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プロローグ:時の狭間にて
雨が降っていた。
通り過ぎる車のヘッドライトが濡れたアスファルトに反射し、夜の広島の街を淡く照らす。神谷悠人は、大学の帰り道、傘もささずに歩いていた。
雨に気づいていないわけではない。ただ、彼の思考は遠く、一九世紀ヨーロッパの戦争と外交に沈んでいた。
「もしフランツ・ヨーゼフ一世が、もっと柔軟な改革をしていたら……」
「もしオーストリアが第一次世界大戦で勝っていたら……」
歴史の“ もしも”に思いを巡らしながら、彼は交差点へと足を運んである。
次の瞬間、眩しい光が視界を覆い、何かが猛スピードで迫ってくるのが見えた。
耳をつんざくような衝突音。
体が宙を舞い、世界が反転する。
――時が、止まった。
悠人の意識が闇に沈む中、微かな声が響いた。
「君の知識は、この時代に必要だ。1850年、ウィーンへ――」
それは、誰の声だったのか、悠人には分からなかった。
だが、悠人は確かに聞いた。
目を覚ました時、彼は――皇帝だった。




