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第7話 救助信号

 ……ここは銀河の中のどこか。


 遠くから一本の流星が眩い光を出しながら宇宙空間を駆け抜けている。


―――――――――!!!


 それは真っ黒で何もない空間の中で、見る者の目を焼き尽くす閃光を放ちながら止まる。


 時空の揺れが治まったそこには、ボロボロな姿の戦艦、ラ・イールがあった。


『……逃げ切ったのか?』


 ここは艦橋。俺は艦橋の窓を通して周りの宙を見渡す。


「……はい。本艦、只今オークルから約1億㎞離れたところに停止しました」


 カトリーヌの報告を耳にして戦術マップを確認する。


「対宇宙レーダーを見る限り、少なくとも1千万㎞の中では追撃してくるものはないかと思います」


『ならもうないと見なして良いだろう。何かあったら報告してくれ』


 あの時、光の速さで逃げる時には追ってくる連中が王国や帝国の方でいるかと思ったけど、案外そうでもなかったようだ。


『追手の奴らと戦うことになるかとも思ったがそうでもないのか。ひとまず安心して良いだろう』


 一息つけられるのなら直ちに現状を把握しないと。


『って、今更だがここってどこだ?』


 逃げ出す時に方向とかあまり考えてなかったからそもそもここがどの辺りなのかも分からない。


「はい。航海システムの通りだと、私たちは王国と帝国の境界線を走り抜く形で跳躍してきたと思います。そのため、今もなお両国の最前線の付近に位置しています」


 航法装置に目を通す。今の跳躍で王国か帝国の領域に突っ込んでいったと思ったが、そうではなく以前として最前線となる領域にあるようだ。


『……最前線って言っても、何もないか』


 戦線のど真ん中だとしたら敵だらけかと思うかもしれないが、そういう割には何か目に入るものがない。

 

 レーダーで見てもそれは同じだ。


「はい。接戦する区域ではないので、ほぼ何もない状態かと。でも確認する限り人が住む惑星などは確認されています」


 ここは宇宙。星々は無限大に近くあり、それはこの銀河でも例外ではない。王国と帝国が接する最前線の長さは最低限でも1万光年は超える。


 その前線となる広大な区域全部を兵力を配置するなど敵う訳もなく、またそこに存在する全ての惑星に人が住んでいる訳でもない。


 人、いや、文明があって、国の軍が激突するところは最重要区域数個のみであり、その広い空間の中でほんの一握りでしかないのだ。


『そうか。分かった』


 さて、最前線だがまだこっちに来る奴もないし、比較的安全っていうことか。ならこれからどうするか考えないと。


『カトリーヌ、今船の調子は?』


 先程の戦闘に被弾まで、この船は本調子でない状態でかなりの無理をしてしまった。今の調子はどうだろう。


「はい! 現在、本艦は航行可能ですが、損傷が深刻です。核融合炉は2機停止、武装も半数以上が使用不能です! それに放射能汚染も以前として深刻なままです!」


 この船にも自動修復機能があるが、あれ程の被害を修理できる程のものではない。早くドックに入って修理を受けないとまずい。


 それに放射能汚染を除去することも今としては出来なる訳がないか。


『まぁ。ラプラスが無事なだけまだましか。その他は?』


「船体も以前として万全ではなく、先程の損傷箇所が今も壊れ続けています!」


 船体の調子も悪すぎるか。特に今の光速機動でかなり無理をしてしまったのか、見る限りメインシステムが船体がやばいと警告しまくっている。


『そうか。分かった』


 さて、これからどうするか決めないと。


「か、艦長。これからどうするつもりですか?」


 今まで無口だったレティシアの声が微妙に変わった。さっきまでの怯え声がない。


 言わばあれだな。初めて会った時に兵士相手に取った言動のような、権威を感じられる声。


 戦闘が終わったことで元の調子に戻ったようだ。


『ああ、今から決めないと』


 今この船は以前として帝国と王国の境目にある。つまり、敵に囲まれている訳だ。


 ここからこの銀河の外の方を目指さないと。


『最終目標はまだ目にしていない世界を旅すること』


 昔からの夢の実現、それが第一の目標だ。それに変わりはない。


「しかし……艦長、ワープゲートなしでは、旅どころか、王国や帝国から離れることも難しいかと思いますが……」


『……』


 レティシアの指摘でぐうの音も出ない。


 ワープゲート。数万年の前の超古代文明の遺産で、宇宙単位での文明を作るうえで必要不可欠な移動手段。


 一度機動すれば、出口の役割をするワープゲートがあれば宇宙のどこにでも一瞬で行ける、今の人類では理解しようもない過去の遺産。


 数万年前、かつて地球から発展を遂げた人類は、この銀河を含む宇宙を開拓し、数億に至るワープゲートを設置し運用した。


 しかし、ある日明かされてない理由で起きたワープゲートの暴走により、古代文明は崩壊。


 その時の暴走で従来までのワープゲートの9割以上が壊れ、それによって繋がれた文明も崩壊し、人類は暗黒期を迎えたという。 


 その時この銀河も地球の方とのワープ網が崩壊し、そのまま隔絶された、と……


 それから今まで数万年の年月が経て、ここの人類は国を成して文明を築き上げ、何とかまた宇宙に進出出来るようになり、過去の遺産であるワープゲートを活用することに成功した。


