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6.ユリナVS魔界の農家

3/16までにアップした分の再編集版です。

最新話は3/23(日)朝6時アップ予定

 魔界東北部の山々では秋になると美味しいキノコが沢山とれて地域の皆さんの協力もあって一大キノコ祭りなんかあったりして、大いに賑わうのだ。

 人気があるキノコなんて魔界だとすぐにでも盗難被害にあいそうなものだが、地主の人柄の賜か、ここでは善良な町人も荒くれ者も一緒になってキノコ狩りに精を出すのが風物詩だ。


 そんなキノコの山に地獄の穴が開いたという。ここ最近になって急に悪魔が出るようになり、キノコ狩り客も寄り付かなくて困っていると地主が言うので、ユリナ達はやってきた。

「あそこ、怪しくない?」

 山頂付近の茂みの奥に洞穴があるのをユリナが見つけた。

「いや、あんなとこには無いでしょ。」

「絶対怪しいって!私見てくる!」

 一人駆けていくユリナ。そして洞窟の中を、覗こうとしたところで、


 ガゥガゥ!


 洞窟から飛び出してきた狼の様な悪魔が襲いかかってきた。

「わわっ!」

 咄嗟のことで剣を抜く間も無く、飛びつかれて倒れ込むユリナ。

 狼悪魔は口をあんぐり開けてユリナにかみついてきた!


 眼前に牙が迫り完全に食われたと思った時、狼悪魔が氷漬けに。それとほぼ同時に飛んできた刃が当たって狼悪魔は粉々に砕け散った。

 呆然とするユリナの横をすり抜け、ユーシャは洞窟の中へ。

 一方、激しい悪寒を感じたユリナは静かに後ろを向く。

 セイランが、氷よりも冷たい視線をユリナに向けていた……

 そうこうしている間にユーシャが出てきて、「穴は塞いだよ。」とだけ言った。


  魔界に点在する町と町の間には自然発生的に出来た街道がある。

 誰かに整備されたものでもないが、悪魔の出ないルートを選んで進むと自然と人の流れができて、少しうねった道として成立していくのだ。

 実際、人通りが多いほうが盗賊等との遭遇率も低くて安全であった。

 そんな街道の一つにも悪魔が出るようになったという。

 行商人が次の町に行くのに困っていると言うのでユリナ達も件の街道を歩いた。小さな悪魔に遭遇はするも、穴自体は見つからない。


「ないわねえ、悪魔が出るんなら、近くにあるハズなのに…」

「もしかして、少し外れたところにあるんじゃない?ほら、風に流された霊子に誘われて悪魔が移動してきちゃったとかよくあるらしいじゃない。」


「確かに、このあたりは結構風が強いからね。」

 そんな話をしながら街道を外れて廃墟群の間を捜索していると、本当にあった地獄の穴。

「チャチャっと塞いじゃいますか。」

 ユーシャが近寄ろうとすると悪魔が出てきた。ユリナが前に戦ったのと同じ悪魔だ。

「セイランさん、私にやらせて。」

「あんた大丈夫なの?」

「任せて、あいつなら戦ったことある。」


 悪魔がでてきた瞬間を見計らって斬りかかる。一気に右腕、左腕を斬り捨て、

「くらえくらえくらえくらえー!」

 これでもかというほどに両腕をずたずたに斬り刻んだ。

「どうユーシャ君、悪魔はバラバラになるまで切り刻むって……」

 言ってたよねと、言おうとしたらセイランのアームガードから刃が発射。ユリナの顔面に向かってくる。

 え、殺される?

 セイランが放った刃はまっすぐにユリナの顔面、の僅かに上を通過した。そして真後ろにいた悪魔の額に突き刺さる。

 悪魔はバタリと倒れ込み、砂となった。

「ねえ教えて、何がしたいの?」

 気まずくてセイランの顔が直視できない。そうこうしている間にユーシャはまた穴を塞ぐ。


 役に立っている実感が沸かない。

 悪魔を倒して強くなり、困っている人々を救いたいと、頑張っているつもりなのに、いつもセイランに助けてもらってばっかりだ。


 魔界の一角にある牧場で、柵にもたれかかって羊を眺めるユリナは少し憂鬱でいた。

 牧場では羊たちがのどかに草を食んでいる。傍らを見れば、やせた老人が椅子に座り、気持ちよさそうにうたた寝をしている。土食って草食ってでも必死に生きている魔界人とはとても思えない……


「なんか、やる気無くなるね…」

「そんなこと言って、またセイランさんにどやされるよ。」

「大丈夫でしょ。こんなのんびりしたところに地獄の穴なんて無いって。」

「でもあそこ、なんか変じゃない?」

 ユーシャが指差す方を見ると、牧場のある丘の上の方が黒く光っていた。


 二人で行ってみると間違いなく地獄の穴だ。

「あるもんだね、こんなとこにも…」

「サクッと塞いじゃいますか。」 

 ユーシャはしゃがんで手をつき、そのまましばらくじっとしていた。

「ん……?」

 ユーシャが徐ろに立ち上がった。

「どうしたの?」

「いや、ごめん手に砂ついた。」

「意外と繊細なのね……」

 呆れるユリナ。


 ユーシャは服で雑にゴシゴシ手のひらを拭き、再びしゃがんで手をつこうとした。その時、セイランが小太りの牧場主と一緒に駆けてきた。


「タンマタンマ、塞がなくていいわ。」

「え、なんで?」

「その穴、使ってるんだって。だからそのままにしておいて。」

「使ってる……?」

「その穴から羊っこがいっぺーでてくんだぁ。乳の出も良いし、毛もいっぺーとれっから、ほっといてけろー。」

 悪びれる様子もなく言う牧場主。

「えぇ……、じゃあここにいる羊って皆、悪魔なの……」

 よく見ると額にも目が合ったり、前方に飛び出た鋭い角が生えていたりと、個体毎にちょっとずつ形が違う。


 目の前の地獄の穴からも羊悪魔がニョキニョキと出てくる。羊悪魔達はユリナ達に構うこともなく、他の羊達に混じって草を食べ始めた。

「こういう悪魔もいるんだね。」

「こういうの、魔物って言うんだよ。」

「へぇ、そうなんだ。悪魔とは違うの?」

「悪魔は繁殖しない。死んだら消える。

 でも魔物は動物みたいなもんで、繁殖もするし、この羊みたいに毛も利用できる。肉だって食べられるよ。」

「あんまり美味しくなさそうだなぁ……」

「河マグロだって元は魔物だよ。こっちの世界で増えて、すっかり人気食材だけど。」

「え、そうだったんだ!フツーに美味しかったね。」

 とか呑気に言ってたら普通にデカい悪魔が出てきた。


 ユリナは慌てて剣を構えたのだが、そこに周りの魔物羊達が群がってきた。

 メエェェ!と雄叫びを上げて悪魔に突進して行く羊達。思わず横倒しになるデカ悪魔。さらには角あり羊の長い角がデカ悪魔の体を貫く。デカ悪魔はなすすべもなく砂となり消え、そして羊達はまた草を呑気に食べ始めた。

 この牧場がのどかな理由の片鱗を見た。


 



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