第六話 『特異体質』
「な、なんだここ!?」
カミラさんに連れられて、王宮の書庫にやってきた。
が、そこは書庫っていうよりもクソでかい図書館のような場所で、至るところに本と書類の束がぎっしり詰められていた。
こんなところから探すのか。
下手したら年単位でかかるぞ。
まあ、とりあえず探し始めるか。
俺は手前の棚から順に、手当たり次第に探していくことにした。
しかし、
「見つからん!!」
探し始めてもう3時間経っても、カミラさんの言ってた特異体質に関する記述書は見つからなかった。
見つかったのは、天使がうんたら魔族はクソだって内容のものばかり。
強いて言えば戦闘や王宮内の人物についての記録があったぐらいだ。
てかそもそも母数が多過ぎる。
こんなもんばっかなのにどうやってこんな量作ったのか不思議なぐらいだ。
とても1人で見切れる量じゃない。
いつの間にかカミラさんもいないし、今日のところはカミラさん探して帰ろう。
そう思い、最後に手に取った本を棚に戻そうとしたその時、
「痛っ!?」
頭上から、一冊の本が落ちてきた。
「なんだよこれ。 上の本棚からか?」
上には、ハシゴでもない限り届かなそうな棚もいくつかある。
が、ぱっと見本が入りそうな隙間の空いてる箇所はなかった。
突然降ってきた謎の本。
ふとその本に目を落とす。
題はない。
だが、なぜだか興味をそそる本だった。
そして俺は、なんの気なくその本を開いた。
その瞬間、俺は目を疑った。
その本こそ、俺があれだけ探しても見つけられなかった、特異体質に関する本だったのだ。
俺は興奮をぐっと抑え、ゆっくりとページを進めていく。
“特異体質、魔法研究記録”
初めに記されていたのは、特異体質というものの正体について。
特異体質というのは、本来無属性のはずの魔力自体に自然系の属性が宿ってしまうこというらしい。
それが不純物となり、従来の固有魔法の術式に流し込むと魔力として認識できず処理もできない。
また、魔力には「制約を課すことで強化できる」という特性がある。
特異体質の場合は固有魔法が使えないなんて超絶デメリットを自分の意思関係なく付与される。
そのため通常よりも魔力が強力であり、一点に固めて放つのが基本の基礎魔法も同じような処理もしきれず、暴発してしまう恐れがあるのだ。
次に、特異体質での魔法の運用方法。
これに関してはちょっとせこいかもしれないが、制約を使って操作する。
例えば「刀」という形を設定したとしよう。
すると体内の魔力がまるで何かの型に流し込むかのように整えられ、一本の刀として生成されるらしい。
制約関係の特性はプラスにもマイナスにも働くため、特異体質ならもともとあるプラスを多少抑えるか相殺する程度で瞬時に指定の形を作ることができるし、過剰な体への負担も軽減できる。
…やっぱりせこくないかこれ?
最後には、その実践例も書かれていた。
先端、一部の魔力密度を高めて切断や刺突効果を得る
《火槍》や《獄炎刀》。
体外に放出した後で、魔力を凝固させる
《火球》。
他にも、多数の魔法が記されていた。
これなら本当に魔法を使えるようになるかも知れない。
早速試しにーっと行きたいところだが、この本がどこに入っていたものか調べて返さないと。
そう思った時、
「お望みのものは見つかったようですね慎吾様」
「うわっ! びっくりさせないでくださいよカミラさん」
さっきまで姿も見えなかったカミラさんが突然目の前に現れた。
一体どこに行っていたのだろうか。
まあ今戻ってきてくれてるから、どこでもいいんだけど。
「よろしければ試してみませんか? 一応勇者様には貸し出し許可もありますし」
「え、そうなんですか?」
そんなの初耳だぞ。
てか、ここら辺に管理人っぽい人もいないし、そんなガバガバセキュリティで大丈夫なのか?
でもそれが本当なら、持って行きたい。
もし分からないことがあったりしてまたここに探しに来るなんて、絶対嫌だ。
「修行の間はいつでも空いています。 いかがしますか?」
「…そうですね。 じゃあちょっと借りてきましょう
」
少し悩んだが、結局持ち出すことにした。
こっちは勝手な事情で呼び出されてるんだし、これぐらい(じゃすまないけど)許されるだろ。
ーーー修行の間
「やっと着いた」
俺は再び、修行の間に向かった。
にしても本当に広いなこの王宮。
カミラさんの案内がないと多分辿り着けない。
内装覚えるのにもどれだけかかるやら。
「さて、早速試してみるか」
だが、今はそんなことより実験だ。
形は刀。
頭でイメージを整えて、ゆっくりと両手に魔力を集めていく。
「出た! 炎が出たぞ!!」
ほんの少しずつではあるが、手のひら全体からゆらゆらと燃える炎が現れ始めた。
その炎は徐々に増していき、イメージ通りの刀の形を形成していく。
「頭の中で作った刀まんまだ」
あの本によると体が順応できれば制約なしでも操れるようになるらしいが、今はこれで充分だろう。
その後も、俺は魔法の実験を続けた。
あの時見た炎の槍や投球はもちろん、高熱と高密度の糸を作り出す
《熱線》や、四肢を中心に炎を付与する
《炎装甲》など。
中でも俺が気に入ったのはこれだ。
「すごい熱とパワーだな」
全身に炎を展開して纏う
《猛火の羽衣》。
これは身体強化に近いもので、一部をガチガチ固めるのではなく、全身を満遍なく覆う。
負担も分散する上、防御にも攻撃にも使える便利な技だ。
「おめでとうございます慎吾様」
カミラさんも拍手を送っている。
「ありがとうございます。 あの、今ダリウスさんって時間あったりしますかね」
できれば早速誰かと戦ってみたい。
そこで俺はダリウスをあてにした。
が、
「おそらく、この時間ですと戦士団の指南に行っているかと思います」
やはりそれは難しいようだ。
王宮戦士団団長?っていういかにも忙しそうな肩書を持ってるし、いきなり言われても多分無理だろう。
できれば今すぐ実戦してみたかったが、しょうがない。
明日まで我慢しよう。
そう思った時、
「あの、お相手が必要なら私がお受けしましょうか?」
突然、カミラさんが自分と戦わないかと提案してきた。
いや、そりゃやってみたいよ?
でもカミラさんは王宮仕えのメイドだし、いくら獣人族とはいえ普段戦うような立場じゃない。
とてもじゃないが、ダリウスに足るとは思えなかった。
むしろ怪我をさせてしまうかも知れない。
「でも危ないんじゃないですか?」
気を遣ってくれたのはありがたいが、危ないことをする気はない。
俺は遠回しにその提案を断った。
「危ない、ですか」
その意図を察してくれたんだろう。
カミラさんは少し考えるような素ぶりを見せた。
だが、
「ご安心ください。 本気で戦ったりはいたしませんよ」
次にカミラさんの口から出たのは驚きの言葉だった。
危ない。
俺はあくまでもカミラさんにとって、という意味で言ったつもりだったが、カミラさん自身は全く逆に取っていた。
それに、さっきの俺の炎を見た上でその言動。
この時俺は、カミラさんの実力に興味を持った。
そして、
「…わかりました。 じゃあお願いします」
カミラさんとの模擬戦。
その提案を受けることにした。
しかし数秒後、俺はこの判断を後悔することになる。