勇者、魔王。そして異世界
遅くなってすみません!
いろいろと考えていて、サボってしまいました。
いつもより少なめですが、楽しんで頂けたら幸いです。
真央に、勇者シロエ・ソマティエの魂が宿っていると発覚して5日が経ち、現在土曜日。
「5.5階のバー」には、瀬戸内茂夫から鈴木真央までの5人とテレビのお姉さん、花園芽がおり、合計6人がこのバーに揃った。
「えっと、芽さんはここの管理人とかなの?」
「まぁ、私がここ作ったからそうなるかなぁ」
「そうなんだ…」
芽に質問をしたのは幸。先ほどから、謎のテレビのお姉さんへの質問タイムが続いている。
「なぜ、ご飯が出てくるのか」、「なぜ、エスカレーターからここへ来るのか」など、少し的の外れている質問ばかりだ。
芽はどちらとも、「転移魔方陣で…」という言葉で片付けられた。「転移魔方陣」、どちらもアニメや漫画でしか出てこない単語だ。
「それじゃ、一旦質問タイムは終わりで、このバーを作った訳を話そう」
ある程度質問が終わり、質問タイムに終止符を打つ芽。
芽の言葉にゴクリと、固唾を飲む5人。
転移魔方陣という言葉が芽からは出てきた。一体、このバーにどれだけの意味があるのか。
「遡ること500年。ここ、地球とは違う異世界」
「500年って…」
500年前と、異世界。あまりに馴染みのない言葉に思わず口に出してしまう智和。
しかし、それに芽は反応せず言葉を続ける。質問タイムは後、という事だろう。
「異世界には、魔法という概念があり剣士もいます。当然、魔物もいて、それをまとめあげる魔王も存在しました」
先ほどから変わって、敬語気味になる芽。それほど真剣な話なのだろう。
「シロエ・ソマティエ率いる勇者一行は、魔王ロック・クムニを倒した…倒したはずでした。しかし、魔王ロックはシロエ達から逃れました。簡単に言うと…異世界転移ってやつです」
異世界、勇者、魔王。そんな単語が出てくる壮大な話を聞かされ、智和は、
(異世界ってやべぇー!まじかよ…異世界の異世界転移って事は逆転移?魔法ってどんな感じなんだよ!気になるー!)
光に影響され、アニメや漫画に周りよりは触れてきた智和。魔法や剣士なんかには、誰しも憧れを持つものだ…多分そうだ。智和も例外ではなく、アニメに出てくる詠唱なんかを唱えたものだ。
そして、智和以外にもワクワクしている方が一人。
(えぇー!異世界!めっちゃワクワクするじゃない!私異世界系は書かないけど、これを機に書いてみるのもいいかもねぇ!)
小説家、というよりはラノベ作家の幸だ。
ラノベ作家を仕事にしている幸は、小説、ラノベをよく読んでいて、当然、異世界物もその中に入る。
そんな2人は置いておいて、話を続ける芽。
「魔王ロックの、死にたくない、生きたい。という思いと、ロックの大量の魔力量があって異世界転移をしたといわれています。しかし、ロックにとって予想外の事が起きました。近くにいた勇者一行と、数匹の魔物が一緒に、ここ日本の海岸に転移してきたのです。しかし、転移したからといって戦況は変わりません。シロエ達が有利でした」
淡々と言葉を続ける芽の目には怒りが宿っていた。しかし智和達はそれには気付かず、考察をしながらも静かに話を聞く。
「だが、ロックは転移のコツを掴み、2度目の転移を成功させました。日本の海と、魔物達と共に。しかし、一度転移していたロックは魔力量が足りず、元の世界ではなく、その中間。何もない無の世界に転移をしました。ロックはそこで、海と魔物と共に、人の住んでいない平和の世界で暮らしました。ですが、日本に取り残されたシロエ達は、当時の日本人からは、衣服や慣れない顔つきで異端として見られてきました」
