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第四話 入学試験、戦場に誇りは必要ない

 王都に来てから一年、ようやくというべきか、もうそんな時期というべきが、行きたくもない、貴族の立場を鼻にかけただけの、思想と権力が渦巻くと思われる、王立学院オムニポテンスの、入学試験。


 「………行ってきます………………」

 「……いってらっしゃい」


 姉を見送り王都での拠点に一人僕は残る。合格できることがほぼ確定なのがまた残念なことだ。



―――――――――



 「ここが…………」

 「一般入試はこっちだ、身分証等々を見せ入れ」


 教師と思われる案内人にそって、会場に入る。今すぐにでも帰って、フェイトと遊びたい。できるわけないが早く帰りたい一心で、試験に臨む。


 「今から筆記試験を開始する一時間だ、始め!」


 始まった筆記試験、主に二種類守護獣とは何か、そしてこの国ユピテルの歴史。


 守護獣とは、


 主に霊獣(れいじゅう)幻獣(げんじゅう)神獣(しんじゅう)の三段階の強さがあり、産まれるときに一体そのものの守護者としてつく。

 火や水といった様々な属性があり、家系によって属性の偏りが出るが、政略結婚など身分が低い平民は、ほぼランダムな属性となる。

 守護獣の形も様々で、鳥や獣といったもの、精霊、竜と種族は様々である。

 三段階の強さにおいて、身分は関係なく孤児に生まれた物に神獣がつくこともある。


 守護獣の活用


 守護の名の通り付いている者を守ろうとする。守護獣の力を引き出せるかは本人次第である。

 基礎である属性の【展開】、窮地に立つと鍛錬なしにできることが多い【顕現】、そして奥義とされる【人獣一体(じんじゅういったい)】がある。


 契約


 守護獣が霊獣であった者がよく行う、森や山、海、空といった自然に住まう野生の守護獣を従えること、互いの名を相互に呼び縛ることにより契約が完了、守護獣を増やすことができる。数の制限は無い。

 守護獣同士には相性があり、契約ができないこともある。特に火や水などといった、属性が違うことがあると難しいため、沢山の守護獣を持つ者は居ないとされる。


 これが守護獣の基礎知識だ。ただ相性に関しては初めて知った。弟のフェイトは強さや属性関係なしに契約をしていた。これは守護獣同士以外に、契約者の性格もあるのだろうか。分からないことばかりである。私にはフェンリル一体しかいない。

 国の歴史も思想強めの問題であったが、難なくクリアした。


 「そこまでだ、次に実技に入る、ギルトに加入しているものはランクが判明しているため、一部貴族と共に受けてもらう、ランクがCの者はついてこい」


 最悪ね、平民だけならまだやる気もでるけど、貴族と関わりたくない。それでも受けるしかない。適当な順位について帰って弟と愛でながら、残りの平穏を過ごそう。


 「それでは、教師立ち合いのもと、剣での模擬戦をしてもらう、守護獣の使用は禁止とする」


 なんだ、守護獣の使用は禁止されてるのね、使っていいものも考えてたけど安全が理由かのかしら。それとも訓練を受けてないものに合わせているのだろうか。貴族に限ってそんなことはないと思うけど。周りからも「え〜」とか「つまんね〜」とか不満が聞こえる。どっちにしても、早く帰りたいことには変わりない。


 「次ね」


 一番最後に回された、トーナメント方式だったので、一勝して二回戦目で負けようときめた。そのはずだったんだけど。


 「始め!」

 「はあ゙っ!」

 「くっ…」

 「せやぁぁ!」

 「がぁッ」

 「そこまで!」


 ウルカヌス家の時と同じように、距離を詰めて上段からの振り下ろし、そこから一歩下がって回し蹴り、これで終わってしまった。一撃目もギリギリでの対応のようで、相手が持っていた木剣は肩に触れるほど押し込めていた。

 相手は納得していないようだが、立会人である教師が何も言わないので、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 続く二戦目、三戦目も同じように終わった。弱すぎる。弟なら、初撃は確実に避けるまぁフェイトの霊獣は攻撃型ではなく搦手を主体とするから、そのせいもあるかもしれない。


