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第一話 『異世界召喚』

 俺の名前は加賀美(かがみ) 慎吾(しんご)

 今年受験を控える高校生だ。

 と言っても、受験に関しては特に心配していない。


 成績はテスト、内申共に学年一桁。

 自分で言うのもなんだが、先生からの評判も良い方だし、部活では全国大会にも出ている。

 最近あった二者,三者懇談では推薦は取れるだろうとまで言われた。

 もうこれ以上やることもないだろう。


「やっぱこの漫画面白いな」


 そんな俺は最近、漫画にハマっている。

 ジャンルは異世界ファンタジー。

 こういう系の漫画は男子の心に刺さる。

 主人公は最初から最強でも成り上がりでも面白い。

 面白過ぎて、このところは授業中にもこっそり読んでいるぐらいだ。


 みんなも一度はやったことがあるだろう。

 教科書の間や机、ノート、筆箱の影などに隠してスマホをいじくりまくる。

 これがまた家とは違って楽しさを増させるのだ。


「お、更新されてんじゃん」


 国語の時間。

 この先生は基本的に教壇の上で一方的に喋ってるだけ。

 俺たちは先生の話に対応する教科書のページを開いて、凝視する。

 お互い相手の方を見ることも少ないし、教室を回らない。

 つまり、バレる可能性もほとんどないのだ。


 俺は安心し切って、机の下へと視線をむけていた。

 だがこの日、俺は安心ていたが故の大失敗をしてしまう。


「え、マジ!? この人たち敵だったの!?」


 最終章間近に迫ったお気に入りの漫画。

 その漫画の更新された最新話にて、今まで味方だった人たちが全て元凶、つまり敵であったというどんでん返し。

 この急展開に、俺は思わず立ち上がって大声を上げてしまった。


「・・・。 あ」

「慎吾!!!」


 気づいた時にはもう遅い。

 先生がこんなヤバい行動を見逃すはずもなく、俺の名前を叫びながら近づいて来た。

 その顔はりんごのように赤く、まさに鬼の形相となっていた。


 なんとか隠せないか。

 俺は頭をフル回転させる。

 しかし、これだけバッチリ見られてる中でスマホ隠すなんて無理だ。

 結局、俺は生まれて初めてスマホの使用がバレ、先生からお叱りを受けることになった。

 それも特大のやつを。


「お前、成績がいいからって調子にのってるだろ!!」


 周りが引くほどの声量。

 普段なら茶化してくるヤンチャな生徒ですら、こっちを見れないぐらいのガチ説教だ。

 俺も流石に怖いと思った。

 途中、泣きそうにもなった。


「大体、周りのやつらはなんで止めないんだ!! 見えてるだろうが!! お前らも連帯責任だ連帯責任!!」


 どんどんヒートアップしていく先生。

 気づけばそのお説教は、周りの関係ない生徒にまで及んでいた。

 結局、先生のお説教は授業終わりの鐘が鳴るまで続いた。


「いいか! 反省するまで教室から出るなよ! 全員だからな!!」


 先生はそう言うと、「バタン!」と大きな音を立ててドアを閉め、教室を後にした。


「っぷはは! お前めっちゃキレられてんじゃん笑!」


 教室の窓から先生の影が消えると、隣に座っていた生徒が、大笑いしながら俺に肩を組んできた。


 こいつは天城(あまぎ) 涼太(りょうた)