魔王は無の世界で平和に暮らし、勇者達は異端扱いで迫害。100魔王が悪い。しかし何故、芽はこんな事を知っていて、転移魔方陣などを使っているのか。
一区切りついた芽は深呼吸してから言葉を続ける。
「で、勇者一行の魔術師ケンソル・シャーマンの子孫がこの私、花園芽よ」
長い話を終えて、ため息をつきながら座り込む芽。
「え、えぇ。情報量多くて倒れそうだよ」
話を聞き終えた真央はそんなことを呟く。他の人とは違い、真央はこのバーに来たばかり。他の人より少しばかり情報処理が追い付かない。
「ま、聞くより行った方が早いよね」
「「「「「……へ?」」」」」
立ち上がった芽は腰を曲げ、親指を立てて、片目を閉じ、舌を出す。……あざとい。まだ若く、美形の芽はとても可愛く…いや、今はそんなことをどうでもいい。
今大事になのは、芽の謎発言と、5人の「へ?」だ。
☆ ☆ ☆ ☆
芽に連れられ、「あの」扉からやって来たのは……海だ。
あの、魔王が逃げてきた無の世界にある、海だ。
「うそ、でしょ…?」
「ふっふっふ。嘘じゃないですよ?現実です」
一艘の船の上。水平線の彼方まで見える海を見つめ、幸が呟く。
来たのだ。500年前に消えた海へ。幸が小説にまでした海に、やって来たのだ。
☆ ☆ ☆ ☆
花園芽が、智和と真央の前に出てくる数十分前。
転移魔方陣が付いているテレビの前で、芽は一人寂しくバーで会話している3人の声を聞いていた。
あ、ちなみに盗聴ね。
~芽視点~
放課後にバーでラーメンかぁ。青春してんな。
てか、私一応まだ19だよ!?
学校には行ってたけど、魔法の勉強とか、魔物だのを倒さなきゃで、友達なんて出来なかったし!
私の先祖はとんだ迷惑だ…いや、元凶は魔王か。
ひたすら鍛練積んで、実践を繰り返して、モブどもは余裕で倒せるようになった。
私は適性が水だったから、殆どが海のあそこでは有利だった。
あの世界の魔物は魚に力が付いただけの、グロい生物。……異世界の魔物もよりかはよっぽど雑魚。
だけど、魔法を使える豚魚は別格。
炎、水、電気、土。
4体の豚魚が各々別の魔法を使う。
水しか使えない私には、あいつらは無理。
だから、私の魔方陣が選んだあの5人が必要。
ロックを倒し、海を日本に戻すため。
─しかし、実際は、
「青春取り戻すぞぉーー!!」
☆ ☆ ☆ ☆
海─
その言葉、いや、その場所でもっとも興奮しているのは、幸だ。
幸は、親に読んでもらった本から、海や魚、船などに憧れを抱き、中学で海の歴史や生態系にも興味を持ち、現在は「海」を舞台にしたラノベを書き、人気ラノベ作家になった。
そんな幸からしたら、今その海にいることが夢のような事で、興奮を隠せない訳だが─
それよりも、今は聞かなければいけないことがある。
「色々感動したいところなんだけど…貴方の話を聞いていると…その…つまり、私達に魔王を倒せと…?」
これである。
散々智和達に、魔王だの異世界だの説明してきたのだ。
狙いは一つだろう。
「……テヘ☆その通り!」
「テヘ☆じゃないでしょ!」
「まてまて、え?いや、無理でしょ。死ぬよ?俺、普通に」
幸の後に自分の無力さを訴える歩。
ごもっともな意見だ。智和達には魔法やら剣技やらは使えないのだから。
「ま、まぁそれは鍛えてもらったりして。こんなふうに」
そう言った芽は手を斜め後ろ、茂夫のいる場所へ向けた。直後、芽の手から…水の光線?の、ような物がが放たれた。しかし、切断されたのは茂夫ではなく、その後ろ、船に登ってきていた魔物だ。
「…今の魚!?」
「へ?あ、グロ…」
「何、今の…かっこいい…」
いきなりの出来事に呆気にとられる茂夫と智和。魔物の感想を言う歩と、魔法の感想を言う真央。
そして、大きさと手足が有ることを除けば、魚になる魔物に興味津々な幸。
