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第八話 好きなもの

 「お目覚めですか、殿下」

 「ビオラか、」

 「私は、殿下の事を」

 「言うなお前のは愛ではない」


 病室、回復系統の守護獣で目が覚めた殿下を説得しようと試みるが、突っぱねられる。


 「なぁ、ビオラ俺が好きなもの、食べ物でもいい、何か知っているか?」

 「ルーネベリタルトでしょう?」

 「そうだな、お前との最初のお茶会に持っていったもので好きだったものだ、けど、今は違うお忍びでカトレア達と食べた鶏の串焼きだ、お前は食べたことがないだろう……」

 「いえ、近くに作れるものがいたので食べたことがあります。タレが効いてて美味しですよね」

 「そうか…どちらにせよ俺はお前を愛せない、」

 「そう、ですか……分かりました、陰ながら殿下の幸せを願っています」


 病室を後にする。鶏の串焼きか……三人で食べたいい思い出だ。首の骨を折って包丁を落とすエリスに驚いたことがある。殿下にも勧めればよかった。ああいった物は品がないからと切り出せなかった。今思えばエリスが調理器具を持ってきた時は、簡単ながら美味しいものばかりだった。特に遠征での塩焼きが特に美味しかった。


 「分かっていなかったのは私でしたか……振り返れば私自身も少なからず偽っていたということになりますね」

 「……ビオラ」

 「リコリス様…………」


 廊下でリコリス様にお会いする、今の私は公爵令嬢ではあるが、殿下の婚約者ではない、話すこともためらわれる。


 「様は要らない、これから弟を殴りに行くエリス達が気晴らしに何かやっているみたいだから行ってきなさい、後から私も行くわ」

 「……今の私に関わることなど……」

 「関わりたいから関わっているのよ、それに楽しいじゃない、私とビオラとエリス、ここでの学園生活は、それじゃあ待っててね」

 「……はいっ…」


 病室に向かうリコリス様を見送り、人が既に居ない学院の庭に進む。パチパチも木炭が燃える音がする。どうやら客人が二人い……る。



――――――



 「あっ、ウルカヌス家が来ていること伝え忘れてた……まぁいいか、さて、ヒュドール・ジュピター貴方はこれからどうするつもりですか?」


 病室でベッドに座る弟にこれからのことを聞く、断ち傷も何も無く、打撲痕が残る可能性があるということだけ、フェイトくんには感謝しないといけない、気を使ってくれたのだから。


 「冒険者になるよ、たぶん王宮ではもういろいろと動きがあるだろう」

 「そうね、今しがたウルカヌス家がストレンジに話し合いをしに行ったわ」

 「じきじきにか?」

 「ええ、二人は平民、この件について話すには呼ぶより自らが言ったほうが早いという認識らしいわ、そして、婚約破棄を既にしているのなら、今後指示するものは変更をすると言っていたわ、後は自分で何とかしなさい、私はビオラのところに行くから」


 王位継承権がどう動くかは分からない、けど私達が一番上で、次が14…しかも女陰の子、こちらに傾くことを期待しますか。



――――――



 「お父様…」

 「来たか、役者はそろったようだな始めよう」

 「分かりました」


 ウルカヌス家現当主グロリオサ・ウルカヌス、まともに面会するのは二年と三カ月ぶりだ。要件は決闘のことだろう。


 「さて、君達は娘側についてくれたという、ただ、あれは君達が飛び込んだ側ということでもある。それを踏まえて話し合おう」

 「飛び込んだのはこちらですが、それで負けてよかったと?」

 「いや、そうは言うまい、だが、君達は平民でこちらが守る利点もない、既に感謝の意は示してあるゆえにな」


 ビオラさんを助けたという功績は表向き、ウルカヌス家の顔を立てる意味もあっての感謝だった。だが、今回は娘の結婚相手がいなくなり、宮廷での立場も弱くなる。そして宮廷交錯に使われる金は何もない。


 「だが、王家とのパイブを繋げているということもまた事実、リコリスとビオラが仲が良いのは君たちのおかげとも聞いている、何を望む」

 「「今すぐ帰ること」」

 「……ふ、二人ともそういう意味じゃ」

 「ですから、これ以上貴族と関わらず帰るということで」


 ウルカヌスさんの質問に、前回と同じような答えを出す。ビオラさんよの否定に当たり前のように返す。首が飛ばないだけで十分だ。


 「それにビオラさん、取り巻きが来たよ」

 「わかった、貴族に絡みたくないという気持ちには悪いが娘を少しそちらで任せてもいいか?」

 「どうやって?家はありますが隔離できるほどの防犯はないですよ」


 狐火を、顕現させて取り巻きの意識を逸らす。


 「契約獣、君達が娘と会った場所はたびたび守護獣が見つかるがせいぜい霊獣だ、何かあるだろう?」

 「その場の保証をしてくれれば請け負いますよ。はぁ…これだから貴族との会話は嫌なんだ」

 「嫌うならもっと徹底的にやるんだな」

 「わかりましたよ、ではこちらも準備がありますので」

 「うむ、」


 最悪だ、貴族を匿うだと、しかも浮島まで知られるとはあそこは特殊だからあまり出したくはないんだが。神隠しに連絡しないと。


 「はぁ…顕現――管狐――連絡頼む」

 「それは?」

 「斥候を主とする守護獣ですよ、島には特殊な方法でしか行けませんから」


 竹筒に収まるほどの小さな狐で、飯綱山から出たとされ、人間の使い手によって飼われると、占いや予言といった霊験を発揮する、暗殺などにも使えるが基本は連絡網として使っている。