 俺の幼馴染で、幼稚園からずっと一緒の親友だ。


「いやぁ、笑い堪えるの大変だったわ」

「こっちはそれどころじゃなかったけどな」

「泣きそうになってたもんな笑」

「うるせぇ〜」


 ちょっと嫌な顔をしつつ、涼太とくっちゃべる。

 さて、どうしたもんか。


「で、謝りに行く?」

「そうだなー」


 今回は普通に俺が悪い。

 それに、クラスに迷惑かけるわけにもいかない。

 ひとまず謝りにだけ行ってくるか。


「ごめん。 俺謝ってくるから、みんなは授業の準備してて」


 俺はみんなに向かって小さく頭を下げる。


「俺も行くー。 お前の怒られるとこ、じゃなくてお前の勇姿を見ないとな!」


 前傾姿勢になった俺に、涼太が今度はのしかかる勢いで腕を乗せてきた。

 背骨パキッて鳴ったんだけど。


「言い直してもあんま意味変わってない気がするぞ」


 俺はため息を吐きつつ、机の上を片付ける。

 さっさと終わらせよ。

 先に歩き出した涼太の後ろにつき、教室を進んで行った。

 しかし、


「ん? 何やってんの涼太? 早くドア開けろよ」


 なぜか、教室のドアの前で涼太の動きが止まった。

 数秒しても動く気配はない。

 具合でも悪くなったのだろうか。

 なんて思いながら、今度は俺が涼太の肩に腕を乗せる。


「早く行くぞー」


 だが、それでも涼太は動かなかった。

 それどころか言葉も発さない。

 段々と不気味に思えてきた。


「おい、大丈夫か?」


 俺はゆっくりと涼太の顔を覗き込む。

 そこにあったのは、俺の知る涼太の顔ではなかった。


 血が抜けたように真っ青になった顔色。

 大きく開いた目。

 荒れた息。

 額には冷や汗が滲み、何かに恐怖しているように見えた。


 涼太は、そっとこちらを振り向く。

 そして、少しの間を置いてこう答えた。


「ドアが、開かない」


 そんなバカなことはない。

 俺はすぐにそう思った。

 しかし、涼太のこと怯え様。

 嘘をついているようにも見えない。


 まさかと思いつつ、俺はそっとドアに手を伸ばした。


「っ!! 嘘だろ!?」


 本当に開かない。

 どれだけ力を込めても、助走をつけてもびくともしない。

 どうなってるんだ。

 さっき先生が開けてたはず。

 鍵を見てみても、閉まっているようには見えない。

 俺と涼太は顔を見合わせる。


 そして、他の人たちも異常に気づき始めた次の瞬間、


『勇者召喚!!』


 どこからともなく不思議な声が響き渡り、教室の床に不思議な陣が現れた。

 その陣は白く輝き、教室内を光で覆い尽くした。


「ま、眩しい!」


 俺や涼太、他の生徒たちもその眩しさを前に必死に目を覆う。

 そして、気づけば俺たちは、見たこともない暗い部屋の中心に立っていた。




 ーーー




「おお、成功だ!」


 ここはどこだ?

 俺だけじゃない。

 みんな混乱してプチパニックになっている。


 西洋の甲冑のようなものを着た人たちと、大きめのローブを身に纏った人たちが周囲を取り囲んでいる。

 一体どういう状況なんだ?


「皆様、言葉は分かりますでしょうか」


 訳もわからず混乱する俺たち。

 そんな俺たちの前に、唯一ローブを着ていない老人が出てきた。

 白くて大きな髭が生えた60歳ぐらいのおじいさんだ。


「私はジン。 皆様の案内役を仰せ使いました。まずは王様に会っていただきます。 お話はそれからで」


 老人がそう言うと、周囲を囲む人たちが一斉に動き出し、真っ暗だった部屋に一筋の光が差した。

 まるで道を作るかのように移動する人たち。

 光は、その先にある開いたドアから差していた。


「おい、どうする?」

「ついてっていいのか?」


 そんなことを言っても、今は従うしかない。

 少なくとも、今この状況は俺たちの知り得る常識では説明することができない。

 なら、ついて行くしか選択肢はない。


「とりあえず行ってみよう」


 俺はみんなに声をかけ、先導するように前に出た。

 次に足を進めたのは涼太だった。

 涼太も訳がわからないと言った感じだったが、それでも同級生たちに進むよう促す。

 俺と涼太を見たみんなも、続くように歩き出した。

 真っ暗だった部屋を抜ける。


 その先は、だだっ広い廊下へと繋がっていた。

 大理石のような光沢を持つ白い石造の床や柱。

 真紅のカーペット。

 天井や柱にはシャンデリアのような光源もある。


 そんな廊下を、俺たちはジンの後ろに張り付くようにして進んで行った。

 そして、歩くこと数分。

 一際大きい扉の前でジンが立ち止まった。


「こちらでございます」


 扉の近くにいる甲冑を着た男にジンが目を向ける。

 すると、その男は俺たちの到着を宣誓した。


「ジン様。 並びに、“召喚者”の皆様。 ご到着です」


 見上げられるほど大きな扉が、鈍い音とともに開かれる。

 その先にあったのは、廊下とは比にならないほど豪華な装飾が施された『謁見の間』だった。


「よくぞまいった。 “勇者たち”よ」


 その謁見の間の1番奥。

 2つの大きな玉座の片方に座った老人が、俺たちを向かい入れる。

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