第八話 『急襲』
カミラさんとの一件から約1ヶ月。
俺はダリウスたちの鍛錬とカミラさんの稽古2つをやり続けていた。
時々特異体質について情報はないかと書庫を訪れたりもした。
が、そっちの方は特に進展なし。
相変わらず宗教まがいの本しかなかった。
近況はそんな感じ。
んで、今はカミラさんと稽古に向かうところだ。
「本日はどのような内容にいたしますか?」
「あ、えと、新しい魔法みたいなのの練習をしようかなって思ってます」
「かしこまりました。 それと、本日陛下にお呼び出しを受けていますので、先に行っていてくださいませんか?」
「分かりました」
あの日以来、俺はカミラさんとの距離を測りかねている。
もちろん謝りはした。
あんなこと興味本意に聞いてしまってすみませんって。
だけど、彼女の返事は決まって「お気になさらず」この一言だけ。
怒っているのか、気を遣ってくれているのかは分からないが、とにかく申し訳なさで前みたく接せられない。
いつものごとく長い廊下。
俺はそれ以上カミラさんと言葉を交わすことはなく、数分の間ただその背中についていくだけだった。
そしてカミラさんと別れた後俺は1人で廊下を歩いていた。
廊下に張られた縦にも横にも大きい窓。
そこから見える庭園を眺めながら、ゲートの部屋へと向かって行く。
その時、
ドーーーン!!!
まるで大地そのもの揺らすかのような揺れが城中を駆け巡った。
窓から見えていた庭園は茶色く濁った煙で覆われ、城の一部が大きな音とともに崩れ落ちる。
「なんだこれ!?」
俺は急いで窓から外を覗き込む。
そこにいたのは、俺たちの常識の域を超えた存在だった。
たった1人の女性。
女王のようなマントと奇抜な衣装身に纏っており、ドス黒いオーラを放っている。
「“原色の魔族”が1人、【氷姫】の白夜。 協定違反の件で話がある」
女性はそう名乗った。
原色。
以前ジンから受けた魔族の説明で、聞いたことがある。
魔王直下の3人の最上級魔族だ。
でもなんでそんな奴がいきなりきたんだ?
協定違反と言っていたけど何か人間側がやらかしたのか?
いや、それは今考えることじゃない。
俺はすぐさま階段を駆け下り、白夜のもとへと向かった。
ーーー
「涼太!」
白夜のもとにたどり着いた。
周りには涼太をはじめ、すでに多数の同級生と兵士が構えている。
「…随分とまあゾロゾロ出てきたじゃねぇか」
白夜は不機嫌そうだった。
イライラしているというよりは、ダルそうって感じ。
「なあ、あたいは協定違反について咎めにきただけだ。 あんたらに構う理由はない。 穏便に行こーぜ?」
「魔族のくせに、何が穏便にだ!」
涼太が叫んだ。
腰に携えた刀を抜き、白夜に向ける。
その涼太の姿を見た白夜はさらに気怠そうな表情となった。
「…なるほどなぁ。 そこら辺のちっとばかり腕立つ奴らが今回の召喚者ってわけか」
瞬間、周囲に緊張が走る。
まるで獣か何かと対峙しているかのような感覚だ。
「ま、ミドル王が出て来ないなら別にいいぜ。 あんたら締めて魔界に連れてくだけだしな」
「ふざけんな!」
涼太が再び叫ぶ。
だが、刀を握るその手は震えていた。
「最後の警告だ。 さっさとミドル王を出しな」
一層オーラが濃くなった。
しかし王が出る気配はない。
いや、当然と言えば当然か。
さっき白夜が口にした協定違反という言葉。
あれがもし事実なら戦争の掟を人間が破ったってことだ。
出てきて認めればまず命を落とすなんてもんじゃすまない。
「出て来ないか。 じゃ、あんたら攫う方にプラン変更だな」
ついに王は出て来なかった。
「…始めるぜぇ」
白夜が指を鳴らす。
