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第3話 要塞惑星オークル

「貴様! またやらかしてしまったのか!?」


 クン! と、机を叩く音と怒鳴り声が鳴り響く。


 ここは王国の重要拠点、要塞惑星オークルの地表面。そこら中に各種の軍事施設が並ぶ中、複数の軌道エレベーターが地面から大気圏にまで伸びている。


 地表面の基地のどこかに、艦隊司令部の本館が見える。 


 青と白を代表の色とする、ロココ様式の頂点。まるで貴族の邸宅を思わせるような華々しいその本館の中、俺は提督の執務室に立っている。


『いや、なんのことですかね。伯爵』 


 大理石と人より大きいシャンデリア。そしてサファイアで彫刻された花々とダイアモンドで彩られている豪華な執務室。


 窓から優しく吹いて来る朝風と日差しがカーテンをすらすらと揺るがし、和やか雰囲気を漂わせようとするが、この場にいる俺たちはそうなれそうにない。


「何をとぼけている! 貴様の単独行動のせいで艦隊が危機な状態に陥ってしまったんだ! その罪、万死に値することも分からないのか!?」


 先ほどの戦闘で疲れ果ててしまった挙句、自分の椅子に座り込んでいる提督、ヴァルモンの横に、今も怒鳴り散らしているこの人。


 提督の参謀長、アルマン・デ・モンクレール伯爵だ。


 王国軍での階級は大佐。彼は容赦なく俺を睨みながら憤りをそのまま吐き出しているが、その言葉からとある疑問に気付く。


『は!? ……っ、いえ、伯爵。何を言っているんですかね。話の順序が逆だと思いますが』


 砲撃戦で押され、隊列も崩れ各個撃破されそうなのを、自分が前へ出て生き延びたんじゃないのか?


「何を言っている! その時、貴様が提督の命令に逆らって単独行動を敢行したせいで、艦隊に統制が効かなくなったのではないか! もしその時帝国の奴らが追跡を止まなかったら我々は全滅したかもしれないことだ!」


 この髭、言っていることがぐちゃぐちゃだな。このまま黙って聞いてあげるつもりもねぇし、口応えでもするか。


『いや。あの時俺が危険を冒して前へ出たおかげで、負ける戦いを何とか引き分けにできたはずかと思いますが』


 そうだ。さっき俺が自慢の戦術、コリジオン・リュミヌーズを敢行した結果、敵光速戦艦の2隻を撃沈させ、1隻を大破させた。


 そしてその攻撃で怯えてしまったのか、敵艦隊は追撃をやめそのまま後退し、戦いは終り。


 あの突撃が、負ける戦いを奇跡的に引き分けにまで持ち込んできたんだ。


「何だと!? それは結果論に過ぎない! まさかそれを自分の功績として自慢する気か?」


『ええ。自分のおかげで味方は助かったとしか言いようがありません。これ』


「貴様、ついに頭がいかれたのか? まぁ、あのいかれた戦い方を本当に行動に移すことからすれは正にそうかもだ! 貴様のその攻撃で、我々は貴重な光速戦艦を1隻失ってしまったんだぞ! それはどうするつもりだ!」


『っ、それは……』


 2連続の光速での衝突。いくら最新鋭戦艦であろうと、その衝撃は耐えられなかった。


 あの時、エカテリーナ2世と衝突した瞬間、今まで衝撃を蓄えてきた船体の耐性が限界を超えたのか、衝撃波と共にシャルル4世は撃破されてしまった。


 道連れと言うのもあれだが、その時に狙いだったエカテリーナ2世も大破。


 保護装置も壊され、本当に死にそうになってたことを今も生々しく覚えている。


 その後、無事に味方の駆逐艦が救助してくれたが、本当に運が良かったものだ。


『確かに光速戦艦を無くしたのは損ですが、その代わりに敵の光速戦艦を3隻壊したんです。全体的に見ると損ではありません』

 

 敵光速戦艦2隻撃沈に、1隻大破。こっちの1隻を犠牲にしては悪くない戦果だ。


『何だと? 貴様、戦争はそんな数えごっこで済むものでない! それに、自分の功績だと? まさか士官学校で学んでないのか? いくら戦果を上げたとしても、それが上官の命令に反したものなら功績として一切認められないという我が軍の鉄則を!」


 ああ、そうだったな。士官学校にいた時耳にした気がする。


 どれだけ優れた結果を得たとしても、それが上官の命令なしのものなら功績として認めないのが原則だと。


「もう良い! 平民風情が、貴族の命令に逆らっただけでなく口答えまでするとは。身の程知らずにも程がるということだ。これより貴様を命令不服として、軍法会議にかけるとする!」


『……うん?』

 

 軍法会議? これから裁判にかけられるっていうのか?


 その言葉を耳にし、体中から冷や汗が出ようとする。それ、有罪と認められたら銃殺刑になる可能性も高いはずだ。 


 それに軍法裁判官は、全員貴族出身で構成されている。貴族の命令に従わなかったということなら、もう死刑確定だ。


 平民出身で、頼れる人脈とか派閥もない俺が弁論しようにても、奴らに受け入れてもらえないのはもう言うまでもないことだろう。


『少し待ってください。それは、』


「貴様、平民分際で貴族のお言葉に反論するつもりか! 士官学校で学なばなかったのか? 上意下達。上が命令したら、下の者はそれに徹底的に従うのが本分であることを!」


『はぁ……』


 ため息を我慢できなかった。これ以上の会話が無用だわ。


 まぁ、今更のことだが問題は自分の方にある。


 この人がどんな人間かを知っていながらも会話をしようとした自分が悪かったんだ。


 でもどうしよう。俺、死ぬのか? 死刑が確定ならもう逃げるしかない。


 この国や軍人として戦うのとか、もう限界に近かったし。でもどうやって?