 「そうですか、恐らくリコリス様も来ると思いますので、その時はお願いしますね」

 「嫌です」

 「断ったら本当に公爵家と王家の関係が崩れますよ」

 「嫌なところを持ってこないでくださいよ、まぁわかりましたよ、では明日そちらに向かいますので」

 「そうか、邪魔して悪かったな…………」

 「食べます?」

 「……もらおう」


 焼鳥を作りながらの会話だった、手を止めようとしたが流石に目を離せないのでどうしようか迷っていたが、非公式もあって無礼講ができてよかった。朧車を呼べばそれなりに運べるか。



――――――



 「それで、人数多くないですか?」

 「まぁ、私達のお世話係としてよ、これでも厳選はしているわ」

 「それで計10人ですか、となると脚をどうするかだよな」

 「船を出しますか?」

 「いや、わざわざ借りるのは申し訳ないから、メイド達は餓者髑髏で抱えるか」

 「いや、失礼だから……火車は?」

 「ソッチのほうが失礼でしょ、火車は死者を運ぶんだよ」


 リコリスさんとビオラさん、それぞれに5人の従者、もといメイドがつくことに、朧車は二人しか入れないので当初は、リコリスさんとビオラさんを中に入れて姉さんと僕が上に乗るという形だったのだが。10人は流石に聞いていない。


 「となれば、(かくれ)に頼むか?」

 「いや、鞍馬さんに、他を読んでもらえばいいんじゃない?」

 「そこまで深く考えなくてもいいですよ、私達は別の方法でそちらに行くので街の名前を言ってくだされば」

 「街じゃないからこうなっているんですよ……女郎蜘蛛に支えを作ってもらって朧車と餓者髑髏で牽引する?」

 「それなら馬車の荷台を引っ張ったほうが早いでしょ」

 「まったく、ずいぶんと遅いね」

 「隠!なんでここに」


 どうやってあの森に行こうかと話しているところに、神獣の隠が霧とともにやってくる。戦う力を持たない代わりに結界や幻惑などが得意、神隠しの守護獣だ。


 「君達は人間関係で甘いところがあるからね、迎えに来たんだよ、今いる子たちが今日来る子かな?」

 「うん、」

 「これじゃぁ行こうか、転送――神隠し――」


 霧に巻かれて僕達は、ある場所へと移動する。フェンリルが連れてきてくれた森の中にある僕と姉さんの家だ。


 「ここですか?」

 「いや、ここは中継地点だ、しっかりついてくるんだよ、迷子になるからね」


 扉を開け家に入り、襖を開けて出たり入ったりを繰り返す。一通りまわって玄関に。


 「それじゃあようこそ、守護獣の安息地へ」

 「す、すごい」

 「大陸島よりかは小さいけど、幻想的ですね」


 鎌倉のように、ある一点を除いて山に囲まれた盆地の中心に何故か知らないが温泉旅館を建ててある、侵入を許しても脱出は困難という作りで元の森に行くのにも、部屋や廊下などを決められた順に通ることで行き来することができる。


 「少し早いけど、荷物を置いて移動するぞ、作りが違うから分からないこともあるだろうけど、四階から上は自由に使っていいから」

 「そうですか……ありがとう御座います」

 「慣れないだろうけど速めに玄関集合ね、」

 「?分かりました」


 皆が、部屋に行ったのを確認して、姉さんと夕食の準備に取り掛かる、今は12時なので昼食の準備かと思うが到着する頃にはいい時間になるはずだ。

 部屋の貯蔵庫を開けると、雪ん子が出迎えてくれる。季節に関係しない貯蔵庫だ。姉さんが一度凍らせたのを管理してくれている。


 「全員集まりました」

 「それじゃぁ、山登りと行こうか」

 「「えっ?!」」

 「慣れなくても夕飯までには着くだろうから」

 「「え?え?」」

 「じゃ、行こうか」


 北側の山を登り始める。この浮遊島は方角によって気候が変わる。北は雪が積もる冬の気候だ、食材は朧車に乗せて登り続ける。


 「待って…」

 「ダンジョン攻略より疲れる」

 「もう少しだから、行くよ二人とも」


 早々にダウンした2人を姉さんが励ますので、僕はメイド達を案内していく。


 「着いたぞ」

 「何をするの?」

 「鍋を作る、」

 「鍋?」


 大勢でも食べられるし、何よりこの雪山にはちょうどよい。わざわざ鍋を食べるために登ってきたのだから。土鍋を二十数出して、作り始める。白菜鶏ガラ鍋だ。モツ鍋とかもいいけど、僕も姉さんも鶏ガラ鍋が好きだ。守護獣と囲って食べるのがまたいい。ある意味家族団欒の代わりともいえる。


 「あったかい」

 「それが鍋の醍醐味だね……食べ終わったら少し降りれば温泉があるけど入る?」

 「「「入る!」」」


 温泉という言葉に食いつく、メイド含めた女性陣そんなにいいのか?温泉って、今までは当たり前のように入ってたから。どっちにしても問題ごとは少なそうだ。

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