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第九話 武器を取る理由

 「……何もないとこうもゆっくりできるのね」

 「そうですね、少し寝すぎました」

 「おはようございます、御二方」


 フェイトくんとエリスが見つけたという島に来て数日、生活習慣が崩れないように気を張り始めている、けどメイド達より早く起きて剣を振るう姉弟を見て、私達とは違うことを実感させられる。


 「左が甘い!隙だらけだ!右手だけに集中するな!二本あることを生かせ!手数で攻めろ!」

 「はぁ……はっ!」

 「溜めが長い!」


 「間合いを読め!リカッソへの持ち替えを滑らかにだ!遅い!体全体を使え!」

 「ふぅ…はぁ!」

 「溜めはいいが、無理に動きすぎだすぐに疲れるぞ」


 「そろそろ終わりにしたらどうかい?それにお客さんが森に来てるよ」

 「はぁ?」

 「恐らく決闘での二人の処遇が決まったんだと思います」

 「首に関しては根回ししたから大丈夫のはずです」


 二人の生死は問題ないとリコリス様が言うけど、私の身勝手で巻き込んでしまったのだ、あまりいい顔はできない。


 「じゃぁ、メイド長と御二人、あと数人メイドを連れてあっちに戻るか」

 「だね、私とフェイトだけじゃ怪しまれそうだし」

 「それじゃぁ、ついてきて」


 階段を登っては降りて、部屋を行き来して、また降りて、それを繰り返して玄関に出ると。濃霧が立ちこめるあの森に着く、浮島での生活場所を見ると小さく見えるが、二人の身分を考えると豪邸ともいえる家だ。

 この家にも霧の影響でうまくたどり着けないみたいだから、迎えに行ってくると、二人は移動していった。



――――――



 「どうなっているんだ…」

 「かなり広い範囲を霧に覆われていて、進めません」

 「本当にこの場所なのか?」

 「はいっ!しっかりと確認しました」

 「すいませんね、出迎えるのが遅くなり、」


 やはりと言うべきが、霧の前で立ち往生している宮廷官に顔を出す。


 「この霧は何ですか?」

 「ここに住まう守護獣のものです手順を踏まないと入れないので、付いてきてください、」

 「そうですか、ならこちらに来ているという御二方もそこに?」

 「ええ、少し頼んで霧の範囲を拡大させてもらいました。下手な防犯で何かあったら首が飛ぶので……着きましたよ」

 「広いな、まぁいろいろありましたから」


 客室に案内すると、ビオラさんと、リコリスさんが、お茶をしていた。こっちに来たときにメイド達に軽い説明をしていたのだ。ライフラインは守護獣で補える。

 どうなるんだろうな、ストレンジ家の処罰は…



――――――



 フェイトさん達が宮廷官を連れてきたので応接間を空ける。応接間だけ特別に作ったものらしい。貴族用の部屋になっているけど、男爵家よりも質素だ。


 「結論から言いましょう、昇格です。ストレンジ家ではなく、それぞれに一代限りですが男爵の地位を授けると。ストレンジさんは首輪の意味で、エリスさんは、女皇様直々の提案で無事受理されました」

 「そう…ですか」

 「喜んでは?昇格ですよ、貴族としての立場が生まれますがね。今の時代に貴族になるには、豪商に生まれるか、戦争になるかしかないのですよ」


 貴族への昇格、一代限りとはいへ立派な地位だ。なのに……二人の顔は浮かばない。それどころか嫌な雰囲気をしている。貴族社会に入りたくないということだったけど、それでも一代限りの男爵なら発言権もないに等しい、なんで。


 「数百年ぶりの貴族入りですからね、夏休みが終わり次第宮廷で、授与式が行われます」

 「…わかりました」

 「では帰らせてもらいます。ウルカヌス家から様子を見てくれと言われていましたがずいぶんとリラックスした様子で、いい報告ができそうです」

 「では案内しましので」


 やっぱり、昇格に乗り気ではない。正装持っていないというのもあるかもしれないけど、それだけじゃない。


 「……私が母に頼んだのは、首の安全、どう頑張っても昇格はあり得ないはずよ。でもなんで…首輪言いたいことは分かるけど、エリスはこの決闘に深く関わっていないのに」

 「二人は貴族社会というより、政治から来る人間関係を嫌うようでした……何があるのでしょうか?」

 「知りたいか?」

 「はいっ…」

 「そう、説明してあげるから……一度島に戻りましょう」


 一度島に戻ったけれど、二人は黙ったままでいる。切り出せないみたいだ。


 「フェイト、エリス、外にいろ、おれたちが話しておく。他人から見たほうが、これはいいかもしれない」

 「……ふぅ…分かった、頼む」

 「鞍馬、酒呑、お願い、」


 二人は各々鍛錬用の武具を持って外に出ていった。残ったのは朝に二人の誰の相手をしていた守護獣だった。何が来るのかとリコリスさんと身構えていたけど、はじめの一言は予想打にしないものでした。


 「うん、君達二人は戦える、そう聞いた、なんで戦える、いや、なぜ武器を手に取った」

 「えっと……」


 私は、殿下の隣に立つためにできないことは減らそうとそうやって動いていた。宮廷にいた頃はメイドとして女皇様に仕えていたこともあり、守るためためだった。守る為、それはリコリスさんも同じだった、暇つぶしの側面もあっただろうけど。


