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7.ユリナVS魔界の富裕層向け高級レストラン

3/16までにアップした分の再編集版です。

最新話は3/23(日)朝6時アップ予定

 そんなこんなでユリナ達は、魔界の人々の依頼を受けて一週間ほどでいくつかの穴を塞いだり、悪魔を倒したりして過ごした。

 新しい穴に怯える善良な魔界人達は歓喜して報酬を弾んでくれた。


 お陰様でセイランの懐はウッハウハ。

「ふふ、うふ、うふふふ…ぷふっ……」

 札束を数えながら笑いが止まらない。

「こんなボロい商売そうそうないわよ。本格的にこっちに転向しようかしら。」

 そんなセイランの様子がユリナは大いに不満だった。

「ねぇ、やっぱり困っている人からお金を取るような真似、良くないよ。」

「あの連中は自分から進んで謝礼払うって言ってんだから、私がむしり取ったわけじゃないわよ。

 それに、こうやって金儲けが出来るから、アンタもそんな美味しいものにありつけるんでしょ。」

 そう言ってワインを一口啜り、あぁ……と、至福の一時を満喫するセイラン。


 まとまった金が入った事を受け、ユリナ達は魔界の高級レストランに足を運んでいた。


 何故無法の地である魔界にこんな富裕層向けレストランが存在するのかというと、盗品や密猟品、前述した魔物の肉など、国内で流通出来ないイケないモノ達を提供するのに都合が良いのである。

 国内ではお目にかかれない美食を味わえるとあって、国内からも危険を顧みずに訪れる美食家が後を絶たない。


「こんなところ来てたらすぐお金なくなっちゃうじゃん。」

「また稼げば良いのよ。悪魔も地獄の穴もいくらだってある。ユーシャ君がいれば今後も安泰よ。

 それもこれもぜーんぶユーシャ君のおかげ。あーもう、ユーシャ君素敵!最高!ユーシャ君大好き!」

 そう言って隣のユーシャに抱きつくセイラン。

「やめなさいよ!いい大人が子供に色目使って、みっともないと思わないの!ユーシャ君も嫌なら嫌って言いなよ。」

「まあ、お役に立てているなら良かったよ。それにそのおかげで、大衆食堂の安定食じゃなくて、こんなに美味しい物まで頂けるんだし。

 こうなると新しい穴もっと開いてほしいまであるな。」

 ユリナに当てつけるかのように言うユーシャ。

「そうね、そうしたらもっといっぱいお金もらえるもんね!」

 アハハハー!と、酔っ払いの下品な笑い声が店内に響く。

「最っ低……」

 マジで地獄の穴に突き落としてやろうかという気持ちに。


「ユーシャ君、本当にこれでいいの?」」「ん?」

「これじゃユーシャ君が言ってた、力を使って自分だけ得しようっていう人そのものじゃない。世のため人のために力を使って、異変も解決したいっていうから、私だって一旦諦めたのに。言ってることとやってる事が全然違うじゃん。」

 ユーシャはムシャムシャと野菜を食べた。

「ねえちょっと!なんか言うこと無いの!」

「え、ごめん、全然聞いてなかった。」

「もういいよ!」

 ユリナもムシャクシャして、残った料理を一気にムシャムシャ。


 そんなふうにして一通り食事も終わり、食後のまったりとした一時を過ごす三人組。そこへウエイターがやってくる。

「こちらがお会計でございます。」

「はい、ありがとう。」

 ほろ酔い気分で穏やかな笑みを浮かべて伝票を受け取るセイラン。


 その瞬間だ。


 セイランの顔が一瞬で凍りついた。

「え、これ、え、あの、これ、ちょっと、あれ、その、これ合って、いやその、むこうで待っててくださる?」

 ウェイターはニコリと笑い、会釈して離れていった。


「どうしたの?」

「どうしよう、全然足りないわ。」

「えぇっ!」

「シッ!大きな声出さないで!」

 ユリナはそっと伝票をのぞき込んだ。先ほどセイランが持っていた札束の金額と比べて、丸が二つ多いような莫大な金額が書かれている。

「こんなのおかしいわ、ボッタクリよ!」

 憤るセイラン。


 するとユーシャが、これ見てよと、セイランが空にしたワインのボトルを差し出した。

「この文字、旧暦の数字だ。」

「どういう事?」

「悪魔が出てくる前の時代に作られたワインってことだよ。150年も前のものだ。タダでさえ年代物で高いのに悪魔によって滅ぼされた酒造のもので希少価値もついてる。味を保ったまま残っていることが奇跡という、マニアからすると国宝級の一品だよ。」

