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第9話 機密物資「TYPE:CYPHER」

『……!』 


 緊張を抑えながら状況を把握する。


 敵との距離は150㎞。宇宙にしては非常に近い。なら、


『左舷副砲全機稼働! そして全速前進だ! 機関出力を最大限に! 回避機動だ!』


 今、量子魚雷から青い光が見え始めた。あれは魚雷が加速を開始した証。時間がない。


「ひ、ひぃっ……! い、いや、」


「了解! 機関全速! 核融合炉全機稼働します! プラズマ速射砲、左舷3門、発射準備完了!」


 船体の軋む音が唸り声のように聞こえてくる中、船がまた激烈に揺れ出す。


『面舵40度! 副砲で魚雷を狙え!』


 プラズマ速射砲では魚雷の迎撃は出来るか、船ぐらいになるものを完全に制圧するのは難しい。


 そして今もっとも危険なのは魚雷の方だ。それを全力で迎撃しいないと。


 舵を右に回す。今も量子魚雷が飛来する中、タイミングを計る。


―――――――――……!


 量子魚雷は激しく起動するこっちを追って、猛烈に来ている。


 息を呑む音が聞こえる中、カトリーヌの声が聞こえる。


「敵魚雷、副砲の射程圏内に入りました。照準完了!」


『なら今すぐ撃て!』


――――!


 3門の砲口から青い光を連射する。


 1秒内に数発を放つ速射砲から無数のプラズマの束が放たれ、弾幕を形成する。


―――――――――!!!、、――――――――!!!


『くぅっ……!』


 黄色い光を薄く発する弾頭が撃たれ、局所範囲で時空を歪める波動が周りを覆い尽くす。


「報告! 量子魚雷2発、迎撃しました。しかし……!」


 撃ち切れなかった1機の魚雷が、本格的に速度を上げこちらへ炸裂する。


 このままでは激しい機動をする船に直撃し、この古びた船体はそれに耐え切れないだろう。なら……!


『カトリーヌ! 光速機動だ! ラプラス炉、全開!』


 魚雷はどれだけ早くても光速には至らない。ならそれを上回る速度で逃げてやる。


「……! 艦長! それは、」 


「はい! ラプラス対消滅炉、機動します!」


 魚雷との距離、90㎞。もう目と鼻の先だ。


『光速機動、開始!!!』


―――――――――!!!


 時空が爆発するような轟音と同時に、船が弾かれるように炸裂する。


 吐き気を堪えながらレーダーを確認する。海賊船と量子魚雷は今も俺たちを追っているものの、完全に置いて行かれたように距離が遠くなっていく。


 1秒に付き、二十万㎞ずつ距離が遠ざかっていく中、俺は反撃を開始する。


「報告! 本艦、無事に光速機動を移行しました! 只今、」


『言わなくてもいい! このまま回転して奴らに向ける! 遠距離射撃でぶっ潰す!』


 数十、数百万㎞の距離を超えて砲撃を飛ばす能力なんて、海賊船にはありえない。


 そして魚雷も辿り着けないこの距離で、一方的に長距離砲撃で潰してやる。


「りょ、了解! 方向を変えます! 只今軌道修正中!」


 そうやって流星になったラ・イールは、大きく回って魚雷の方を狙う。


『光速機動停止!』


「はい!」


 船が止まり、また光が炸裂する最中、俺はコンソールを操作する。


『第2主砲! まずは量子魚雷から!』


 距離200万㎞の向こう。そこでは量子魚雷が以前として使命を果たすためにこちらへ来ている。


 海賊船は俺たちの光速機動に圧倒されたのか、どうするべきか決められない様子だ。


「第2主砲、現在充電率81%! いつでも撃てます!」


『ならまずは魚雷から! って……』


 思いもしなかったがちょうど良い位置を捉えた。


 今の位置から魚雷を迎撃したら、その射線上にあの海賊船も入ることになる。


 即ち一撃で両方を同時に仕留めるのか。なら今すぐ!


