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第十三話 殺

 「姉さん、本隊は何席だと思う?」

 「ん〜今まで前線に出てきたのは五隻、ってことはそれ以上あることを予想して、うん、十隻かな」

 「やっぱりそれくらいだよね……使うか幻戦」

 「使うの?危険視されない?」


 あ…確かにそれが残っていた。皇太子を決闘とは言え傷つけ廃嫡したために今ストレンジはかなり警戒されている。そんな中で空中戦も可能な守護獣が増えたら余計に警戒される。


 「たぶん大丈夫、よっぽどのことがないと使わないし、神獣に近いやつらだから戦場を突っ切るだけで戦況を変えることができるけどね」

 「でもその守護獣の格付けって、隠さんとフェイトの仮説でしょ?信じていいの?」

 「問題ないと思う、それに使うのは一瞬だ、それに大天狗の六乗はかなりきついから」

 「わかった、補給が終わり他の学生の安全が確保され次第ね」


 何とか空賊の残党から本隊の居場所が分かり、また空に出る。学生は三隻あるうちの一つに集約して僕と姉さんもその船に乗っている。別にこれからの戦いが重いわけではない、要はお守りだ。いくら貴族になったとは言え一代限りだ、命の重みは他の学生の方がある。


 「…………」

 「…………」

 ビー、ビー、ビー、ビー、


 「来た……」

 「頼んだぞお前ら、王国の宝を」

 「わかってますよ……下にも何隻かいますね二隻です」

 「さらに四方を囲まれる…そして前方だけ二隻だから合計七隻か……」


 上部を除く五つを封じられたか、速いな敵には高性能レーダーでもあるのか?どっちにしろどう動くかを決めないとだめだな。


 「よしっ!両翼にサイドと下をやらせろ!お前らは後ろだ!」

 「「了解!」」


 後ろにある一隻を学生を守りながらの戦闘か、向かってくるのを迎撃しないとな。いくら貴族になったからといっても僕達は一代限りの地位だ、学生の方が命の価値として重い、だから飛んでくる砲撃の大半を迎撃しないといけないわけだ。


 「それじゃあ、」

 「行きますか」


 吹き矢に似た鉄製の円錐形の物質を取り出す、先はかなり短いが空気を流せる形で作ってある。それらを風で一定方向に向けて保持、円錐の内側にはプロペラのようなものを付けてあるのでそれを利用して回転させる。


 愛宕太郎坊 ×比良山次郎坊×飯綱三郎×大山伯耆坊×彦山豊前坊 ×白峰相模坊 ×大峰前鬼坊 ×鴉天狗

 「螺旋――風圧弾――」


 飛んでくる砲弾の内側六割を撃墜できる。残りの四割は、


 「(とざせ)――glacies() murus()――」


 姉さんの作った氷壁で防ぐ。これで砲撃は無効化でき……特攻かよ。


 「隊長!特攻機!」

 「なんだと、全員衝撃に備えろ!」

 「ぐっ…」

 「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!反撃だぁ!!!」

 「幻惑――噴煙――」「凍てろ(いてろ)――Niflheimr() carcer(監獄)――」


 生かすではなく、殺す覚悟……


 「はっ?」


 気が抜けたような声がする。いや、驚いて声も出ない中の発音といったところか。なんせ今僕たちは、空賊とは言え人間を殺したのだから。


 「…………ああ、悪いね、終わるまで目を塞いでて」

 「できれば耳もね」

 餓者髑髏

 「創――杭骨(こうこつ)――」「創――stilus() glacies()――」

 「奪えぇぇぇ!!!ガㇷ」


 騒いで突進してくる空賊の左胸、心臓部分に持っていた刀を突き刺す。抜けなくなったので放置して、骨でできた杭で、腿を貫き、心臓を突き、首を突き裂き、無心で、迫る死を同じ死で防いでいく。心が痛まないわけじゃない、殺らなきゃ殺られる、だから殺す。後ろに守るべきものがあるから。同じように、姉さんも氷でできた杭で同じことをしている。殺して殺して殺して殺して、乗り込んできた賊を全て殺し終える頃には、もう箍が外れる。目をつぶり耳をふさいでいる学園生徒を小突き終わったことを告げる。


 「終わったぞ」

 「え、あ、い、あ」

 「こ、ころ、殺したのか?」

 「うん」

 「な、なんで」

 「なんで?死にたくないから、それだけ」

 「戦えないなら、引っ込んでて邪魔」


 前方か、厄介な下か……下だな、戦力も多い上対処がしづらい。


 「隊長、下の援軍に行きます、」

 「……そうか、何人だ……」

 「二人で二十と少し」

 「そうか………行って来い」

 「了解」


 姉さんを抱えて下に飛び降りる。大将首は何処にあるのかは分からない、けれど、全員殺せば大将首は関係ない。死にたくはないから、生け捕りができないなら殺すしかない。


 「鎖せ(とざせ)――argentum() mundum(世界)――」

 酒呑童子×熊童子×虎熊童子×星熊童子×金熊童子×金童子×魏石鬼八面大王×大獄丸×鬼童丸×茨木童子

 「(さい)――鬼拳(きけん)――」


 姉さんが凍らせて、僕が鬼の幻獣を重複して粉砕する。生身に杭を打ち込むよりかはマシだ、箍が外れ他状態なら人の形をした氷像を壊すくらいの気の持ちようくらいになる。悪いのだ、人を殺すことへのブレーキが利かなくなるのは。