 「始め」

 「がぁッ」


 四戦目からは回し蹴りだけで終わっている。私を含め64人で試合ごとに二分の一になり六戦目、公爵の人間だったらしく、私の戦い方に文句を言ってきた。


 「なんだその戦い方は敬意も誇りもない!剣士として恥ずかしくないのか!」


 そんな事を言ってきた。蹴りを主体にしてからは剣を使わずに一撃で仕留めていた。この言葉に周りの貴族も叫びだした。


 「……一ついいかしら」

 「言ってみろ」

 「人との戦いに誇りや敬意が必要かしら。首を取るのが正義の戦場になったら真っ先に死ぬよ、」

 「戦場だとしても貴族としての誇りがあるだろうが、貴様の身分は何だ!」

 「もともと平民だし、戦争に遠慮も何もないでしょ、それともなに、戦争で相手ガズルしたから負けましたとかほざくつもり?バカじゃないの」

 「なっ……」


 はぁ……やってしまった、これだとフェイトに迷惑がかかる。ウルカヌス家にいやさすがに虫が良すぎる、学園だけで鎮圧できれば問題ないはないけど、こういう陰湿なやつは家計や住居を特定して、ありもしないことをでっち上げて、金を巻き上げようとしてきたりするはずだ。どうしよう、これはコイツの親にでもバレたら、


 「少しいいでしょうか」

 「ビオラ様!」

 「私は、そちらのエリス・ストレンジの意見を尊重したいと思います」

 「なぜ!相手は平民ですよ!まともな教育を受けていない」

 「まともな教育を受けていないものに負けたのはどちらでしょうか、国を支える立場の者が、守るべき国民の意思を踏みにじるようなことをしないでほしいですね。それと最後の立ち合いがあります、そこをどいてください」


 ありがとう、ビオラさん!始めて貴族を尊敬したよ。


 「ありがとうございます、ウルカヌス様。貴方が次の相手でしょうか」

 「はい、行きますよ」

 「始め!」


 今度は木剣を持ち、同じように上段からの振り下ろす。難なく受け止められるので、回し蹴り。


 「避けられますか」

 「何度も見ているので分かりますよ、ここからは分かりませんが」

 「ふぅ……はあ゙!」


 深く相手の足元を狙うように姿勢を低くする。戦場で守るのは、命に直結する、頭、首、心臓、を主として次に、足。木剣を踏みつけようと足を上げてくるので、右手で相手鳩尾を殴る、


 「グッ……強いですね……脚を狙うのは珍しいですけど」

 「戦争で、相手に被害を与える最も効果的なのは、戦線復帰できない怪我であり、介護を必要とするもの。殺せば大将首でない限りそれまで見向きされることは少なくない、腕や肩を切れば剣を使えなくなるけど、足があれば己で離脱できる。足を傷つければ、相手は動けなくなり、味方も運ぼうとする、つまり戦場で人が少なくなりやすい、守ってくれるものがいないなら自分で守るしかない。一対多の状況で自分の身を守るためには相手の数を減らすのみ、命が軽い平民だから、金も名誉もないから、戦場での戦いはそういうものだ」

 「随分と怖いことを言いますね」

 「そうでしょ、戦場で生き残れるのは、臆病者か卑怯者かもしくは、過程を気にせず殺し続けるもの、守る者がいる、庇うものがいるそういった者は真っ先に死ぬよ、そして相手との会話で気を抜く人もね」

 「……負けました」


 入試一位、本来の目標とは大幅に違う。それでもウルカヌス家が敵に回らないことが確定したのはいい収穫ね、ビオラさんと戦っていたのは、第一王女だった。呼び止められ少し話すことになったので、平民が王族に話すことも話しかけられることもありませんと、その場を後にした。

 帰ってフェイトに抱きつき、数日は弟を堪能した。



―――――――――



 「懐かしい」

 「どうかしましたか?」

 「入試のことを思い出したのよ、なんでこんなことになったのかしら」

 「私としては、民にそういった意思があるものがいてうれしいですよ」

 「そうじゃないんだよ、入学してからなぜかAクラスに入ることになるし、寮生活だし、貴族に絡まれるし、権力問題に巻き込まれるし…………フェイトに何かあったらどうしよう」


 1年が経ちフェイトの入試、試験で色々と失敗した私は平民なのに、貴族に発言できるものといった立場になっていた。第一王女とも関係ができてしまい、貴族の干渉が減ったものの、試験や立ち会いでは、集中的に攻撃されたりもする。正直今すぐにでもフェイトの保護をしたいところだ。


