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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

推しを異世界に拉致した女の話

 推しと異世界転生した。

 絶対に帰りたくはない。

 


=====

 

 

 平凡な日本の会社員だった私が、ノインシュタインもびっくりなお城でたくさんの人に傅かれて暮らしてる。

 

 剛毛くせっ毛(しかも左右非対称)は金髪サラサラストレートに。

 荒れ放題だったお肌はつるんとしたタマゴ肌に。

 手足はすらりと長く、腰の位置はモデル並み。

 何着ても似合うし、実際何着ても褒められる。

 

 そう、わたしは絶世の美女に生まれ変わっちゃったのだ。

 

 地味ーで何の取り柄もなくて、毎日の楽しみといえば推しの供給を漁ることだけだったわたしが。

 ブラック企業で罵倒されて、女扱いも人間扱いもされなかったこのわたしが。

 

 天国である。

 もう絶対、帰りたくないのである。

 

 しかもこの「異世界転生」にはとんでもないオマケまでついてきた。

 なんと、推しも一緒に転生してきてしまったのだ。

 

「ねえねえ桐太くん、この野菜なにかな? アンティチョークかな」

「知るわけねぇだろボケ、話しかけてくんな」

「やだー口すごいわるーいカワイイー」

「……っテメーいい加減俺を現代に返せよっ」

 

 今日は特にご機嫌ナナメだ。

 まあ、仕方ないのかも知れない。

 わたしと違って、彼はこの世界が気に入らないようだから。

 

 五色桐太くんは、いわゆる人気配信者というやつだ。

 アイドル並の容姿と動画の面白さで、子供から大人までたくさんのファンを持つ。

 

 動画ではキラキラした王子様みたいなキャラだったけど、実際に会ってみると結構フツーの男の子だ。

 悪態もつくし、暴れるし、不平不満ばっかだし。

 そこが最高にキュートなんだけどさ。

 

「大体、なんでお前はコッチ仕様のビジュアルなのに俺だけそのままなんだよっ!? メチャクチャ浮いてんじゃねーか!」

「そりゃー、桐太くんが素のままで至高♡だからじゃない?」

「登場人物全員外国人モデルみてぇな世界観で、純和風はキツ過ぎんだよっ! なんの刑罰だコレはぁ!!」

 

 フワフワのパーマが当たった黒い髪も、切れ長の一重の目も、わたしは大好きだ。

この完璧なる見た目が変換されてしまうなんて改悪だ、それこそ最低のリメイクだ。

 

「大丈夫♡ ここでも桐太くんが、世界でいっちばん♡カッコイイよ♡」

 

 わたしは歌うように答えた。

 

「なんで俺がこんなトコに……」

 

 この世界で目覚めてから、もう何度彼の泣き言を聞いただろう。

 時にはブチ切れ、時には泣き落とし、時には誑かすように語りかけてくる。

 

 いずれも、結局はこの世界から解放するように――という要求だった。

 でも、わたしはずっと断っている。

 

「桐太くんはさ、帰ったとして何がしたいの?」

「やりたいことっつーか、やらなきゃいけないことは死ぬほどあるよ。次にアップする動画、編集途中だし。撮影も中途半端になってるやつあるし。あんま間空くとどんどん忘れられてくから、そんなゆっくりしてらんねぇ」

「婚姻届も出さなきゃいけないしねえ?」

 

 ここに来る直前、桐太くんは元グラビアアイドルとの結婚を発表していた。

 幸せの絶頂だったはずだ。

 そりゃ戻りたいよな、と少し可哀想になる。

 

「――そうだよ。はやく帰らねぇと。あいつを一人にしておけねぇ」

 

キリッ、という効果音まで聞こえてきそうなほど、桐太くんは凛々しい顔で言い放つ。

 ふーんそっかあ、と

 と、声には出さずに独りごちる。

 

「戻れたらいいね?」

 

 思ってもないことを平気で口にした。

 

 

 桐太くんは覚えていないのだ。

 結婚を発表されたわたしが、ヤケになって彼を刺したこと。

 何度も何度も何度も何っ度も、刺したこと。

 そのあとでわたしも自殺したこと。

 

 わたしたちは、だから一緒に異世界転生したんだということ。

 

 

 彼はあまり、そういった類の小説は読んでこなかったのだろう。

 これは転移じゃない。転生だ。

 

=====



 推しと異世界転生した。

 絶対に帰りたくはない。

 

 ってゆーか、帰れなどしない。

 

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