 「隊長、下終わりました」

 「……すまない……休め」

 「っ……はいっ………」


 空賊退治は問題なく終わった。三隻落とされた後、直ぐに一隻が撃墜され空賊から白旗を揚げた。そして……そして、そして、落とされた四隻と分隊五隻、計九隻の中、五隻の乗組員が死亡という事となった、空賊も賊とは言え仲間内ではそれなりにやっていたのか、涙ながらに連行されていった。

 僕と姉さんはセントワート家の領地に着くまで座りながら起きていた。一部の生徒はこちらに近づくことなく、畏怖の目を向けてくる。まぁそりゃそうだ。目の前で、空賊とはいえ、命が散る瞬間を、散らしている瞬間を、奪っていく瞬間を、見てしまったのだから。

 誰が悪いかと聞かれれば、僕と姉さんだ、未熟だから生け捕りという方法が取れない、空賊となった者たちも悪いとは言うけどそれでも、命を奪ったのだから。転生して十五年、転生した自覚から十年、人を殺すということへの罪悪感が減ってきている。どんな奇跡でもあちらには戻れないな。

 死んだ魚のような目をしながら、セントワート家の領地に降り立つ僕達、領主とその娘が出迎えてくれる。


 「悩ませれていた空賊の討伐しかと確認しました」

 「して、今回の功績者は?」

 「……そちらの二人だ」

 「そうですか……学生のやうですな、昇格を考えましょうかイヴィス、確か取り巻きも参加していましたね?」

 「ええ、」

 「お嬢、泥を塗るようで申し訳ないですが…何もできませんでした、あの二人に助けられるばかりで……」


 助けた、か、そんなことはない、人を殺して褒められることではない、昇格もできるはずがない、していいはずがない、箍が外れて、落ち着いた頃にまたこうなる。この先自分の命を優先して、何度殺すんだろうな。


 「助けてはない、今回のことは褒められたやり方じゃないんですから……少し、下がらせていただきます」

 「そうか、応接室があるそこで」

 「いえ、外で大丈夫です」


 一礼しそのまま離れる。そこにヴェントスが船内でのことを感謝しに来た、お前もか。


 「なんのよう?」

 「いや、殺されそうになったところを助け「助けてない、いや助けたのかもしれない。けど廃嫡されたとて君は王家に連なる家の出だ、あの場にいた誰よりも命の価値は重い」

 「それでもだ、私は君に感謝を」

 「くどい、ただまぁ……付いてこい」


 律儀なもんだ。精神的な傷は残っただろうにわざわざ下がったのにまた顔を向けることになるとはね、けどこれとまた確執が張ることになるだろう。


 「この度は誠に申し訳ございませんでした」

 「今更…なんのよう?空賊討伐への参加、それで許してもらえると思ったの?待っていたのに!手紙一つ出なかったことにできるわけないでしょ!」


 本当にそうだ言葉は言霊、嘘はつけない。それが貴族社会ならば、婚約ならば、契約と同じだ。


 「嘘をつきたくなかったんです。私は他の女性を愛してしまったのですから、それでも婚約者の貴方には「何が嘘よ!他の女にたぶらかされたのに!私を捨ててまで、何がよかったのよ!」


 体育祭で問題があったらしいが、その日は学校側に頼み込んで休んだ。というより、いま国で問題になっていることについて軽く調べていたのだ。まぁ聖女の空白は対処できないんだけども。故郷のニヴルヘイムに付いてだ、そのうち帰ることになりそうかな。


 「なぜ、好きになったのかは分かりませんですが、愛してしまった以上、貴方に顔向けできませんでした」

 「そう、体育祭の時に出向かなかったこちらも悪いわね、貴方達それ以上はだめよ」

 「お嬢、ですが…」

 「……もう、いいわ」


 許すわけないよな、貴族の面子としても、一人の女性としても、裏切られたことには変わりないのだから。


 「失礼します」

 「なら僕も帰らせて」

 「待ちなさい……貴方はなぜ連れてきたの?体育祭の時にはいなかったわよね?」

 「貴族社会の問題がこれで少し軽くなるならいいと思ったんですよ。軽く、決闘の時相手貴族の名は調べましたから。それに女に籠絡された男が作る国はろくなものじゃないというのを古文書で見たことがありますから」

 「内容、聞かないのね」

 「聞かれたいんですか?」


 聞かれたくないからあんな反応をしたのだろう。聞かれたい時ならばもう少し隠そうとする、彼女にとってヴェントス・アコニツムはもう過去となり始めた、男でも探すのかな。


 「いえ、そういうわけじゃないわ、どうすればよかったと思う?決闘までしてまで、考えたのでしょう」

 「別に、わかるわけじゃないですよ、まぁ今の貴方は、以前と比べてもひどいとしか言えませんけどね。奴隷減らしたほうがいいですよ」

 「そう、意地悪ね」

 「好きに言ってください、しょせん平民上がりの人間ですから」


 わかることなどなにもない、わかるとすれば、人を殺したことによる怨嗟だけだ。

「助けて」「殺さないで」「死ね」「お前だ」「お前のせいだ」「死んでくれ」「死ねばいいのに」「殺して」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」「取り繕うな」


 一度殺したことによる怨嗟、取り繕うなと言うけども取り繕わなきゃもう死んでるも同然だ

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