第十二話 空賊
「ふぅ…まさかこうも早く召集がかかるとはね」
「まぁ、いいんじゃない、合法的に休めるんだし」
「いや、そうでもないでしょ、しかしなんでいるんですか?乳兄弟様……」
「ヴェントスだ、こちらにもいろいろあるんだよ」
空賊退治に、Cランクとして呼ばれた僕と姉さん、冒険者として呼ばれたのだが、港には殿下との乳兄弟である……ヴェントスがいた。
「そうですか……金が、立場か、それとも、そこにいる貴族関連か」
「はぁ?」
ヴェントスは素っ頓狂な声を発し、遅れて後ろから数人の貴族が出てくる。おそらく辺境貴族だろう。
「気づいていたのか」
「なぜ、ここに…」
「お前がお嬢様に会いにこないからだ、それに今空賊が出ている地域はお嬢様に関連がある場所だからな」
「内容はだいたい予測できますけど、足を引っ張り合わないでくださいね」
空賊退治は命に関わる。だから、私怨で動いているものがいると動きに支障が出る。今、空賊被害が出ている有力家はたしかセントワート家だったな。軍事実力がかなりあり王家ともつながりの厚い伯爵家であり、ヴェントスの元婚約者がセントワート家の家のものだったはずだ。
「お、ストレンジ姉弟じゃねえか、久しぶりだな」
「久しぶりです、隊長」
「おう、この戦いなんだかな、学園騎士が多く経験者が少ない。かなりの部隊がやられててな、お前ら二人は両翼となってもらう」
「はい!」
空賊退治や蛮族退治でお世話になった隊長は、貴族でありながら身分で差別することなく、実力で評価をしてくれる人間だ。故に僕や姉さんはかなり親交が深い。
討伐に出された船はわずか三隻、王国でもかなりの軍艦だが、今回の空賊退治には少なく感じる。既に何隻が撃墜させられているため、隊長直々に声がかかった。つまり余裕がないと言える。三隻のうち、経験者は外二隻に分けられるのだが、
「なんでいるんですか?」
「ある程度実力は買われてんだよ俺は」
「そうですか……セントワート家のもとにつくだけはありますね」
「そういうお前らだって皇女と公爵令嬢についてるじゃないか」
「あくまで保険として付いてただけだ、もう関わることはないよ」
「どこまで読んでやがる」
「さぁ、ある程度予測はできだろ、それに皇女と公爵令嬢が仲が良いほうが国政は安定しそうだろ」
それだけだが実際には役に立った。国の中枢を支える公爵家だからこそ、王族との関係が深く、良好でなければならない。まだ子供と言われる位置だが後々役に立ってくるはずだ。
「それじゃあ準備してください、今までの情報ならまずは三隻、そこから二隻後ろに援護するように来るらしい。おそらく本隊は別にある」
「そ、そうか、」
空だと前後左右の他に上下からの襲撃も可能になる。そして最初の方は軍艦による砲撃により防御壁を壊し、空中戦を可能とする守護獣持ちが飛んでくる。その後に体当たりで乗り込んでくるといったところか。
ビー、ビー、ビー、ビービー、
来たか……相手は…やはり三隻、他二隻が来る前に撃墜するのが今回の目標だ。
「フェイト、いけるか?」
「もちろん、生死は?」
「life!」
「了解、前方十一時、十二時、一時のの方向にそれぞれ一隻、こちらは十一時の船を叩く」
「正解だ!行くぞ、気合入れろ!」
敵の船の位置を確認後砲台を相手に向ける。船の動力である魔石とは別の魔石を砲台に使っているが、それでも距離には限りがある。射程に入った瞬間に両者砲撃を開始する。
「飛翔――黒翼――」
「破壊は砲台までだ。追加の情報は通信魔道具に送る」
「了解」
姉さんの方は大丈夫かな…いやまずは目の前の敵を叩こう。戦闘での思考は最低限、周りを気にするのは後。それじゃあ行こうか。
―――――――――
「かなりの設備ね」
「ああ、エリス、お前は防御壁の維持を頼む。船に届いたら暴れてくれ」
「分かった、life?」
「ああ、」
「閉――glacies murus――」
「相変わらず馬鹿げた出力だ」
一時の方向から来た船からの砲撃を防ぐべき氷で壁を作る。質量はもちろんあるので薄く、そして船を覆うように固定してある。守護獣の力は大きさではなくそれに込められた魔力によって変わる。どんなに強くても密度が低ければ脆いのと同じだ。この壁を見て相手はどうするのか大抵は決まっている。体当たりをして破壊をしに来る。
「墜――Mazza glacies――」
私が好んで使う武器は両手剣、それもツヴァイハンダーと呼ばれる物だ。2m前後の長さで、最大の特徴は刀身の根元のリカッソと呼ばれる部分が非常に長いこと。リカッソには刃がないのでそこを持つことで間合いを詰めた戦い方をすることができる。そして私はツヴァイハンダーの大部分を氷で覆い金砕棒と同じ形状にする。重さはもとの剣の重さと氷の重さと荷重が増える分勢いが落ちる。これで殺すことはない。
「はっ!」
フェイトは男ながら体格が小さく力押しではない戦い方をする。だから私がこういった武器を気兼ねなく使うことができるわけだ。
「ふっ!」
「ガキ一人だぞ!止めろ!」
「止められねぇ!あんなの人間じゃねぇ鬼だ!」
女としての体格は普通だ。守護獣の質で見た目はあまり関係ないみたいだけど、強化系統じゃないから鬼と呼ばれる筋合いはない、そのはずなんだけどなぁ。
「相変わらずだな零鬼」
「それやめてって言ってるんだけど」
「認められてんだよそれだけな、学園とかでもそういうのあるみたいだけどよ、戦場でつけられるのとじゃ別なんだからよ」
「それはそうですけど」
「早く慣れと…け…っ!不味い、あとから来る二隻は?」
「?!まだ来てない!」
どこ?後ろにもいない、前後左右何処を見ても見当たらない、影が出来ているわけでもない……まさか…下?