次の瞬間、白夜から発生した冷気が一瞬で辺りに充満した。
「(冷たい!)」
地面や周囲の外壁に冷気が侵食し、一面を銀世界へと変える。
それは俺たちも例外ではなかった。
地についていた足を伝って、数秒経たないうちに冷気が身体を犯した。
「《神域展開》!」
初めに動いたのは美久だった。
スキルを発動し、特殊な領域を広げる。
やがて氷の侵食は治った。
だが、
「いぃスキル持ってんなぁ。 ちょいと面倒だ」
それを放置するわけはない。
白夜は美久に狙いを定めると、瞬きする間に間合いを詰め切った。
「待て!!!」
「《氷結牢獄》」
反応が遅かった。
俺たちが駆けつけるより先に白夜が美久に手をそえ、美久を巨大な氷で飲み込んだ。
「行くぞ慎吾!!!」
「ああ!!!」
涼太の掛け声で俺も白夜に向かう。
羽衣を展開し、挟み撃ちで襲いかかった。
「《稲光》!!!」
「《炎舞》!!!」
雷鳴の如く迸る魔力の斬撃。
そして、俺の炎のを纏った連撃が白夜に迫る。
しかし、
「ほい」
それらを白夜は片手で受け止めた。
涼太の刀を2本の指で挟み、俺の拳は1本の指で止められていた。
「ちっ! 《迅旋風》!!!」
が、涼太はまだ動く。
白夜の手首を蹴り、刀を奪還。
すぐさま全方位を斬りつける大技を繰り出した。
「やるじゃねぇか。 だが…」
それでも白夜には届かない。
魔法もスキルも使わず、また片手だけで凌がれてしまった。
「どう、なってんだ…」
息を切らし、膝を着く涼太。
その胸には巨大な氷柱が突き刺さっていた。
「《凍てつく大槍》」
「涼太!!」
涼太の技野巻き添えを食わないよう逃げていたが、まさかあれでも戦えないなんて…。
「んで? あとはこねぇのか?」
白夜は余裕だ。
召喚勇者の中でも実戦値の高い俺と涼太。
その2人を同時に相手してもこれ?
ふざけんなよ。
「《炎操・流星》!!!」
俺は無数の火の玉を生成。
距離を取りながら白夜にしかけていく。
だが、結果は変わらなかった。
「ほらほらどーした! もっと気合い入れやがれ!」
視界全土を埋め尽くすほどの物量。
その俺の炎を、白夜は素手で捌いていく。
どうすればいいだ。 こんなの。
勝てるわけない。
かと言って、逃げられるわけもない。
回復専門の美久と最強格の涼太はもうやられた。
俺1人で何ができるんだ。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ…。
俺は必死に頭を回した。
この状況、白夜をせめて追い返せる方法を。
しかし、
「そろそろいいだろ」
その結果出るより先に、俺は倒れた。
いや、俺“たち”は倒れたんだ。
「《氷花の棘》」
地面を覆い尽くす冷気。
そこから無数の氷柱が現れた。
「痛!!」
四肢を、胴を、腹を。
その氷柱は容赦なく貫いていった。
「く、くそが…」
周囲が真っ赤な血で染まっている。
俺は両手両足、腹のどこかを刺されていた。
もう、意識も持たない。
「あんまし痛めつけんのは趣味じゃねぇんだけどな」
そう言って、白夜はゆっくりと俺に近づいてきた。
これで終わりか。
俺の人生、ファンタジーなんて甘く思っていた世界は。
自分の最期を悟り、目を閉じかけた。
まさにその時、
「《牙々》!!」
大気をも揺るがす一撃が天に轟いた。
<ステータス測定結果>
個体名:【氷姫】白夜
武力値:10万
魔力値:7万
知能値:1万
実戦値:18万
固有魔法:《冷獄》
スキル:不明
その他:邪力
◯固有魔法説明
冷気を生成し、操る。
辺りの水分を凍らせたり、冷気を圧縮して高密度の氷にしたり、他人の身体や魔力に侵食させるなど、汎用性と殺傷力に長けた魔法。
◯スキル説明
なし。