十四話 修学旅行
「早いもんだな、修学旅行なんて」
「去年は長かったたんだけど、今年は色々あったからねそれにフェイトもいるし」
「やっぱりそこが基準なのか」
「そりゃねぇ、来年とは違う場所だけど、心配になるのよ、直ぐに駆けつけれないってのは」
「そばにいても守れない時はあるからね」
修学旅行、三学年合同で他国を回りその後別の場所へ三組に分かれる。今回行く先はブロッサム、前世での日本文化を中心とした国だ。そしてそこに世界一の豪商がいるため王家の人間は挨拶に行くそうなのだがその護衛に抜擢されるという面倒くさいことが起きている。空賊の一件で卒業後に昇格が確定もしている(正規男爵へ)のであまり気乗りはしない。
「ブロッサムに行くのに、王家の人間をバラけさせるんだな」
「たぶん襲撃対策じゃないかな?一箇所に集まればそれだけ狙われやすいし」
「それにしては戦力の偏りがひどいけど」
「まぁ、皇女様が第一継承権を持つから、剣聖子息と私達の組み合わせになったんじゃない?」
「フルハウス」
当の剣聖子息はボーカで一人勝ちをして周りに女性貴族を群がらせていた。決闘に負けていて、廃嫡もされているがその人気は減ることを知らない、それどころかファンが何人か増えてもいる。
「本人はずいぶんと不満そうだけど」
「不満でも何も言わせる必要はないですよ、権利もないのに、辺境子爵を選んだのですから」
「お久しぶりです、リコリスさん」
「……護衛よろしくね、」
今回の修学旅行の大まかな目的、リコリスさんとビオラさんの護衛だ。そしてこの修学旅行で何よりも面倒くさいと感じるのは豪商との対談だ、王家の相手でも商売は平等を掲げている。厄介なことこの上ない。
「一日目は自由なので行きたいところがあるなら行ってください、付き合わせているのはコチラですから」
「……鍛冶屋に行ければそれでいいですよ、剣聖子息、武器持ってきていなさそうなので」
「それはこの場で帯刀していないだけなのでは?」
「護衛は目的地からではないんですよ、移動も含まれます。それなのにポーカーをやっているのなら考えものですね」
そもそも、護衛に付いて説明したのか?説明してないならそれはそれで邪魔になるだけだから動くなと言いたい。どっちにしろ、鍛冶屋に行けば武器の手入れもできるし、新調もできる。商人との対談に丸腰では行きたくはない。
「……綺麗だな」
「だねぇ…」
「寒気と暖気が交互に来ることが特徴的な場所ですからね。散っては咲いてを繰り返して一年を通して基本的に咲いていない時期はないそうです」
船から降りて、目に入ってきたのは満開の桜と舞い落ちる桜の花びら、前世では近代の街で花見に行っても桜だけだったが、ここでは和を基調とした建物と共にある。そして一番奥には人気は大きい巨大な桜の木だ。
「雪も降ると聞いたが」
「それは別の場所ですね、それではエリス、フェイトさん、行きたい場所は?」
「鍛冶屋だからこっちですね」
「まて、なぜお前が決める」
「ヒュドール、護衛を頼んでいる立場ですよ、1日くらい自由にさせてもいいでしょう」
武器の手入れのために鍛冶屋に行こうとすると、廃嫡された元第一継承権の皇太子(名前を忘れた)が止めに入ってくる。
「護衛という立場なのは理解してますよ、ただそろそろ武器の新調をしたいんですよ、それに豪商相手に話し合いで終わるとも限らないですよ、余裕があるうちにある程度の物流位は見ておいたほうがいいと思いますが」
「商いをしたことの無いものになにがわかる」
「何も分からないですよ、ですが、玉藻之前と言う名の商人なら、警戒するに越したことはないです」
「……あまり関係ないと思いますが」
「玉藻之前、その美貌と話術で国を転覆させかけた幻獣の名ですよ、」