 そう冷や冷やしながら考えを巡らしていたら、隣の提督の声が聞こえる。


「ふぅ……その辺にしたまえ。伯爵」


「え? 提督、しかし……」


「もう良い。裁判など不要だ。そのようなものに費やす時間もあるまい」


 汗を拭き終えたのか、緊張も解れたのか、提督はいつものタバコに火を付けながら俺を見る。


「エラール中佐、先程の激戦、ご苦労だった。その功績を評価し、貴官をこれから新しい戦艦の艦長に任命しようと思う」


『……え?』


 提督の今の発言が予想外過ぎて一瞬、理解が及ばなかった。新しい戦艦だと?


「……!? 提督、それは……!」


 当然反発する伯爵を無視し、提督を俺を見る。


「貴官がさっきの戦いにおいてわしの命令に従わなかったのは確かに事実だが、そのおかげで我が艦隊が大敗を免れたのもまた事実だ」


『は、ぁ……』


「それは本来、裁判にかけるべき事案かも知れぬが、今の戦時。功を優先するとしよう。知っての通り、今我が部隊。いや、王国軍は戦力が足りないのが現状だ。そんな中、能力のある者を放っておく訳にはいかぬ」


 さっきの回戦を思い出す。確かに数十隻の、いや、百隻以上の軍艦が傷を負った。


 こんな戦いを数十年間やってきた訳だし、今この国には戦力となる船も、そしてそれを動かす人も足りない。


 実際さっきまで俺が指揮していた戦艦も、本来なら数百人以上が必要だが、人手不足で自動化でなんとか補っている様だったな。


 それに俺も、本来なら一生大尉のままのはずが、人材不足で進級が早まってなりたてではあるが中佐にまで上がることになったし。


「それに、わしは他の上層部とは違う。旧態依然なままではもう戦争で勝利を収めるなど敵う訳がない。帝国の侵略を退けるためにも、我々は変わらなくてはならん。有能な者は起用しないとだ」


『は……はっ! ご評価いただき、感謝致します。提督』


 雰囲気の流れを見て態度を変える。能力で俺を評価してくれるっていうのか?


 しかし、あんなことがあった直後なのに、戦艦の艦長とは……


「良い。で、戦況のことだが、最高司令部はこの宙域での兵力の補強を決定し、今この惑星へ大々的な増援が来ている。既に何隻かの戦闘艦が軌道基地に停泊しているのだ」


『そうおっしゃいますと……?』


 増援か。確かに帰還する際に見た気がする。数々の戦闘艦があったな。


「しかし、新しく配備された戦力には艦長の座が空席なものもいる。そのため、貴官をその中の戦艦、ラ・イール号の艦長として任命する」


 戦艦、ラ・イール? どこかでその名前を耳にした気がする。しかし、今はそれについて考える時じゃない。目の前の状況に集中しないと。


『はっ。ご命令であれば、何だって承ります!』


 提督は俺に任命状と書類を渡す。それを受け取ると、提督がお別れの言葉を口にする。


「良い。第11艦隊司令官、中将、ジュリアン・ド・ヴァルモンが命じる。デジレ・エラール中佐。この時間を以て、貴官を戦艦ラ・イール号の艦長として任ずる。国王陛下の栄光のために尽力したまえ」


 しかし、疑問を隠せない。提督、こんな人だったっけ?


 まあ、本当に緊迫した戦場を前にして、何か感じたことがあったのかもしれない。今はこの人のことを信じよう。


 この国、上層部とか腐っていてもうダメだと思っていたが、まだそこまでではないのかもだ。


『はっ! 国王陛下のために、この身の全てを捧げます!』


 まぁ、王様に忠誠を誓うなど、決まり切った構文にすぎないが、今は良いだろう。


 任官以来初めての、力の入った敬礼をする。


 そうやって俺は新しい戦力をもらい、司令部を後にする。




『って、ことだけど……』


 ここは第3軌道プラットフォーム、アン・ファス。


 下を見ると青い色の惑星の表面と広大な宇宙が目に入る。


「はい。そうでしたか。運が良かったのですね。艦長」


 カトリーヌは内心嬉し気に俺の話に耳を澄ましてくれる。


 あんなことがあったにも関わらず、また一緒になれたことが喜ばしいのか、普段は不愛想な彼女の口先から微かな微笑が浮かんでいる。 


 しかし、今の俺に取って大事なのはそれではない。


 軌道プラットフォームの中、軌道造船所にいるが、さっきから「あれ」から目を離せない。


 ビルも入れそうな巨大なドックが何重にもかけて並んでいる中、今も数々の宇宙船が修理を受けたり改修されていて、忙しい作業のど真ん中。


 そんな中、俺とカトリーヌはとあるドックの前に立ち尽くしている。


 その凄まじい姿を初めて目にし、我を失いそうになる中、その文字が目に入る。


『これが……戦艦、ラ・イール……?』


 そこには、全長2㎞を超える、古びた鉄の巨人が俺を待ち構えていた。



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