第六話 立場を考えてくれ
「とうとうパーティーか………」
「いやそうだねフェイトは」
「そりゃねぇ……マナーも数カ月かけて頭に叩き込んで、それでも揃い目で見られるんだよ、行きたくなくなるよ」
男爵家で仲良くなった二人、スペシオサ・カエノメレスとレッド・カラント。婚活をメインに学院に来ているらしい。本来の学院としての側面は貴族にはあまり関係ないみたいだ。
「まぁ、お前お姉さん達がいるだろ?」
「二年生の三大美姫、閃雷、撃墜、底冷」
二つ名、基本的に成果を上げた者たちに贈られるが、逸脱しているために、学院で付けられたらしい。
「バカだろ、平民があそこにいて思われるのはただの召使いくらいだよ、それに関わるのは打ち合いの時だけだし」
「やっぱすごいのか?」
「全員二つ名通りの剣技だよ、守護獣使われたらキツイよ」
「無理とは言わないんだな」
「うん、二人とも守られる立場だからね。攻撃の方も基本少ない、」
一度本気でやった時は3対1だった。霊獣四体、幻獣三体、……死ぬかと思ったが、やり方に気を使わないのならもう少し早く終わったかもしれない。
「契約獣か、俺たちには縁がない話だよな舟もないし、金もない、」
「それじゃあ行くよ、パーティー用の服を取りに行かないと、それと、守護獣は魔力濃度が高いところにいることが多いよ」
学院での寮、女郎蜘蛛が作ってくれた和服を受け取る。黒の羽織袴、家紋は平民なのでない、仕込み刀とは少し違うが、少し脆い小刀を二振り持って行く。二振りを合わせて鞘にしまうことができ、刀身が伸び縮みする構造だ。その分もろくなっているが。
「疲れた」
「うん、もったほうだよ、私は一分も持たなかったから」
「姉さんは変に鼻が利くからね、というか学年別だろこのパーティー」
「皇女様の護衛よ、」
「名前でいいんですよ?」
「すいませんが、この場での名前呼びは、胃痛になりそうなので」
速くも会場の空気につぶれた平民の僕と姉さん、香水の匂いや、料理の匂いが混ざってかなりキツイ、空気の循環がされている家とは別だ。
「そうですか…………弟の方に面倒事があった場合は対応をお願いします」
「ええ、」
「了解しました」
あれから、皇太子と公爵の間柄は改善されていない、それどころか切り離されていく一方だ。子爵のやり方か、身分という立場についてくる周りの行動か、どちらにせよビオラさんが不利な状況になっていっている。
「…………はぁ…」
「大丈夫か?」
「スペシオサとレッドか、正直きついね、何されるかわからないか常時警戒態勢だ」
男爵家系の地位故にまだ平民と関わっても白い目で見られるだけで済む二人、失敗してくれるのは嬉しいことだ。
「それはいいがその格好は何だ」
「羽織袴と言うやつだブロッサム式の正装だ」
「そうか、それと俺は皇太子を推す」
「なんでだ?」
「こう言っちゃなんだが、支持が多すぎるんだよ」
「そうか、おそらくだが今日そのへんが動くぞ」
「フェイト!」
「悪い、言ってくる」
説明する前に問題が起きた。このままじゃ国が転覆するかもしれない。前世でもそうだったけどどんな場所にも女にうつつを抜かすものがいるのか
「どうしてわかってくれないのですか!私は殿下のために申し上げているのです!」
「わかっていないのはお前だ、ビオラ」
「何故ですか、立場も低く他の男にも手を出している女など、」
「知っている」
「っ……なぜ…なんですか…」
今ビオラさんの周りには誰もいない、逆に子爵のカトレアには皇太子やその乳兄弟、剣聖の子息、他にも学院内での地位が高いもの達が付いていた。
一種の才能だな、そして、豊穣と、恐らくラテン語、北欧神話に通ずることからの予想としてフレイヤ、妖怪ならすぐに予想できた、他国の神話はまだまだだな。どちらにせよ、魅了の力がないとも限らない、恋愛は人間関係の問題に事欠かない。
「俺は、彼女を愛している」
「学園でのお遊びで終えるつもりはないと」
「ああ、彼女をこの先も愛し続ける!」
「今の聞いた!?」
「私も言われてみたい!」
「羨ましいわ。それにひきかえ、公爵令嬢は無様よね」
周りも何を言っているんだ、公爵令嬢と皇太子だぞ、どう考えても政策に問題が起きる組み合わせだろうが、経験がないからか?どちらにせよ先を見ていない、表面だけの判断だ。
「では…私はなんなんですか」
「俺が愛しているのは、カトレアだけだ。入学前は嫌いではなかった。だが、カトレアを傷つけるなら容赦しない」
「聞いた? 公爵令嬢様もこれで終わりよね」
「これってもう婚約破棄と同じじゃないの?」