「艦長! 照準を完了しました!」


『良い! 撃て!』


 迷う暇などありはしない。また殲滅の光が放たれ、王国の最新鋭兵装を貫く。


―――――――――!!!


 そしてそれだけでなく、その高熱の束は宇宙空間を真っすぐに走り、あの海賊の棺を貫く。


 即座に起こる爆発。


 海賊船は、炎に包まれながらデブリに化した。


 その激しい爆発から、轟音が聞こえてくる。


『……いや、違うな』


「……はい?」


 ここは宇宙。故に音が聞こえてくる訳がない。


 こちらへ届いたのは音ではなく、振動のみだった。


 戦闘終了。


 ここで輸送船を危機に追い詰めた危険勢力を一掃した。


『戦いは終わったな。レティシア、輸送船に通信を送れ。今からそちらに向かうと』


「は、はい!」


 さて、一体どんな輸送船で、海賊が襲い掛かったのか気になるな。ちょっと見てみるか、と思っていると、カトリーヌが何かを言い出す。


「……! 艦長! 海賊船の残骸から信号を感知しました!」


『……なに?』


 残骸から信号だと? まさか生存者から? いや、そんな訳ないか。あの爆発から生存なんて出来る訳がない。


「信号です! 規則的に発せられる電波で、人ではなく何かの装置かと思われます! 如何なさいますか?」


 レーダーを見る。輸送船に向かうにはどうせあの残骸の方を過ぎていく必要がある。


『なら近くに行って確認する! 念のために副砲はいつでも使えるようにしておけ!』


「了解!」


 ……そうしてラ・イールがあの残骸の群れの方に近付く。


『……』


 近寄りすぎると危ないので、少し距離を置いて望遠カメラでそれらを見渡す。 


 砕かれた鉄の船体に、周りに浮揚している破片の群れ。生存者はいない。しかし、


『……あれは?』


 壊された欠片の中で、とあるものが目に入る。


 表面が真っ黒な、長方形の箱。


 ちょうど人が入れそうな程の大きさのそれは、とある部分のランプが緑色に点滅していて、今もデブリと一緒にそこに漂っている。


「あれは、物資の類いかと……しかし、あの砲撃で、壊れなかったなんて……」


 カトリーヌの言う通りだ。実際、戦艦の砲撃に当たったら大体のものは壊れる。


 いや、よっぽどのものでないとそもそも壊れる前にチリに帰ってしまう程のものだ。


 この海賊船もそれに当たって一撃で壊された。それだけでなく、あれ以外にまともな形を残しているものがない。


 なのに、あれだけが元の姿を保っていて、信号まで放っている。おかしいな。


 俺は違和感を覚えながらその箱を注視する。


『カトリーヌ。スキャンで何か分かることはあるか?』


「……いえ、こちらとしても、何も分かりません……」


 ならどうしよう。でも、何か大事なものである気がする。正体不明で、危険かもしれないが、自分の本能がそれを逃してはいけないと告げている。


『ならあれを持ち帰るとする。ドローンの用意を!』


「えっ、艦長! それは些か……!」


 レティシアが俺の決定に異論があるような目で俺を見る。


『いや、何か役に立つか分からない。それにあれが何なのか気になるし、調べないとだ』


 あれが何かは分からないが、せめて危機を冒して戦闘をしたものだから、なにか成果を手に入れたい。


 そうでないと釣りに合わないし、あの正体不明のものの正体を明かしたいと、自分の本能が刺激される。


「っ……ここでは、あなたが権威者な訳だから、分かりました」


 レティシアはどこか悔し気にそう言い、自分のコンソールを操作する。


「艦長! 多目的ドローン1機を展開します!」


『ああ』


 多目的ドローンがその箱に近付く。


 すると、それに反応でもしたのか、緑のランプが一度だけ長く点り、黒い銘板ぶ白い文字が浮いた。


――――「TYPE:CYPHER」――――


 そうやって、俺たちは海賊の正体不明の物資を回収し、遠くない距離にある輸送船へ赴く。



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