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オルゴールが止むまで雨宿り

作者: 絹ごし春雨
掲載日:2025/12/31

 オルゴールが鳴っている。

カロン、カロン。

トロイ・メライ。



「こんにちは。また聞いているの?」


「ごめんなさい、マスター」


この喫茶店は居心地が良すぎる。

ついついオルゴールに手を伸ばしてしまうのが悪い癖だ。


「お邪魔だったかしら」


ちらちら見ても、他のお客さんは居ない。


「今日は、雨ですからね」


マスターが、穏やかに微笑んだ。


コーヒーの匂いと、マスターの声と、かつて愛した人が置いていったオルゴール。


懐かしい空間。


「それ、大切なものなんですよね?」

「ええ、まあ」


私はオルゴールを撫でる。

でも、


「もう、わからないんです。

顔も、声も……遠すぎて」


「……」


目の前に紅茶が差し出される。


「え?」

「たまには、いいでしょう。私から、サービスです」


その紅茶は、美味しかった。




「マスター、今日は紅茶にしようかしら」


「今日も雨宿りですか?」


「いけませんか?」


「いいえ」


来てくれて嬉しいです。とマスターが微笑む。


「どうぞ」


差し出された紅茶にほうっと息を吐く。


雨が降ると喫茶店に向かう。

そこは、あたたかいから。


「今日は冷えますね」


私はオルゴールを手で転がした。


「何か食べますか? 軽食もありますよ?」


パンとスープ。

優しい味がした。



ある晴れの日。


「……マスター、雨宿りをしに来ました」


マスターは無言で紅茶を淹れてくれた。


そして、



「もう、いいのではないですか?」


重ねられた、手。


「……もう、いいのでしょうか」


私の声は震え、けれど涙は出なくて、


「あなたはもう十分愛しました。

愛された方は、幸せですね」


「うぅ……」


私は泣いた。


マスターに肩を抱かれて。


私は、新しい恋に、出会った。


「今度は、雨宿りじゃなくても来てもいいですか?」


「お待ちしています。あなたに虹がかかりますように」

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