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第1話:コリジオン・リュミヌーズ(1)

 それはいつからだっただろう。俺は昔から宇宙が好きだった。


 人類では計り知れない程に広大な星の海。そして、未だに人の手では届かない未知の領域。


 俺の夢は、宇宙船に身を委ね、その遥か向こうを旅すること。


 しかし、現実はその夢を許してくれない。


『はぁ……また始まるのか』


 艦橋の中でため息と共にそう呟く中、戦闘情報官、カトリーヌのいつもの冷静沈着な声が隣から聞こえる。


「報告します! 第1、第2主砲の充電率が90%を超えました。臨界点を超えたのでいつでも照射可能です!」

 

『良い。ならもう少し待機だ』


 そう時を図っていると、無線から俺らの艦隊の旗艦、ルイ12世号からの通信が聞こえてくる。


「……よし! 艦隊司令官、ジュリアン・ド・ヴァルモンが我が艦隊に告げる! 全艦隊、敵艦隊へ一斉照射を開始せよ!」


―――――――――――!!!


 提督の命令を機に、一列に布陣していた数百隻の宇宙戦闘艦から砲撃が一斉に放たれる。


 その目標は、向こう側でこちらに攻め込んでいる、皇帝の矢先、即ち帝国の宇宙艦隊だ。


『ようやく出番か。カトリーヌ、今だ! 第1、第2主砲、発射!』


 俺の船、光速戦艦シャルル4世号の主砲、光子収束砲が眩い光を放つ。


―――――――――――!!!


 この戦艦だけでなく、全艦隊による一斉砲撃。


 無数の光子の波動が宇宙を駆け抜け、数光秒の向こうにある敵艦隊を容赦なく叩き潰す。


 数十の敵の戦力から爆発の閃光と同時に爆音が聞こえてくる。


『……いや、違うな』


「……?」


 隣で首を傾げるカトリーヌは置いといて、自分が今行った言動の間違いに意識を向ける。


 ここは宇宙。故に音が聞こえてくる訳がない。


 感じられたのは音ではなく、敵艦隊の方向からの波動のみだった。


 ……ここはクラウス―ラ銀河の中、王国と帝国の戦争の最前線となっている宙域の一つだ。


 長引いた膠着状態は破られ、帝国は最近になってこの方面への攻勢を強めているが、その目標はまぁ、言うまでもないだろう。


 奴らの狙いは我らの国、ドゥ・ローズ王国を滅ぼすために、この宙域では一つしかないワープゲート、「スイユ・デ・ゼトワール」を手に入れること。


 ここで俺らの艦隊を殲滅し、この宙域の拠点である王国の要塞惑星、オークルを手に入れる。


 そうしたら、最重要戦略施設であるワープゲートが奴らの手に落ちるのは言うまでもないことだ。


 だから何としてでも、ここで皇帝の犬どもを止めなくてはいけないが…… 


『カトリーヌ。戦況は?』


「はい。今の砲撃で、少なくとも敵の標準戦艦12隻、巡洋艦と駆逐艦数十隻から被害が出たと推測されます。しかし……」


 カトリーヌの心配そうな声。その理由は分からないまでもない。だってレーダーを見るとすぐに分かることだからな。


『戦力の差が大きいな』


 純粋に戦力の数が違いすぎる。何とか対等に戦おうとしているが、敵はこちらと比べて最低でも1.5倍は多いのが現実だ。


『ちっ……このままでは普通に数に押し潰されるだけ、』


 愚痴を言う暇もなく、艦内に警告のブザー音が激しく鳴り響く。


「報告です! 只今、敵艦隊から新たな熱源を感知! まもなく砲撃が始まります!」


『くるのか。煙幕用意!』


「了解しました! 対レーザー煙幕、展開準備開始!」


 目にも見える。今向こうの敵艦隊から数々の光源が光を宿し始め、今もその規模を増していることが。


 そして今、その破滅の光は放たれた。


 鼓膜を切り裂くように鳴り響く新たな警告ブザー。


「艦長! 敵艦隊からの一斉砲撃、来ます!」


『ああ……!』


 こういうのは初めてじゃないがいつも緊張してしまう。手に汗を握りながら飛来するレーザーの波を注視し、煙幕を張るタイミングを見極める。


「敵の砲撃、到達まであと7秒です!」


『良し、今だ! 煙幕展開!』


「了解! 第1、第2、第3煙幕、爆破!」


 シャルル4世の艦首にある対レーザー吸収煙幕が爆破と共に展開され、船の前方を包み込む霧を形成する。


「敵砲撃、来ます!」


 カトリーヌの報告が終わる前に、数百の光の束が艦隊を襲い掛かる。


――――――――――――!!!


