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第一話 白銀の世界に凍てつく白狼

 「な、にが」

 「逃げるよ」

 「う、うん」


 あたりを氷漬けにした姉さんは、冷気を漏らしながら僕の手を引いて外に出た。数歩歩くと何かが割れる音がして、姉さんを狙ってきた者たちの一人が周りの氷を溶かしていた。


 「追え!逃がすな!」

 「っつ…」

 「煙…々羅!」

 「煙幕だと?!」


 何とか落ち着いて、出した煙は相手の視界を防ぐことができたようで、足音は聞こえなくなった。


 「今のうちにっ…」

 「うん、」


 どこから姉さんの守護獣が神獣だということが漏れたのかわからないが、それでも今できるのは逃げることだけ、街の外側だから外に逃げれば良いというわけではない、僕達はまだ、外で行けていけるだけの知識も実力も何も無い。


 「火の手が上がったから火事かと思ったが、なんでこんな煙が出てるんだ?」

 「分からんが、急いで原因を探すぞ」

 「あっ…」

 「どうした坊主」

 「逃げてる、」

 「ここは街の中だぞ、何におびえ!?」


 街を守る衛兵に助けを求める。充満した煙からは追っ手が出てくる。煙を出して直線的に走っていたから、すぐに見つかったのだろう。


 「下がってろ、子供に対しての攻撃言い逃れはできんぞ」

 「邪魔だどけ」

 「断る…市民の安全を守るのが衛兵だ」

 「立派だな、けど後ろがおろそかだ」

 「うぐ…」


 衛兵の方に気を取られて、後ろに回り込んでいた敵に捕まってしまう。姉さんはもう一人の衛兵の方にいたから何とかなったけど、苦しい。


 「さて…嬢ちゃんこっちに来るんだ、さもないとこいつが君の親と同じようになる」

 「耳を貸すな!相手の思う壺だ!」

 「動くな、衛兵、その子供は神獣を持っているのだ、狙うのは必然だろう」

 「お姉…ちゃん」

 「フェイト……」


 僕が不出来なせいで、姉さん達に迷惑が……なんとかしないと、ても、僕がなにかしたら、それこそ姉さんが…


 「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、私のフェイトに」

 「近づくなら殺すぞ」

 「それ以上刺激するな」

 「フェイトを返せ、家族なんだ!返せ!」

 「お姉ちゃん」

 「ならこちらに来るんだな、恨むなら国境付近で神獣を持って生まれた自分を恨むんだな」

 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」『鎖せ(とざせ)――argentum() mundum(世界)――』






 気づけば、僕と姉さんを除いて街全てが凍っていた。僕達は白銀の毛を持つ狼とともにいた。


 「お姉ちゃん…………」

 『疲れているだけだ、我を呼んだのだからな』

 「えっと…」

 『我はフェンリル、眠っている娘の守護者だ』


 フェンリル、確か北欧神話に出てくる狼の怪物だったはずだ。ロキと女巨人の間に生まれた子供で、ラグナロクではオーディンを飲み込んで殺すと予言されていたはずだ。


 「じゃぁこれはフェンリルがやったのか?」

 『うむ、娘の願い、「家族を助けてくれと」その願いに応えた、追ってきたアレらだけでなく街ごと凍らせてしまったのは不可抗力とも言えるが、まぁ助かったのだからよいと思え、』


 北欧神話では明確な属性を持っていなかったはずだが異世界だから違うのだろうか


 「はい…」

 『それと、今の時代の国境は知らんが、ここから南東に住みやすい場所がある、娘が起きたらそこに行こう。食べるものは少しの我慢だ、いいな』

 「はい…」


 少し待つと、姉さんが身動ぎを始めた。


 「ン、んん…」

 「?!お姉ちゃん!」

 「フェイ…ト?」

 「うん!」

 「よかった」

 『起きた頃で悪いが、すぐに動くぞ、お主達が寝ていたのは三日だ、説明は坊主、我の背中で説明してやれ』

 「わ、わかった」


 フェンリルの背に乗り南東へ向かう、姉さんに説明した後、フェンリルが街を凍らせ、僕達を運べているのは、かなり特殊なようだ。本来人と神獣には明確な差があり今までも、取り決めや、生贄といった契約に近い形とはいえ、守護獣として縛られていないために力を存分に使えたらしい。けど守護獣となって人としての力に押さえられているそうだ。故にこれ以上は姉さんに負担がかかるそうで、これが終わったら数カ月は守護獣の使用を控えるべきと言った。


 「そう考えると神獣ってすごいんだね」

 「だから狙われたのね」

 『ああ、そういう輩もいるな、我も守護者となっている間はよく宿主が襲われた。とくにフローズヴィトニルという集団が襲ってきた、何でも我を神として扱う者たちだ、白い服を来ていたから今回のものとは違うだろうが気おつけておけ、そうだなヴァンガルンドこれからはフェンリルヴァンがルンドというようにしろ』

 「わかったわ」

 『見えた来たぞ、運が良ければ人もいるかも知れない金は凍っているがお主たちのポケットに入っている』

 「何から何まで」

 『お主たちの守護が我の役目だ、もう一度言うがこの数ヶ月は我の力を使うなよ』

 「はい!」

 『またな、』


 あっという間に着いた場所は、森と言うには草木の感覚が狭い、どちらかというと林にちかい場所だった。林檎とかの分かりやすい食べ物もあるみたいだ。少し見て回ると整備された道が森の中にあった、馬車の車輪根を見てまだ使われていることがわかる。


 「これなら…」

 「うん!」


 住処を失ったがまだ希望がある僕達は道を進み今後に向かって、考えていく。

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