第零話 煙あるところに火があるのか、火があるところに煙が立つのか
「やっべぇ!」
今日で8日目出社にも関わらず遅刻しそうになる。どれもこれも、会社がブラックなせいだ。辞めようにもこの短期間で拾ってくれるとこなど等になく、休日なしで働くことに、趣味の妖怪研究も出来なくなりそうだ。
「こんにちは!」
「遅い」
「出社十分ま「一時間前だタイムカードは出社指定時刻だがな」
「はい…」
先輩も気遣ってくれてるのか速く辞めるようにと言ってくる。どうやら各部署にいる数人程度だがこのブラック会社に不満を持って組合の作成をと考えているらしい。組合は労働組合のことだ、この会社はそんなものがなかったらしい。
労働組合は、労働者が2人以上集まればいつでも自由に結成できる、憲法で保障された権利であり、会社や役所への届け出や承認は不要だ。問題は会社にバレずにどこまで大きくできるかということらしい。先輩と言ってもここ数年で入った平社員の集まり、まだまだ踏み込みきれないらしい。
高校出の僕はまだ18なので酒は飲めないから飲み会には参加せずすぐに家に帰っている。まぁ今回はそれが問題だった理由だけども。
「終わったぁ〜〜」
タイムカードは定時の瞬間数版の違いはあれど上司直々に押しているため、23時まで残業をしたのて、一円の足しにもならない。
「ただいまぁ〜はぁ…」
返ってくるはずもないが、家族に酷く言われた帰りの報告。服を脱ぎ、シャワーを浴びて、ゼリーを飲んでそのまま寝る。
バチバチと何かが弾けるような音がした気がしたが、眠気と八連勤の疲れで起きることはなく。妙に暑いと感じながら、僕は火事で息を引き取ったらしい。
「…………これが死因ですか」
「ええ…」
「随分あっけないなあ、」
「達観してますね縁さん」
「まぁ、名前と違って、いい出会いはありませんでしたから、好みも人と違って一人でしたからねぇ、ところで死んだら冥府に行くと思っていたんですけど、ここはどこなんですか?天照坐皇大御神」
鏡に映る生前の自分を見て、気になったことを聞く。
「神としてはあまり好ましくはありませんけど、この時代にまだ妖異を信じ、神話に通ずる知識を持ったものは稀なんですよ。信仰が少ない妖異を留める力になってほしいのです、まぁそちらでは異世界転生として、新たな文化となっているみたいですが」
「ああ、ありますねぇ、でもこの時代じゃ創作だからいいんですよ、妖怪も神もね、心のよりどころというのは誰にでもあるわけじゃない、目に見えない物だから、すがることができる。それが宗教ですから」
宗教は個人の精神的な支えとなり、人生の意味や目的を見出す上で重要な役割を果たすことがある。日本の信教の自由というのも、そういった事を鑑みての法律だろう。
「そうですね、私も人がいるからここにいれるのですから。では転生先の話です。その世界では生まれながらに、霊獣や幻獣といったものを宿すのですが、まぁいわゆる神話の生物です。神獣というのもありますが、向こうでは守護獣と一括されています。どうします?自力で増やすこともできますけど、妖怪からなら誰でも良いですよ」
「じゃぁ、煙々羅かな、僕は火事で死んだなら。火事を知らせる煙々羅がいい。そして火煙縁、これも縁なのかもしれないしね」
「……そうですか、ではあなたの火煙縁としての記憶は無効で精神が落ち着いたあたりから戻っていき、10の頃には混ざり定着します。では、妖異との生活楽しんでくださいね」
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「フェイト〜」
「は〜い」
今の僕はフェイト・ストレンジ、7歳になりこちらでの家族とともに過ごしている。記憶が戻ってすぐの頃は混乱したが今は何とかやっている。
「そうだ、フェイトお前の守護獣なんだがそろそろ制御訓練をしてみないか?」
「ほんと!」
「ああ、」
「大丈夫なの?私みたいに制御できなかったりしたら…」
家族構成は、父母、そして一つ離れた姉が一人。姉の名前はエリスという。神獣が守護獣みたいだ。僕は霊獣なので差があるがその分制御がしやすい。霊獣、幻獣、神獣と強くなっていく。強さの分制御がしにくいが、制御できれば自身わ守る盾となる。
「それじゃぁ、明日調べに行くぞ」
「うん!」
「なるほど、この子は霊獣ですね、お姉さんが神獣でしたので少し拍子抜けですが、その分制御はしやすい。神獣持ちは、宗教や国に狙われやすいので、フェイトさん、お姉さんを守ってあげなさい」
「うん!」
この世界にも宗教がある。最高神が太陽の神ではあるが天照坐皇大御神ではない。ゾネという名前らしい。他にも月の神がモントというのは知っている。この二柱がこの世界で最も信仰されている神で、宗教名はレギリオンというらしい。他にも神獣を信仰しているところもあるが僕は知らない。
「……こう?」
「ほう、煙ですか面白い」
「煙幕としても使えるからな守りにはもってこいだろ」
「うん!」
「へぇ~フェイトの守護獣は煙なのか、」
「記録にないみたいだから名前をつけないとな」
「名前か〜」
「そうね、名前は大事よ」
「うん、煙々羅これにする」
「そうか、良い名だ」
「うん、」
ある程度制御することができたのは下位の霊獣であるのと、元々煙々羅というものを知っている転生者だからだろう。僕の妖怪との生活は始まったばかりなのだ。父さんから聞いた、いろんな幻獣、神獣の話。そこからこの世界にどんな妖怪がいるか、予想しながら生きていた。今度は齢8にして、人の醜さに触れることになるとも知らずに。
「なんで…」
「父さん達は?」
「抵抗したので切りました」
「えっ…………」
燃える家、姉を守ろうと前に出るも、家族を守ろうとする意志は姉も同じで後ろから抱きつくようにしている。
「まったく、神獣を守護獣として持つのだからこんな汚い場所にいなくてもいいと言うのに、お嬢ちゃん、こちらに来なさい」
「い、嫌だ」
姉を連れて行こうと言葉を発したそいつらは、否定されてもう一度脅しをする。炎系列の守護獣、家にはもう隠れるものもない。
「もう一度いうよ、こちらに来なさい、これ以上は譲歩できないからね」
「そ、それでも」
「仕方ないかな、おいっ」
「神父さん!」
甘い猫なで声、それでも姉は動かない。
「さて、こいつを殺されたくないなら、こちらに」
「いやだ、嫌だ、いやた、いやだ、いやだ、いやだ、」
「お姉ちゃん」
「私は行かない!」
姉さんの叫びとともに、一面が銀色に染まった。