 って言っても、あくまでこの銀河の中にある僅かなワープゲート同士に限ってのことだが。


『数万光年の前線。ワープゲートなしでは出られないな』


 いくら光の速さと言っても前線、ひいては両国の領域はそれを遥かに超える。ゲートがいないと実質的に出ることも不可能だ。しかし、


「ワープゲートは、各国の最重要施設。全てが厳重に保護されています。今の私たちには……」


 レティシアの言う通りだ。帝国や王国、ひいては全ての人間にワープゲートは生活に欠かせないもの。保有しているものがあれは厳重に守られているのは言うまでもない。


 実際、さっきまでの俺たちや、あの要塞惑星や宇宙艦隊は、王国が帝国からワープゲート、「スイユ・デ・ゼトワール」を守るために配備したものだ。


『じゃ、これからどうすれば……』


「なら、一旦は中立宙域を目指した方が良いかと!」


『……中立宙域か』


 カトリーヌの提案を聞いて考える。


 中立宙域。今この銀河の4割を占めるところだ。


 完全に把握し切っている訳ではないが、今の所、この銀河の4割は帝国が、そして2割は王国が占めていて、残りの4割は両国に属しない中立地帯となっている。


 正確には中立というより無法地帯に近いが、あらゆる武装勢力が乱立していて、両国とも下手に手を出せないようなところだ。


『この船は光速機動が出来る。なら……最短での距離は?』


「ここだと一番近いところまで最短で3兆㎞はかかります」


『はぁ……遠すぎる』


 モニターを見ると、光速で走っても4か月はかかるようだ。結構遠い。


 でも、それしか選択肢がないようだ。


『いいだろう。当面の目標は両国の影響圏から離れ、中立宙域に向かうとする! 針路を、って……今の状態じゃ……』


 修理も終わっていなく、その上で激戦に参加し被弾まで……この船は長距離移動に耐えられるとは思えない有様だ。


 今はとにかく修復を最優先に考えないと。


『修復が必要だが、どうすれば……』


 修復のために俺に今出来ることはなんだろう。と思い悩んでいたその時だった。


「……! 艦長! 救助信号です!」


『え? なんだと!?』


 その時、レーダーから新しい物体が感知された。


「報告します! 本艦より約5千万㎞離れたところから、救助信号を受け取りました。信号を解読中!」


 いきなりの救難信号にぼうっとしてしまう。


『解読が終わったらすぐ表示しろ!』


「了解! 解読完了! 通信装置に繋げます!」


 艦橋のスピーカーからノイズが聞こえ始め、やがて途切れ途切れの音声になって流される。


「……こ、ちら王国軍第8特務輸送船団である! 本艦は只今宇宙海賊に襲撃されている! この通信を聞いたものに助けを求める! 至急我々を助けてくれたまえ!」


『……』


 王国軍の輸送船なのか。しかし、特務って何だ? 輸送船団に特殊な任務でもあるのか? 


『いや、そういうことはもう良いか。今襲撃されていると』


 辺境宙域ともなると海賊もあるにはある。しかし、おかしいな……なんでこんな危険な宙域に輸送船が? 


 その疑問もあるが……彼らを助けてあげるべきか悩んでしまう。


「艦長、どうなさいますか?」


 カトリーヌを見ると奴も悩むようだ。俺たちは、もう王国軍ではない。なら……


「ちょ、ちょっと待ってください! 艦長! 彼らを救わないといけません!」


 レティシアの緊迫した声。彼女を見る。


「彼らは味方なんです! 海賊に襲われたら殺されるのみです! 今すぐ助けに……! って!」


 自分からも気付いたのか、レティシアはその顔から困惑を隠せない。


『もう、俺たちは王国軍ではない』


「し、失礼いたしました……」


 どうやらレティシアはまだ完全に心が決まってないようだ。でも今はこの救助信号を優先しないと。

 

 その時だった。さらに通信が聞こえる。


「繰り返す! この船には軍人だけでなく民間人も乗っている! 直ちに救助を願う! 繰り返ス……、」


『軍人だけでなく民間人もいるのか』


 俺はもう王国のためには戦わないと決めたけど、それなら……話が少し違う。


 海賊にやられたら本当にどうなるか分からないし。民間人に罪はない。なら


『……カトリーヌ! 光速機動を準備しろ! 直ちにそちらへ向かう!』


「はい! 了解しました!」


「え、行くんですか……! 良かった……」


『民間人が出たら話は違う。それに見る限り俺たち以外に助けに出るものはないようだし、行くしかないってことだ。戦闘の準備をしろ!』


 舵を握り締めて俺はレーダーを見る。海賊は少なくとも3隻以上か。


「か、艦長! 輸送船に応答の信号を送りますか……?」


『……良い。早くしろ』


 少なくとも今そちらに行くって連絡はしないとだ。船の調子を考える……今の状態では衝角は無理か。


「艦長! 光速機動の準備を終えました! いつでも行けます!」


『良し! 輸送船の付近に着いたら砲撃戦を行う。全砲砲撃用意しろ! 光速機動、開始!』


「了解しました! 戦闘準備への移行を完了! 本艦、これより跳躍します!」


―――――――――!!!


 そうやって、戦艦ラ・イールがまた空間を切り開いて宇宙の向こうへ炸裂する。


 時空の揺れ。その過ぎ去った後の空間には、ごく小さな船体の破片が漂っていた。


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