玉藻之前、転生前の世界では平安時代末期に鳥羽上皇の寵姫であったとされる伝説上の人物だ。妖狐の化身であり、正体を見破られた後、下野国那須野原で殺生石になったと言われている。そして安倍晴明の直系子孫、安倍泰成と安倍泰親が正体を見破るという活躍を見せるが、安倍家レベルの力じゃないと正体を見破ることができないということだ。殺生石になった後も周囲の生物を殺す力もあった、日本三大妖怪に数えられる大妖怪だ、こっちでどんな形になっているかはわからない、警戒するに越したことはない。
「そうか、なら早く「ヒュドール貴方が意見することはありませんよ、女に籠絡して国が転覆した、まさに合間の貴方です、反省はしていますか?」
「ぐっ…」
「いえ、していませんね、現にその籠絡してきた子爵令嬢がいるのですから」
やはりと言うべきかヒュドール(聞いて思い出した)は子爵令嬢(こちらも忘れた)を連れている。ほか2人も何も言わないことを鑑みるに、自覚はそれなりにあるのだろう。このままおとなしくしてくれればいいが、そう上手くいかないのが最近だ。
「刀か…制服を見るにユピテルの生徒さんか、よく使い込まれているな、そっちの両手剣も、手入れも行き届いている……そして、根本に血が付着している、この辺でどうだ?体格が小さいから脇差に近いものを使っているな、そしてそっちの嬢ちゃんの方はかなり力任せに降っている、悪いと入っとらん。両手剣としては合っている、まぁここのより玉藻商会で買ったほうがいい、それを持ってこい調整してやる」
「ありがとうございます」
店の外に並べられているものを見てから入る、別に業物かどうかはなんとなくでしかわからないから当たりだったようだ。しかし玉藻商会か、武具も取り扱っているのか世界一の豪商と言われるのだ武器がないわけないだろう。何より厄介な噂が、国と正面切って戦えるという噂だ。きゆうに終わればいいがな。
鍛冶屋を出た後は、それぞれこの国での特産品をみて回った。なぜか知らないがこの世界でもお土産に木刀が売られていた。前提で刈られた太めの枝から作った木刀らしい。日本の木は頑丈だがそれがこっちでも同じかは分からない……短刀のやつだけ買うか。
色々周り和食を中心とした食べ歩きをしながら回っていくと日も暮れてきた。茜色に染まる空を眺めていると夜の蝶たちが出てくる。気づけば僕たちと同じ年齢は出歩いていなかった。どうやら夜の町での引っかかりは自己責任らしい。
「権限――管狐――」
「まったく、面倒だね」
「俺はカトレア以外には靡かん!」
「ふざけたこと言ってないで宿に走りますよ、ついでに生徒は捕まえてください、蝶に捕まったら財布を空にされますよ」
「特に男爵家だね、学園で愛想の良い令嬢なんて、いないに等しいから 権限――管狐――」
僕と姉さんは知り合いに、早く帰るように伝えるために管狐を呼ぶ。だが、それが面倒の始まりだった。
「あっ…みんなこっち見てるね……走るよ、置いて枯れても文句は言わないでね、場所によっては暗いな 権限――狐火――」
狐火を呼び足元と酒の道を照らす。視線はさらに強くなるが構わず走り続ける。なにかヒソヒソと話しているのは財布の重みでも話しているのだろうか。それとも情報伝達だろうか、どっちにしろ捕まる前に逃げなくてはならない。
走り続けたが宿に着く前に泊まることとなる。甘美な声とともに目の前で燃えた火によって、
「幻――狐火――」
「?!」
「なんや、この街で狐の守護獣使っとる言うて、来てみたけぇど、まだ子供やないの、それも明日の商談相手もいるようで」
「玉藻之前」
「!なんや、そっちの方を知っとるんか、なら話ははやいわ、玉藻之前の元締め玉藻之前や、以後お見知り置きを、それで、この場で狐を使う意味わかっとるんか?」