「姉さん!下だ!権限――鴉天狗――」
「了解」
直ぐに飛び降りて、フェイトが出した守護獣に抱えてもらう。私が持つフェンリルは飛べないからこうするしか方法がないのだ。さすがに一人じゃ生け捕りは厳しいかな。
『おいっ、エリス!繋がったな?下の船は生死問わずただし船が制御できる程度には残しておけ!』
「了解」
通信魔導具から送られてきた言葉に私は武器を握り直す。それじゃあ、さっさと終わらせましょうか。
「権限――ヴァンガルンド――」
間違ってもフェンリルとは言わない。生死とはずとは言えそんなに進んで殺しをしていいわけではない、誤って殺してしまったときに咎められることがなくなるだけだ。隣の船にはフェイトが行ったはずだ、冷気を振りまきながら向ってくる空賊の腕と足を斬っていく。
「なんでこんな化け物がいるんだよ!」
「本隊を呼べ!俺たちじゃ……」
「呼ばせない、貴方達はここで終わるだけ」
別に人を斬るのができる訳では無い、ただ一度殺しているから、斬るだけならマシと言える。自分が気付かないほどの剣閃で相手を斬れば精神的にも楽だから。それはフェイトも同じ。大丈夫かな、
―――――――――
敵を発見して直ぐに相手の戦艦に降り立つと、わらわらと空賊が出てきた。
「飛べる騎士はお前だけか、しかもガキ一人できたのは悪手だったな」
「別にアンタらと戦うことが目的じゃない牙を削ぐのが僕の目的だ」
「やらせねぇよ!」
後ろから、まぁ空賊だ飛ぶことができないという考えは捨てたとほうがいい、鳥や風系統の守護獣は飛行を可能とする。そして、飛べるということはわざわざ最初から敵船に乗り込む必要はない。相手の砲台を斬りつけてからここに来た。
「こっちにかまってていいのか?」
「あ?」
「前後左右にもいない敵なら何処にいると思う?」
「…?!下か!」
「正解」
『フェイト!そこはいい周りの警戒を頼む、そろそろ「下から来る!そっちに回るからここは頼む、姉さんにつなげてくれ」
『なに?!分かった』
「権限――鴉天狗―― ――雷獣――」
片方を姉さんに任せて、雷獣と共に戦艦に乗る空賊の足と腕を斬っていく。斬らせてけれない猛者は雷獣を使って後ろから奇襲をかける。別に騎士じゃない、戦に誇りも誠意もない。首を取ればいいのだから。
「騎士じゃ、ない、のか……」
「一応な周りからは詐欺だって言われるけど、今は関係ない、残りもかかっておいで終わらせるから、ちなみにもうひとつの方は氷漬けになっているはずだよ」
「死ねぇぇぇぇ!!」
それでも構わず攻撃してくるものの腕を剣で貫き、雷で焼き、それでもまだ向かってくるので顔面を蹴り飛ばし、相手が動かなくなるまで意識を逸らさない。
「さて、見た所この分隊というよりこの船の最強はコイツだねどうする?降伏する?」
脅しではあるがこちらに最低限の被害で第一関門を突破することが可能となった。拘束した空賊は近くの貴族に引き渡す。セントワート家のところだ。ヴェントスは船から降りずにいたのでおそらく会いに行くつもりはないのだろう。
「フェイト、エリス、悪いが中央隊に戻ってくれそして、この学園騎士を守ってくれ」
「……分かりました、何かあったらそちらに行きます」
「なのでこちらは安心してください」
後半戦、情報がないからさらに気を引き締め防御を固める。後ろと下は守護獣だよりになるが、ヴェントスの護衛を名人なるとはな、廃嫡されたとしても王家に連なるからだろうか、めんどくさいことだ。