「どうりで美味しいと…」

 セイランは頭を抱えて大きくため息をついた。


「どうするの?こんな大金払えないよ…」

「店の連中全員抹殺して店ごと始めから無かったことにするしか無いよ。」

 サラリと物騒な事を言い出すユーシャ。

「何考えてるの!そんなの駄目に決まってるじゃん!」

「じゃあ逃げよう。」

「逃げるって、食い逃げでしょ。それもだめだって…」

「いや、それしか無いわね。」

セイランが立ち上がった。


「待って待って!とりあえずお店の人に話そう?話したら支払い待ってくれるかもしれないし。」

「何甘いこと言ってんのよ。そしたらあんたら二人ともバラバラに解体されて出荷されるわよ。」

「出荷って……」

「まずセイランさんがトイレに行く、なかなか帰ってこないなあって感じで僕らがセイランさんを探しにふらつくうちに間違えて外に出てしまう。

 その隙にセイランさんはトイレの壁を破壊して外に出てきて。」

「悪くないわね。じゃあ……」

 セイランは本当にトイレに行ってしまった……



 数秒するとユーシャは、セイランさん遅いなあ、早く帰りたいよ、見に行こうか、などと、わざとらしく独り言を言い始めた。


 このままじゃ、食い逃げ犯になっちゃう……


 悩めるユリナ。空になった皿をじっと見つめる。


 新しい穴開いてほしいまであるな―


 ユーシャのふざけた言葉が頭の中でリフレイン。


「まったくもう、セイランさんたらしょうがないなあ。ユリナ、探しに行こう。」

 ユーシャも席を立とうとした時、

「ユーシャ君、これ!見て!」

「ん?」

 ユリナが、慌てて指差すその先、空になった皿の中は、本来の色とはまるで違う、黒い光。地獄の穴だ。

「ほら、いきなり地獄の穴開いちゃった!ヤバくない!?」

 ユリナが皿を持ってユーシャに見せつけた。ユーシャは、黙ったまま目を丸く見開いた。ユリナの初めて見る、驚愕の表情だった。

「ありえない……」

ユーシャはそう、ポツリと呟いた。


「あの〜お客さま?」

 ウェイターが怪訝そうに話しかけてくる。

 ユリナはウェイターの方に皿を向けて

「地獄の穴です!ヤバいです!」

 と、叫んだ。

「悪魔が出てきます!皆さん、避難して下さい!」

 そうこうしてると本当に小さな悪魔の手みたいなものが見えてきた。

「うわー!ヤバい!逃げて!みんな、ほんと、逃げて〜!!」

 ユリナが皿を持って店内を走り回ると、客も店員も危険に気付いたのか、慌てて逃げ去って行った。

「私たちも行こう!」

 ユリナとユーシャも外に出る。


「ユーシャ君、はい!」

 ユリナが皿をユーシャに差し出す。

「悪魔が本当に出る前に塞いじゃって。」

 ユーシャはユリナが突き出す皿の中に光る地獄の穴を、ゆっくりと指で触った。すると、ユーシャの指を中心に波紋が広がるかのように、地獄の穴の光は消えていった。

「あ〜何事も無くて良かった!だけど、店員さんもいなくなっちゃったし、これじゃお金払えないね。」

 困った困ったと、おどけた様に言うユリナ。しかしユーシャは俯いたまま、何も答えない。

「ユーシャ君……?」


 ユリナが聞こうとしたとき、後ろのレストランの外壁がどかーんと音を立てて派手に吹っ飛び、中からセイランが出てきた。

「なんか知らないけど、全員いなくなったみたいね!?私達も行くわよ!」

「うん。ユーシャ君行こう?」

「え、あ、うん。」

 ユーシャは最後まで、どこか心ここにあらずという感じだった。



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