第十話 出会い
「そう言う事は先に少しくらい説明しておいてくださいよ。はぁ~」
しばらく田中さんから、ギルド職員の前田さんに喜八郎の事についてどこまで知っているのかまたフェン丸やピーちゃんの事についても追及が止まらなかった。それはそうだろう。探索者のほぼ全てに当てはまると言っていいが、好奇心旺盛な者が多いのだ。未知なものや未確認への追及。はたまた知識欲。田中さんは特に知識欲からの追及のようだった。
それに対して喋って良い物なのか喜八郎の顔色を伺うように少しずつ説明していく前田さん。もちろん喜八郎もこれまで少しの間だが、行動を共にして田中さんなら喋っても大丈夫だろうと言う安心感があったので補足していった。守り神人の事。これまでの生活。前田さんも知らなかった事実に目を丸くしていた。
「すみません田中さん。なんだか俺、だましたようになっちゃって。」
「いや大門君が謝る事ではないよ、それに《《得難いもの》》を見せてもらって、僕なんかは足元にも及ばない存在だと言う事が分かってすっきりしたよ。」
先ほどとは打って変わって晴れやかな表情となって満足した田中さんは笑顔を見せた。
「__それでこの事は・・・」
「わかってるよ、この事は僕の心の中だけにしまっておくよ。ただしいずれ世間は君をほっとかないと思うよ。それだけの存在なのは自覚した方がいい。」
それから田中さんはこの日本の探索者について、喜八郎にわかる様にゆっくり丁寧に説明してくれた。
自らの意思で探索者となり、それぞれが目的や夢を持ち、それを己の力で掴むために。ある者は世に名前を売りたい者もいる。自らの探索を動画で配信したりして人気の探索者がいたり、ある者は富を求め、またある者は力を求め。自己責任ではあるが自由度は無限だと。それに真剣に耳を傾け頷きながら聞く喜八郎も己の前に明るい道が開かれた気がした。
「君は《《どんな探索者》》になるんだい?」
「__俺が探索者に・・・?」
今までの喜八郎には自らの選択肢は無かった。
八代目守り神人。
それが一族の全てであり使命であり、宿命。
他の生き方なんて考える暇は無かった。常に原初のダンジョンと向き合い。如何に己を鍛え魔物を倒すかだけに真剣に200年もの年月取り組み続けた一族の末裔。
その任を解かれたあの日から、喜八郎はまるで《《はぐれ雲》》の様に気の向くまま過ごしていた。目的もなく己の気の向くまま散歩したり昼寝したり、釣りを楽しんだりと。原初のダンジョンの閉塞に成功して心晴れやかなはずなのに。落ち着かないような居心地が悪いような自分でもわからない気持ちに心は沈んでいた。
「そうだよ。これからは自由に、それに君の可能性は無限大だ。」
その言葉に喜八郎は目頭が熱くなる思いだった。守り神人の任を解かれた喜八郎は、実は心にぽっかりと穴が開いていたのだ。財には困らないがこれから何を目的に生きていくのか・・・。その心の靄が晴れるような気持になっていくのを感じたのである。
そして皆は応接室を後にしてギルドロビーへと戻った。
「「田中先輩お久しぶり~」」
田中さんに声を掛けてきたのは福岡を代表するA級探索者の早乙女姉妹だった。
一人はピンクのツインテールに一人はピンクのポニーテールで顔は二人とも美人で、そっくりだった。
「早乙女姉妹か、久しぶりだな。活躍はチェックしてるぞ~。」
田中さんは、早乙女姉妹がここ福岡にて初ダンジョン潜入時からの指導員として成長と活躍を見てきており、A級探索者となった姉妹も未だに田中さんの事を先輩と慕っている。
この事からも田中さんの人柄が、良くわかる。
「えへへ、先輩の指導のおかげです。_そちらの見かけない人は?新人さん?」
「あぁこちらは《《超ド級》》の新人。大門喜八郎君だ。」
「早乙女麗華です。」「早乙女凜々華です。」
「どうも大門です。」
「「すっご~い。背高~い。」」
190cmの喜八郎と160cmの早乙女姉妹が並ぶと大人と子供くらいの差があった。二人の人懐っこい性格と、その《《距離》》感に戸惑いつつも早乙女という名前に憶えがあり、その面影のある二人に喜八郎は聞いてみた。
「早乙女早苗って、佐々木のじっちゃんと一緒に来る女性とよく似てる気がするけど?」
「「え、お母さん知ってるの!?」」
話をよく聞くと探索者協会副会長秘書の早乙女さんの娘で有る事がわかり、喜八郎も昔からよく知る早乙女早苗秘書の話題で、一時盛り上がった。喜八郎の母と同じ名前の早乙女早苗に母の姿を照らし合わせていたのかもしれない。
「もしかして副会長とお母さんが良く行く所といえば、伝説の__守り神人!?」
そうなのだ、姉妹の母である早乙女早苗は、娘たちに伝説の人物としてこっそり話をしていたのである。
「えっと。たしかにオラが、__八代目守り神人だけど?。」
「「えぇー!!実在したんだ!!」」
A級探索者の登場という事でもロビーの注目が集まっているのに何やら知り合いの様に仲良く大声で喋る様子にさらなる注目と囁き声が上がり始めた。
またしても早乙女姉妹も連なり奥の応接室へと戻る一行であった。
喜八郎を中心に、今大きな渦が回り始める音が聞こえてくるようだった。自分たちの母親や佐々木副会長とも昔から縁がある喜八郎に興味津々の早乙女姉妹。もとより人懐っこい性格で、他人との距離を詰めるのも早い性格なのか姉妹の間に挟まれ質問責めにあう喜八郎はたじろいでいた。
「_それで、できたらこの話はここだけの物にしてくれると・・・。」
「それは、分かってる。でも今度コラボはよろしくね。」
「良く分からないけど一緒にダンジョン行こう?って事かな?。」
「「そう、それが大事。」」
良く分からないまま次のダンジョン配信に一緒に行く約束をしてしまった喜八郎。
隣で額に手を当てて憂いている田中さんと前田さんを横目に、連絡先を交換する早乙女姉妹は満面の笑顔だった。




