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第二話

朝靄がまだ王宮の中庭を覆っていた。


神谷悠人――いや、フランツ・ヨーゼフ一世として目覚めた彼は、重厚重厚(じゅうこう)な扉を押し開け、執務室へと足を踏み入れた。


部屋の中央には、山のように積まれた書類。

その一枚一枚が、帝国の重みを象徴していた。


ハンガリーの反乱報告、ロンバルディアでの不穏な動き、プロイセンとの緊張、そして財政難。

悠人は椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。


「……このままじゃ、帝国は崩れる。」


彼の脳裏に、大学で学んだ歴史がよぎる。

オーストリア帝国は、民族問題に翻弄され、やがてハプスブルクの威光を失っていく。

第一次世界大戦で敗北し、帝国は瓦解する――それが“本来の歴史”だ。


だが、今の彼には皇帝の権力がある。

そして、未来を知る頭脳がある。


「中央集権じゃ、もう無理だ……」


悠人はペンを取り、白紙に線を引いた。

オーストリア帝国の地図を広げ、その上に新しい枠組みを描く。


「オーストリア合衆国……」

その言葉が、静かな部屋に落ちた。


ハンガリー、チェコ、クロアチア、ルーマニア、ポーランド……


彼らを力で押さえつけるのではなく、自治を認め、連邦国家として再編する。


各州に議会を設け、連邦議会と皇帝が協力する体制。

鉄道網を整備し、関税を撤廃し、産業を育てる。


悠人の頭の中で、未来の帝国の姿が鮮明になっていく。


「この世界で、俺は帝国を救う。」

窓の外、霧に沈むウィーンを見つめながら、悠人は静かに誓った。


その時、扉がノックされた。

「陛下、首相シュヴァルツェンベルクがお待ちです。」

低い声が響く。


悠人はペンを置き、立ち上がった。

「……始めよう。帝国の未来を変えるために。」


彼の歩みは、歴史の歯車を大きく狂わせる第一歩となる――。

オーストリア帝国には多数の民族が存在し、それぞれ自治や権利拡大を求めていました。妥協の結果、オーストリア=ハンガリー帝国が成立しますが、第一次世界大戦後に崩壊します。

「民族自決」の原則は、多民族が混住するこの地域に無理に適用され、新たな国境線が引かれた結果、領土問題や経済的な混乱、そして少数民族問題を生み出しました。

独立したハンガリーは領土の大部分を失ったことへの強い不満を抱き、オーストリアをはじめとする新独立国は、大恐慌などの影響で政治的・経済的に不安定な状況に陥ります。

やがて、ヒトラーは、これらの国々に残されたドイツ系住民の「民族自決」を侵略の口実として利用し、第二次世界大戦を引き起こしました。

戦後、オーストリアは永世中立国として再独立しますが、東欧の旧帝国領はソ連の影響下に置かれます。結局、多民族が混在する地域での性急な「民族自決」は、国境紛争や全体主義の台頭を招き、さらなる悲劇を生みました。

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