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3.ユリナVS魔界の剣士①

3/16までにアップした分の再編集版です。

最新話は3/23(日)朝6時アップ予定

 キレイな人……


 その女は、ユリナが見ても美しいと思う、まるでモデルか女優のような美女だった。


 スラッとした高身長。

 やや褐色の肌と、頭の後ろで一つにまとめた緑がかった長髪とのコントラストが人目を引く。ノースリーブの白いワンピースを身に纏い、スカート部の深めのスリットは色気抜群。

 しかし手の甲から肘のあたりまでを覆う、派手な青と白の模様の入った長い金属製のアームガードと、今ユリナを睨みつける視線の凄みからして、剣士であろうことがわかる。


「セイラン・トレディだ……」

「嘘だろ……なんであんな大物が……」

店の中にいた客達が口々に呟く。


「あんた、剣まで抜いたってことは、この店の連中皆殺しにするくらいの覚悟は出来てんでしょうね?」

 セイランと呼ばれた女はユリナを睨みつけながらそう言った。

  ユリナはよくわからずキョトンとしかかったのだが、雰囲気で負けてはならぬと、相手を睨み返した。

「剣士たるもの、決して敵に背は向けない。それだけよ。」

 店内に静寂が走る。

 セイランはユリナを見つめたまま頭を掻いた。

「なんか、話通じてなさそうね……まあいいわ、逃げる気がないなら相手してあげる。表出な。」

 そう言って先に出ていくセイラン。

「ユーシャ君ごめん、サクッと終わらせてくるから、ちょっと待っててね。」

 ユーシャは頷くでもなく、フンーと鼻でため息をついた。


「やめとけ嬢ちゃん!」

 店主が声を荒げてユリナを引きとめた。

「あいつはセイラン・トレディ、魔界のなかでも裏社会で名の売れた賞金稼ぎだ!こんな浅瀬(作者注:魔界の中でも比較的国家に近いあたりを浅瀬と呼ぶ)にいる様なケチなチンピラとは訳が違う!悪いことは言わねえ、今からでも頭下げて許してもらえ!」

「言ったでしょう。剣士たるもの敵に背を向けるわけには行かない。決闘を断ったとあれば、剣士の名が廃るわ。」

 店主の制止も聞かず、ユリナは外に出る。



 外では騒ぎを聞きつけた人々の人だかりが出来ていた。その中心には先ほどのセイラン・トレディがいる。

 セイランは僅かに足を広げた。ロングスカートのスリットから長い美脚が露わになる。それだけで見守る男性陣からは、おおっと感嘆する声が漏れた。

 しかし刮目すべきは足ではない。彼女の両太ももそれぞれに、変わった形の、柄のない短剣がくくりつけられている。セイランがダラリと腕を下ろすと、彼女のアームガードに短剣がガチャンと音を立てて装着された。こうして、肘から剣の先までまるで一つの長い剣のようになったのである。


「泣いて謝るなら許してあげないこともないけど?」

「魔界の先輩剣士様に手ほどきを受けさせていただけるなんて光栄だわ。一つお手柔らかにお願いね、おばさん。」

 まだ僅かに緩かった空気が凍った。

「気が変わった。あんた殺す。」

「本気になってくれたのなら、嬉しいわっ!」

 言い終わらぬうちにユリナが踏み込む!

 その一歩でセイランとの距離を一瞬にして詰め、袈裟斬りをお見舞いした。

「早い!?」

セイランが左のアームガードで受ける。

「ん〜〜〜!!口だけじゃないみたいね!」

「まだまだ!!」


 押しながらも半歩下がり、上下左右に突きまで加えて繰り出されるユリナの連続攻撃。

 身長差があるとは言え、短刀と長剣ではリーチの差は歴然。ユリナはセイランの剣が届かないギリギリの距離を維持しながら、攻撃を繰り出し続けた。

「やるじゃないの!」

 じれた様子で振るセイランの横薙ぎを宙返りしながら余裕でかわし距離を取る。

「まだ、この程度じゃね!」

 ユリナが剣を肩に担ぐ。踏み出された左足が大地を割る。

「物足りないのよぉ!」

 気合と体重の乗り切った一振り!