 数十隻の軍艦が砲撃に襲われ、轟音と共に激しい爆発を起こし続ける。


『カトリー、くそっ!』


 状況を確かめる暇もなく、眩い光が黒い霧を切り裂いてこちらへ炸裂する。


――――――――――――!!!


 思わず身をすくめたら、その砲撃は俺の戦艦のすぐ隣を過ぎていき、後ろにあった味方の巡洋艦に的中する。


 艦橋が揺れる程の振動と共に、その巡洋艦は一撃で撃破され、激しい爆発と同時にチリになって消え去っていく。


『ふぅ……被害状況は?』


「はい。本艦、異常なし! 被弾は確認されておりません!」


『そうか。で、戦況は?』


「報告によると今の砲撃で味方艦隊の戦力、42隻が被害を受けました! その中で12隻は撃破判定! 敵は次の砲撃を準備しながらこちらに向けて前進中です。まもなく第2撃が始まると予想されます!」


『くそ! 提督は一体何を考えているんだ!』


 このままでは数に押されて負けてしまうのは誰が見ても分かるはず。なのに提督は何をするつもりなのか分からない。


 そう嘆いたら無線で声が聞こえる。旗艦からのものだ。


「あ、あ、全艦隊に告げる! 今我が軍は敵戦力に及ばず、劣勢な状態である! しかし、我々はこれ以上後退することなどできん! 全艦隊、決死の態勢で旗艦を守護せよ! 単独行動は許さん!」


『はぁ……あの爺、またか』


 このままでは負けてしまうのが目に見えるのに、提督は打開策などなさそうに見える。


『カトリーヌ、次の砲撃を準備しろ! ……にしても、光速戦艦を前面に出すとは、提督はやはり分かってないのか』


 光速戦艦。


 拮抗していた戦況を一気に帝国側に傾けた、帝国の最新鋭兵器。


 これの登場で従来までの戦争のパラダイムはその根本から覆されてしまった。


 そんな光速戦艦の第一の目的な、敵光速戦艦の制圧。


 なのに俺を含むこの艦隊の光速戦艦7隻は今、帝国の光速戦艦がいない艦隊との交戦に投入されている。


 敵の光速戦艦は今も機会を狙っているはず。俺たちはそれに対応しないとだが……


 やはり身分が良いからって理由で提督の座に任命された人には、勝利を収めるなど敵う訳がない。


「了解しました。現在、第1、第2主砲充電率65%! 照射可能まで後10秒です!」


 このままむやみに砲撃を投げ合い、押された挙句後退する展開が見え見えだ。その時だった。


「……!? 緊急報告! 只今時空の揺れが感知されました! 光速機動です! 艦首方位30度に仰角+15度、距離30光秒からです! 今もこちらへ接近中!」


『光速機動って、それは……』 


 戦闘の真最中なのに、その周辺から光の速さで動くものとしたら、もうそれしかない。


「艦長! 未確認光速機動体、間もなく敵艦隊の左翼に出現すると予測されます!」


 カトリーヌの切羽詰まった声。そうだ。今、あの流星群のような光の束が見え始めた。


 その光線はやがてこちらへ飛来し、周辺部を覆い尽くす閃光が全宙域へ炸裂する。


―――――――――――!!!


 周りの全てを焼き尽くす程の発光と同時に、その光源の中心部から時空間が歪曲されていく。


 空間が波のように揺れる中、閃光が収まり、奴らはその姿を現した。


「報告! 只今データが判明しました! あれは帝国の光速戦艦戦隊です!」


 時空の揺れが収まり、その姿が完全に目に入る。


『あ、れは……』


 そこに現れたのは、十数隻の帝国の新鋭戦艦だった。


「新たな敵勢力のデータ判明! 今現れた増援は、帝国のエカテリーナ級光速戦艦、20隻です!」


『な、20隻だと……!?』


 望遠カメラを拡大してその光景を目に届ける。


 黄金のような黄色を中心に、黒い線が幾つも交差しているる船体。


 そして艦首に伸びていくにつれ鋭くなっていく、騎士が用いる一本の槍を思わせる形状、間違いない。


 帝国の最新鋭戦艦が、それも1つや2つでなく、一気に20隻が戦場に降臨した。


 こんなの、流石に俺自身も予想もしなかったことだ。しかし、それに気後れする暇などありはしない。


「報告! 敵光速戦隊、及び全ての敵艦隊から熱源を感知! 一斉砲撃、間もなくきます!」


 カトリーヌのその言葉が終わる前に、侵略者たちからの破滅の閃光がこちらへ放たれた。



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