「そいつは、魚にロックの力が加わった魔物。あまり強くはないけど、敵」
「やっぱり魚なのね!」
無邪気な幸に、(ちょっと違うけど…)と、思いながらも頷き、話を続ける。
「そして、さっき使ったのが魔法。今からみんなには、適性を調べて貰うね。真央ちゃん以外は」
芽は淡々と話を続けていく。
最初はお怒りだった幸も、魚や魔法なんかに釣られている。
しかし、最後の発言の言葉を聞いたら、不思議そうに真央の方に目を向ける。
「……………」
芽の発言に、智和は一つ、思う節がある。
(勇者の魂…だっけか)
これだ。
☆ ☆ ☆ ☆
「とりあえず、適性魔法を調べよっか」
現在、真央以外の4人は海に向かって片手を伸ばした状態になっている。
歩と智和と幸は、とても興奮したような様子だが、茂夫は苦い顔をしている。
一番年をとっているし、魔法やらはわからないのだろう。
「で、どうやってやるんだ!?魔法ってのは」
「こお、全身の魔力を腕に集めて放出する感じかな!詠唱とかは無いから、感覚掴むまでやってみて」
芽の説明が終わると、手から大きな水の塊が出てきた。先程出した刃のような物とはまた違う、柔らかい感じだ。
「おぉ!早く適性魔法見つけてやる!」
「ふふぅん、水魔法は回りに水があると強化されるから、海だと有利だよ」
─有利というのは少し誤解である。
この世界の魔法は、魔力によって物質を生成する。しかし、近くに生成する物があればそれを利用して最低限の魔力で事足りる。
つまり、魔力消費が少ないから持久戦で有利、ということだ。
「じゃ、私は真央ちゃんと話があるから行くね」
「わかった。貴方が帰ってくるまでにマスターしてやるわ」
「ふふふ、それじゃ、期待して待ってるよ」
智和と幸との会話を終えた芽は、手を振りながら真央と共に船の中へと入って行った。
☆ ☆ ☆ ☆
船に入った2人は、向かい合うようにして座っている。芽はコップに魔法で水を入れ、真央に差し出した。
「あ、ありがとうございます。それで、話って何ですか…?」
「…うん、まぁ、真央ちゃんには色々説明しなきゃなんだけど…出てきて貰った方がいいよね」
「? 誰かいるんで─え…っっ!」
そこで、真央は意識を失った。
静かに頭が下を向き、全身の力が抜けた。
今にも水がこぼれそうだ。
「ふぁぁ、いやぁー!500年ぶりかな?」
「そうですね、シロエ・ソマティエ様」
欠伸をして起きたのは真央では無く、勇者様だ。
☆ ☆ ☆ ☆
「お、おお!熱っ、で、出たぁ!」
そういって、4人に自身の魔法を見せるのは─なんと、茂人だ。
「すご!?茂夫さん、炎じゃないですか!いいなぁ、ますます気になってきた!」
「…今思ったけど、被ったら最悪ね…」
「本当に俺達でも使えるのか…」
1番始めに魔法を使えるようになった茂夫は、魔法の王道、炎。ガチャでいうsssだ。
そんな茂夫に歩から席順に反応する。
「ま、才能の差かな」
「今までで1番のドヤ顔ですね…」
顔に似合わず3人を煽る。
これに3人は、
「「「うぉぉー!!!!絶対習得するぞぉーっっ!」」」
より一層、励むのであった。
─魔法は基本となるものはあるが、人によって特殊能力なるものに変わる事がある。
その特殊な例が真央である。
勇者の魂を呼び覚ます能力。鈴木真央は、いってしまえば、魔王を倒すために生まれてきたようなものだ。
数週間前、そんな才能の原石の真央を、芽特製の魔方陣が見つけたのである。
やっっっと、海まできました。
今回は説明ばかりでしたが、次からついに海に入ります!なんか滅茶苦茶な話ですが、これが書きたかった…
誤字脱字やおかしな点など、あればご指摘ください!
感想も待ってます♩