 ユリナの斬撃が空気中の霊子を伝わりセイランへと飛んでいく!

「うそぉ!」

 退きながも刃で弾くセイラン。辛うじて防いだという感じだが、そのままその場に立ち尽くした。

霊子斬り(エーテルソニック)じゃねえか!」

「嘘だろ、国家親衛騎士クラスの大技をあんな子供が……」

 聴衆から思わず声が漏れる。

 ユリナが普段から使うこの技だが、本当は並の剣士が使えるようなものでは無い。

「驚いたわね、そんなことまで…」

 セイランからも漏れる感嘆の声。

 しかし、ざわつく民衆に反してユリナの頭は冷めていった。ユリナはセイランを見つめたまま、剣をおろした。


「もう終わりにしましょう。」

「はあ?」

「今のでわかったでしょう。私とあなたでは実力が違い過ぎる。このまま防戦一方のあなたを痛めつけるつもりはないわ。あなただって命を粗末にはしたくないでしょう。」

 ユリナの言葉を聞いてセイランは顔をしかめる。

「私の事まで心配してくれるだなんて、随分と優しいじゃないのっ!」

 セイランが言うと同時に腕を前に突き出す。アームガードに装着された刃が勢いよく飛び出し、ユリナに向かってきた!

「うわ!」

 慌てて剣を上げて逸らすも、刃には鎖が繋がれており、ユリナの剣にグルグルグルと巻き付いていった。ちょうどセイランとユリナは、鎖で繋がれる様な形となった。


「まだ武器を隠していたってことね、でも……」

 お互いの力の差を考えれば鎖を引っ張って引き寄せる事は造作もないハズだった。しかし鎖はビクトもせず、セイランもまた元の位置から動く様子もない。

「なんで……!?」

 そうしてもがいていたときだ、剣を持つ手の周りが急に冷たくなってきた。瞬く間にユリナの手は凍りついたように冷たく、動かなくなる。さらには腕を通じて胴体までもが冷気に襲われる。気づけば冷気どころか、ユリナの腕から足までをも氷が覆っていた。


 鎖を手繰り寄せてセイランが近づいてくる。抗おうにも氷が溶けず、動くことが出来ない、

セイランは腰をかがめ、ユリナの眼前に自らの顔を近づけ、そしてニヤッと笑った。

「まぬけね、あんた。」

その時になってユリナは気付いた。

「この氷、霊子変形…」


 戦いの最中ではあるが霊子変形についてお伝えせねばならない。

 地獄の穴から霊子が溢れ出るようになってから、人類の脳に出来上がった霊幹が覚醒し、超人的な身体能力を発揮する者「覚醒者」が現れるようになった。

 しかし霊幹の働きはそれだけではない。

 人体に吸収された霊子を霊幹が通る際、全く別の物質へと変形することがある。何になるかは人によって型が異なるが、特殊な霊幹を持つ人々は自らの体内で新たな物質を生み出し、それを放出することによって様々な超常現象を引き起こすことを可能とした。

 人々はこの不思議な力の事を脳で霊子が姿を変える様からこう呼ぶようになった。

 霊子変形と―


 ユリナ達の戦いに戻ろう。

 セイランの放った氷の霊子変形によってユリナは半身を凍らされて動けずにいた。彼女の眼前で嘲笑うかのような笑みを浮かべるセイラン。ユリナは諦めて深いため息をついた。


「まいった、私の負けよ。」

 ユリナは剣を手放した。鎖につながれたまま、ユリナの剣が地面に落ちてカランと音が響いた。

「はい?」

「剣では負けなかったけど、不意を突かれたとは言え防げなかったのは私の落ち度ね。負けを認めるわ。あなたの望みは何?お金?なんでも言う事を聞いてあげる。だから早くこの氷を溶かし…」

 ユリナの体を覆っていた氷がパキッと割れる音がした。それとほぼ同時に、ユリナの腹に鈍い痛みが走る。

「え、うそ」

 セイランの短刀がユリナの腹に深く突き刺さっていた。



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