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4.ユリナVS魔界の剣士②

3/16までにアップした分の再編集版です。

最新話は3/23(日)朝6時アップ予定

 うそ、ささってる、けん、おなかに……


「言ったでしょう、殺すって。」

 セイランが短刀を抜く。

 氷が割れて腹の傷から血が溢れ出てくる。ユリナはその場に倒れ込んだ。

「ここは魔界、秩序なき無法の地、生きるも死ぬも、殺すも自由。あんたみたいな世間知らずの甘ったれが、ここでは毎日何人も死んでいくの。」

セイランの声は聞こえるが、応えることが出来ない。口の中に血の味がひろがる。

「トドメは刺さないであげる。運が良ければ誰か助けてくれるかもね。魔界にそんなお人好しがいるかはわからないけど。」

 セイランが立ち去ろうとする。なんとかしようと思うけども、痛みと冷えで体が動かない。

 え、死ぬ、わたし。

意識が朦朧としてきて、ついには痛みも感じなくなってきた。まどろみにも似た感覚で瞼が閉じていくなか、ユリナは視線の先に見た。

 地面が、真っ黒く、禍々しく光り輝く様を。

 ヤバ、地獄の穴


「うわあ!!悪魔だー!」

 町人の悲鳴がこだまする。立ち去ろうとしていたセイランは足を止め声の方を見た。

 先ほどまで地面だったはずの場所が真っ黒く輝いている。それは、彼女が初めて見るほどの大きな地獄の穴だった。


 突然のことで言葉を失うセイラン。

「なんで、こんな町中に地獄の穴が……」

 最近このあたりで新しい穴が開いているという。噂では聞いていたが、いざ目の当たりにしても目を疑わずにはいられない。

 狼狽えるセイランに構わず、地獄の穴から巨大な岩が飛び出してきた。そこらの三階建てより大きいかもしれないその岩は、ガラガラと音を立てながら徐々に変形していく。 岩でできた巨大な人型悪魔、通称ゴーレムである。


 ゴーレムが腕を振るうだけでぶつかった近所の家屋が砕け散っていく。降り注ぐ瓦礫から逃げ惑う人々。セイランもまた勢いよく跳躍して避けながらも、ゴーレムの頭上からその姿を捉えた。

「まずは定番の頭から!」

 狙い定めて短剣を射出。ゴーレムの岩の頭に短剣が刺さるも、特にダメージはない様子。しかし気にはなったのか、セイランめがけて拳を繰り出してくる。

 拳を足で防ぎ、蹴った勢いで再び飛び上がり距離を置く。ゴーレムはがむしゃらに腕を振り、そのたびに家屋が破壊されていった。

 このままじゃ被害が広がる一方ね……

 荒野であれば時間をかけて崩すことも出来るが、町中では悠長な事も言っていられない。早く破壊せねばと焦るセイラン。

 しかしてその時だ。


「ゴーレムを穴から引き離して。」

「ふぇっ!?」

 耳元で囁かれて変な声を出してしまった。

 振り向けば、さっき戦った少女の連れと思しき少年が。

「いきなり何よ!」

「あいつを穴から引き離して。そうしたら僕が穴を塞ぐ。」

「はあ?」

「良いから早くして。穴がなくなれば霊子が減って力も弱まるはずだ。」

「そんな事出来るわけ……」

 話している間にもゴーレムは腕を振り下ろして地面に叩きつける。少年と別れて避けるセイラン。


 再び短剣を射出する。今度は刺さらず、ゴーレムの腕に鎖が巻きついた。ゴーレムは腕を振って振りほどこうとする。

 だが、ここからが魔界にその名を轟かせるセイラン・トレディの本領発揮。もう片手でも鎖を掴み、思い切り息を吸い込む。霊子が体に行き渡る。力がみなぎってきた。そして気合一発。

「うおおりゃああ!」

 雄叫びとともに鎖を引っ張ると、セイランの何倍もの巨体を誇るゴーレムが引っ張られて宙を舞った!そのままセイランの頭上を飛びこえ、むこうの家屋に頭から突っ込んだ。

「これでいいのね!?」

「いや、まあ、うん、二、三歩ズラしてくれるだけで良かったんだけど……」

 興奮のセイランとは裏腹に冷めた様子の少年。地獄の穴に近寄るとしゃがみ込んで穴を触り始めた。


 そしてセイランは信じられない光景を見た。少年が触った穴が、少年の手を中心に消えていくかのようにみるみるうちに消えていきいき、そして元の地面に戻ってしまったたのだ。

「うそ、本当に塞がった…」

 夢でも見ているようだった。目の前で起こる現実が受け入れられない。さっきから穴が開いたりふさがったり、頭がおかしくなりそうだ。

  背後に気配を感じて咄嗟に飛び退く。起き上がったゴーレムが、また腕を振り下ろしてセイランを叩き潰そうとしたのだ。

「全然弱くなってないじゃない!嘘つくな!」

 しかし見てみれば地面に叩きつけられたゴーレムの手は崩れ始めていた。

「霊子が減って原型を留められなくなってきているんだ。今のうちに氷で足止めを。」

 言う通りにするのも癪ではあるが、戦術としては妥当である。セイランが地面に手を突くとまたたく間に地面が凍りつき、ゴーレムの下半身を氷が覆った。動けなくなるゴーレム。

「オッケー、じゃあトドメを刺しちゃって。斬るよりも中から砕くイメージで、ヨロシク。」

 命をかけた戦闘中とは思えぬ軽い言いよう。

「砕くイメージって、簡単に言うけど…」


 ユリナも使う霊子斬り。

 剣を使って霊子に斬る力を与えるのもかなりの高等技術であるが、斬るのではなく内部から砕く、そんな力を与える様な攻撃を繰り出すのは、余程の手練でも無ければ出来るものではない。普通なら、指示することも受けることも、想像すら出来ないような超高等剣術。

 だがこの場に至っては、

「できちゃうのよねぇ!!」

 両手の剣を振りかぶるセイラン。

 左足の踏み込みが大地をたたき割る!

 けた外れの気合と全力が籠もった必殺の一撃!

 今それがゴーレムによって放たれた!

  霊子がセイランの気迫を伝えてゴーレムを打ち砕く。ゴーレムは内部から爆発して粉々に砕け散り、残骸が砂となって空から降り注いだ。

「フゥ……」

 デカい相手だけあってそれなりに疲れた。

 周りの町人達は皆避難した様子。建物は崩れたが、人の被害はそこまで多くなさそうだった。

「お疲れ様。」

「ふわぁ!」

 また後ろから囁かれる。

「なんであんたは毎回耳元で話しかけてくんのよ!」

「いやぁ、声張るのが苦手なもんで。それより、お姉さんにもう一個お願いがあるんだけど。」

 そう言って少年が見つめる先には、先ほどセイランと戦った少女が横たわっていた。



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