 「大丈夫かな……」

 「大丈夫ですよ、あなたの弟でしょ」

 「そうだけど……」



―――――――――



 「大丈夫かな、姉ちゃんは、こっちに来ないといいけど」

 「今から筆記試験を開始する一時間だ、始め!」


 姉さんのことが心配だが始まった試験に、意識を集中させる。守護獣に付いてと、この国の歴史に付いて。


 ユピテルの始まり、


 争いが絶えない時代、約934年前に初代陛下が即位、十三代目以前の王は記録媒体が残っておらず、名前は不明である。


 現陛下の名前


 トニトルス・ジュピター


 予想してたより簡単なものだった。陛下の名前は先々代から現陛下のどれかから来るものらしい。どちらかというと、守護獣についての問題のほうが難しかった。


 「そこまでだ、次に実技に入る、ギルトに加入しているものはランクが判明しているため、一部貴族と共に受けてもらう、ランクがCの者はついてこい」


 姉さんが言っていた通り、別行動をとる。


 「ストレンジか…あまり問題は起こすなよ」

 「分かりました……手加減をしろとは言わないんですね」

 「わざわざ別行動させているんだ、それは無粋だ」

 「そうですか」


 それなりの歳の教師が注意点を言ってくる、姉さんのことだろう。けど手加減をするなと言われなかったのは良かった。


 「それでは、教師立ち合いのもと、剣での模擬戦をしてもらう、守護獣の使用は禁止とする」


 守護獣の禁止は例年通り、姉さんの言い分からするに、弱い。


 「始め!」


 煙幕はないけど、相手の横をすり抜けるようにして後ろに回り込む、確かに弱い、平民だから油断したのか貴族として傲慢だったのか、どちらかかは分からない。そのまま相手の首に木刀を当てる。


 「そこまで!」

 「えっ…あ……」


 続く二回戦、三回戦も同じようにすすむ、例年と同じ64人他のところよりマシと言える三人が残った、第一王子とそれ周辺の伯爵家以上の者たち。

 相手は剣聖と言われている、家系らしい。


 「始め!」

 「平民なのに強……危なっ!急に何をする」


 始めと言われたのに話そうとしてくるので問答無用で斬りかかる、間一髪避けたみたいだが、この時点でこいつは死んでいる。本当に剣聖か?


 「はあ゙ぁ!」


 相手から瞬時に来たので、真正面から受けずに流す、刀は繊細だから、まともに受けるな、そう言われて流すという技術を身に着けた。一撃で終わらせるつもりだったのか、流された後の隙が大きった。


 「……そこまで」

 「……」


 残るは第一王子、何か言っている。無念を晴らす?馬鹿なのかこいつは、周りが殺られないと力が出せないのか?こいつは駄目だな、国を背負うものが、被害を受けてから考えるとは。


 「始め!」

 「終わり」

 「え?」


 第一王子は腑抜けた声を出して振り向いた。負けるとは思っていなかったみたいだ。元が弱く相手の力量が測れてないのも問題だ。


 「フェイトォォォォォォ!!」

 「うえ、姉ちゃん?!」

 「先生、もう帰っていいですよね?」

 「さすがに待ってくれ、入試一位には入学あいさつが……」

 「第一王子、というのも変だな一人しかいないんだから皇太子か、皇太子に任せますよ」

 「君もか、なら帰って「待て!」

 「なんでしょうか」


 終わったと同時に姉さんがこちらにかけより抱きついてくる。入学式の首席の役割を言われるがそれを拒否する、そのまま帰ろうとしたが、皇太子に止められる。


 「なぜそんなにも強い」

 「経験ではないでしょうか、お言葉ですけど、初めと言われているのに会話をしようとしたり、相手の身分で実力を測ったり、周りがやられてから、本気を出したり、上に立つ身としては不十分だと思います」

 「貴方も、しっかり言うわね」

 「言いたくないですよ、けど上がしっかりしてなきゃ、面倒事は増えるでしょう」


 僕も姉さんも、権力者とは関わるつもりはなかった、けど入試にてAクラスが確定したことで、関わる羽目となった。実力はしめすが、皇太子との関係は波以下とする、これで関わりは姉さん経由が大半となるはずだ。


 「なるほど、うちの弟が迷惑をおかけしました」

 「大丈夫ですよ皇女様」

 「エリスさんの弟でしょう、そこまで固くならなくて大丈夫ですよ、改めてリコリス・ジュピターと言います、」


 皇太子の姉、第一皇女リコリス・ジュピター、ジュピター家は男が少ないらしい。それはさておき、実力は本物らしいが、好きへの執着がひどいらしい。姉さんが共にいるのがそこから来ているとのこと。


 「貴方も挨拶しなさいヒュドール、婚約者もいるのですから」

 「はい、ヒュドール・ジュピター、皇太子だ。そして久しぶりだなビオラ」

 「はい、お久しぶりですね殿下」

 「そろそろ帰らせていただきます、」

 「はい、では…」


 まだ納得していないような感じだったが、それでも少しは考え方を変えてほしい。しかしヒュドールか、リコリスに対して随分と変わった名だ。波乱がないといいけど

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