答えるゼロス。
おかしな性癖でないのだけは助かったぜ。
ーーー
そして話し合った結果、ギルドテレポーターの設置を進めようという話になった。
この042は僻地で使徒も戦闘も少ない。だからこそゴッドゴーギャンが多数いてもいいが、これが激戦区だとゴッドゴーギャンの実入りが俺達に入って激戦区にGが落ちなくなる。だからこれは各街と協議の上だな。
それよりも誰も設置したことのないギルドテレポーターなら転移の大動脈を構築できる。そんな形でまとまったのだが次の街で早速問題が出て来た。
俺達はG産アレグシオンで次の街へ向かう。
ーーー
「俺達の052では禁止させてもらうぞ」
ここは052。激戦区の中央区。要塞化された街だ。元ナンバーワンギルド『ゼノン騎士団』騎士団長、じゃないギルドマスターゼノンの答えはこうだった。
見るからに巨漢の白髪白濁した瞳に白髭。強さを形にしたような老齢の男だ。
彼らの理屈はこうだ。
テレポートが主流になれば街の行き来が無くなる。それはつまり敵の発見が遅れるという事だ。便が良くなっても危機を呼び込んでは意味がない。
そこで俺達『第072冒険者ギルド』はフリーパス。それ以外は統治したギルドの許可を必要とすることになった。
そして使用はギルドメンバーのみ。使徒や住民のふりをした『何か』が居るのは間違いない。魔物球体はギルドマスターであるアリアにもつけられたが、それをつける側の移動は防げるだろう。
実質俺達だけが使えるテレポーターだが、緊急時には全てのギルドで役に立つだろう。
それにしても052は見ため通りの激戦区。こちらの手は必要なさそうだ。手を貸すとすればGよりも俺達自身だろうな。
最初はクソジジイだと思ったが、こちらに思惑がないと知れれば話は早かった。特にゼロスと息が合う様だった。俺には小言が多かったがゼロスの才能を見極められるなら俺に悪印象はない。
俺の出番はさっさと終わってギルドマスター同士の話し合いとなった。
にしても同席していたサブマスターのメイド風の執事女性は可愛かったな。俺もあれを見習って・・・。
無理だな。それより俺は聖母風の佇まいを学ぶべきか。
ーーー
神の人工物069。ゼノンがテレポーターを嫌がる理由が理解できる街が現れた。
069は俺達072の真北。7thパレスの更に北の山脈を超えた湾内にある。
ちなみにアリアの本拠地042は更に北、海岸線を伝っていける。
ゼノンの052は真西。072を北上しての069への直通は無理だから052経由で行くことになるだろうな。
まあ、多分俺達がここ069に来るときはここが陥落した後だろうがな。
もうやばい。この惑星ファンタジーで遊園地を作ってやがる。
それ自体は良いんだがそこに巣食っている使徒がもうやばい。魔物堕ちが当たり前。俺も実際に襲われた。とてもではないがギルドに辿り着ける雰囲気じゃない。俺達は早々に諦め周囲の街にゴッドゴーギャンを設置する。
流石の俺もあそこにテレポーターとは言い出せない。俺のゲーマーとしての感だが間違いなくあれはイベント用だろう。
使徒の街、神の人工物でも魔物堕ちするという実例になりそうだ。
俺達の072もそうなる手前だったんだろうな。
ここは天国じゃない。それを知るためには良いイベントだったな。
ーーー
そして俺達は第072冒険者ギルド所属の高速地上航行船に乗って帰路に付いた。
この高速船はGアレグシオンに比べて小型で武装がない。俺の棺を運ぶのに使っていた船だそうだ。それが途中から俺の棺が暴走し、それを追いかけるのにGアレグシオンとアリアに合流、042へという流れらしい。船名は未だになし。
その停泊された高速船に俺達は乗り継ぎという形だ。
だがアレシスは俺達とは来なかった。
アリアと共にこの世界を見て回りたい。
それがアレシスの言葉だ。
そうだよな。散々俺達夫婦に付き合わせたんだ、好きな道を選ばせたい。
ジョブはチルドレンのまま、ギルドはアリアのレディーファースト。勿論第072冒険者ギルドのSSSランク冒険者カードは持たせてある。あれには何の効力もないが永続化の付与がアレシスの助けになるだろう。
アリア達はあの崖下に落ちたアレグシオン一世号の所に行く様だ。
アレシスは非G産の技術に興味津々だからな。これが決め手だろう。
アリアはアレシスを頼む時にペコペコする俺に戸惑っていた。これが日本式だと言うと納得していたが、アリアは日本人ではなかったのかもな。黒髪ツインテールなのにな。
そして我が072が見えて来た。
お留守番のギンガは元気だろうか。早く会いたい。
ギンガの守ってる072なら何の問題もないだろうしな。
ーーー
Tips補足。
今回の072以外の街の状況は真の主人公アレシスとアリアの物語に関係する。シコルの物語には出てこないのでザックリと存在だけを示唆。
今回必要な情報は『第072冒険者ギルド』がギルドテレポーターの大動脈を築き上げた事。これをシコルたちが握っている。シコルがこれを悪用することはないがゼロスがユニオンの交渉を有利に進めるうえで活用。
この手の情報はシコル視点では語られないのでここに追記。