 「そうか…自分の身を守るためや、娯楽か、いいだろう。努力や目的は人それぞれだ。だが、こういうのも悪いが君達戦う力は必要がない。守られる立場の人間でもある」

 「それは…」

 「確かに、今は学生ですから、そういった機会があります。けと、卒業すればまともに戦うことはないです」

 「そうだ、君たちの国のあり方は詳しく知らないが、二人と君達の違いとも言えるこれは、昇格を嫌う理由に繋がる、武器を取る理由だが。生きるためだ」

 「生きるため?」

 「冒険者なら命を守る武器だから何ら問題はないはずですが」


 道を探す冒険者、魔物や天候被害、色々あるが自身の身を守る武器は必須と言っていい。


 「ただの冒険者ならな、二人には親がいない。守護獣からくる宗教問題で亡くしている。いや目の前で殺されているらしい。これは二人から聞いたことだから差異はあるやもしれない。だが、親という後ろ盾、ましてや拠り所がない二人に残された道は少なかった」

 「宗教は政治に深くかかわるだから?」

 「けど、それは昇格とは関係ないんじゃ……」


 宗教理念は人それぞれだ、故に対立は絶えないし、宗教理念の違いで戦争が起きたことなど何度もある。宗教を元に政治をつくる場所もある。政治による人間関係の問題、だからなのですか。


 「続きだが、鞍馬ぁ変わるぞ。親がいない二人は出来ることを探して見つけたのが冒険者だったわけだ。親がいなくても、後ろがなくとも関係ない完全なる実力主義の世界、二人が武器に見いだしたのは《《生きる方法であり、己が生命線》》だ。お前らのような、軽い気持ちで武器を持つものとは違う、当たり前だ。武器に乗せる重さが違うんだからな。Cランクこれはあくまで他人の評価で、生きる過程にはあまり関係はない、」

 「ランクは身分制度を実力で補正するもの、けど貴族社会でそれは意味をなさない、評価を得られる可能性が上がるだけ、実際に効果があるのはBランクの貴族から……」

 「まぁ、理解する必要はないぜ、なんせお前らとは次元が違う、人と人の戰場を抜けた二人には一生追いつかねぇぞ、命の重みを知らない限りな、知ってもできないことはあるけどな」


 誰よりも必死に武器を振るい最前線を歩いている。生き急いではいない、ただ、不安定な安全を安定させるためだけに、努力している。殿下達が相手にならないのも納得です。経験したもの、身分、全てが違う、命を賭ける覚悟が違う。殿下は、殿下達はまだ甘かった。何も見えていなかった。

 「あんたは自由を理解していない。自由ってね大変なんですよ、問題が起きたら自分で対応しなきゃいけない、後ろ盾がないから貴族に目をつけられたら、最悪の場合生きるのすら難しくなる、それでもですか?」

 何もない平民が、生き続ける最低ライン、それが自分達と言っていたのか…勝てないですね。けど…


 「それなら自分の身の安全が確保できる、貴族に慣れたのに喜ばないのは何ででしょうか?」

 「そうね、ビオラの言うこともあるわ、」

 「ん〜身内を傷つけた奴が評価されたらどう思う?」

 「それは嫌です、」

 「そういう事だ。皇太子とやらを評価していた貴族は多いだろうな、でも、皇太子としての価値はない、利益をつぶされた。そこからの標的は、成り上がった二人だ、一番良いと言える結果は、王族が傷つき、でも王家との公爵家のつながりは保たれ、恩がある。ゆえに二人は退学を罰とする。これが丁度よかったんだよ……まっ、あとは自分達で考えな、仮にも政の中枢なんだからな」


 違った、他より突出した力、故に疎まれることもあり昨年から導入された特別措置というのもあったが、それでも認められたのだと、そう思った。けど、それは私達だけだった。誰が何を評価しようと、私達は貴族で、二人は平民ということ、二人には拭いきれない過去と、私達には帰ることのできない立場がある。


 「二人が貴族なら変わったのかしら」

 「それは…無理でしょう、平民だからあそこまでできた、強くなった。二人が平民であることが今の結果です」

 「できることってなんでしょうかね」

 「無いですね、二人には、何かしたいと思ったけど何もしないことが二人にとってのありがたいことのように聞こえます」


 外を見て、互いに武器を取り打ち合いをする。ただそれだけ、今までは当たり前のように、鍛錬に精がでているなそれくらいだった、けど今は違う。鍛錬じゃない、命をかけた死闘への前夜戦。


 「二人に聞きたいことがあるんですが」

 「どうしました?ビオラさん」

 「いえ、才能って何ででしょうか、持っていることに何かあるのでしょうか、二人のような戦いの才は」

 「……難しい事言うねビオラさんは、一概には云えないし、個人的な考えにはなるけど、そんな物は関係ないかな。天才と称されても、普段何もしてなければ何もできないしね

 「どんな天才も、努力し続けた凡人に負けることだってある、つまりは、才に傲るな、努力し続けろ、自分が一番低い、弱いと思え、それでいで、誰よりも成長できると思え、何を聞いて、何を考えたかは知らないけど。僕達に才はないし、同じなんてことはありえない、確実に同じと言えることは、何もしていないことだけだ。何もしなけりゃ無能と同じだ」

 「それが私達の答え、二人は才があるよ、無いなら私達が剣を使う理由ができないから。後は努力の量、1をやって1手には要るのは凡人、1をやって2や3を手にできるのが天才、でも0なら0のまま、0を足しても何も変わらないしね」

 「そう…ですか…」


 誰よりも大人な二人、夏休みが終わり戴冠式をする二人の背中を見ても私は私達は、差に気づくだけ、いや、ようやくその差が分かってきたということ。二人にできたことは、戴冠式の正装を揃えただけ、皇太子を諌めた弟と、そこからなる政治の混乱を未然に防いだ姉、どんなふうに歴史に刻まれるか分からない、けれども私達は二人の上に立つ地位、正式に爵位を受け取ったことだけは、残る。二人の意思は思いは、残らない。

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