「私、あの子のことが嫌いだったのよね、自分も平民といるのに」
言いたい放題だ、まぁ、公爵令嬢よりも権力が高い皇太子に手を切ると言われれば権力も著しく落ちる。けどあくまで、親がいない場合だ。そして皇太子の王位継承権が一位なのは公爵令嬢家がビオラさんとの婚約を取り付けることで、支持を出していたのだ。
「……ッさすがに早計だろ」
ビオラさんは、つけてた手袋を外しカトレアに投げつける。
「拾いなさい、売婦。殿下たちを誑かした魔女」
「大丈夫だ拾えカトレア、俺がついてる、代理人には俺がなる」
「姉さん、さすがに止めに…」
「待ってください、この件はビオラも早計です、ですが代理人がいないなら頼みます。支援は私がします」
「……分かりました」
どちらにせよ、この状況を理解しているのは皇女様だけか。
「殿下ばかりに良い格好はさせておけませんね。学園のルールでは女子の代理人である男子が一人とは限りません。私も立候補をしましょう」
「剣の腕には自信がある、俺も立候補しよう」
「みんな……私、怖いけど、みんながいれば安心だね。私、この決闘を受けるよ。ビオラさん、私はみんなと戦います」
馬鹿なのか全員、皇太子はまだしも他二人は公爵以下の家計だろ。皇女様も呆れてものを言えなくなっている。
「で、貴方の代理人は誰になるんですか?」
「そ、それは…」
「あのメンツに戦おうとするやつなんて居ないわよ」
「これで公爵令嬢も終わりね」
さすがに入らないとマズイ、
「お願いします。弟の愚行を止めてください」
「……分かりました、 僕が立候補しますよ」
「君は、平民の」
「馬鹿なのかな?君は、家族の首も飛ぶよ」
「すでにいないよ、それに、互いの立場を理解していない奴が政治をできるとは思はないね」
「君はそんなことが言える立場ではないだろう」
「では…私もビオラに付きましょう」
「リコリス……なぜ!」
僕だけの言葉じゃコイツらは聞く耳を持たない、けど、継承権第二位の皇女様がいるなら風向きも変わるそう思いたかった。
「皇女様って、人柄はいいけど継承権はねぇ」
「皇子様より低いんでしょ?」
「待ってください、本気ですか?フェイト・ストレンジ」
「本気ですよ、それに今までの学園生活を見てると皇女様を推したいくらいですね」
「入試首席とはいえ、3対1では勝てない……訳では無いですね貴方は……巻き込みたくはなかったですが認めましょう」
実力を理解しているビオラさんは、納得してくれたようだ。3体1をやったことがあるからそこもあるだろう。
「決まりですね、条件はそちらで決めてください」
「俺たちが勝ったら、関係に口出しをしない」
「ならば、貴方は近づかないように」
「それでいいわ」
決闘後の取り付けは完了した。後は日取りだ。
「こちらはどんな日でもいいですよ、基本暇だからね」
「夏休みももうすぐだ。その時に学園に借り受けよう。形式は一対一を三回、期日までに集められれば後二人ですね、いいでしょう。もちろん守護獣の使用はありです」
「ではそういうことで、僕は帰ります」
問題しかないパーティーは途中退出をする。服は女郎蜘蛛に作ってもらうとして、武器はいつも使っている刀と脇差、他は守護獣になる。
準備は済ませたし、後は前日以外に鍛錬すればいいか……誰か来たな
「どうぞ、リコリスさん?」
「貴方が扱う武器は刀と脇差だったわよね?」
「そうですけど武器の用意はしなくていいですよ、使い慣れないものを使っても、動きづらくなるだけですので。出回っている普通のものでいいんです」
本当はどんな武器でも扱えたほうがいいけど、それは後だ。今持っているもので、相手を負かせばいい。
「なら新しく新調をしましょう、それなら問題はないですね?」
「まぁ………それと姉さんが男子寮に来ないように見張っておいてください」
姉さんは心配性だから、男子寮に突撃してくるかもしれない。それで咎められるのは姉さんだ、場合によっては決闘すらできなくなるかもしれない。
「わかってますよ、今ビオラが止めています」
「迷惑をかけますね」
「これくらいはね、女性は代理ができませんから……」
「まぁ首が飛ばなければいくらでも汚れますよ」
「それは、あまり言わないほうがいいですよ」
「?」
どういう意味だ?奴隷宣言と捉えられたのか?基本的に人間の奴隷は違法扱いを受けるけど。それでも操り人形になっているものはいるけど、今回も皇太子はそれに近い子爵、カトレアに首ったけとなり、動いている、冷静に見るとかなり滑稽だ。
「どちらにせよ勝ちますので、僕らの首は守ってくださいね、それ以外は何とかしますので」
「ええ」