29.エクゼスナイツの新メンバー
本作は全49話で、3/28に完結予定です。
「セイランが言っていた、昨日みたいな危険な目って、何のことだ?」
エルミーとセイランがいなくなった後、エクリードはユリナに尋ねた。
「私達、昨日魔族と戦ったの。凄く強くて、それで走って逃げてここまで来たの。」
「セイランでも敵わなかったということか。なかなか手ごわそうな奴だな……」
「魔族よりもあの、車椅子の男の方が厄介だった。」
ユーシャが会話に加わる。
「車椅子の男だと……?」
「そう、魔族だけなら不意打ちで一回はセイランさんが倒した。だけど、その後に車椅子の男に何かをされて、皆体が動かなくなっちゃったんだ。」
「あの人、凄く怖かった。戦う力は無さそうだし、手も出してこなかったけど、なんか立ち向かっちゃいけないような気がして……」
「その男、おそらく俺達も会った男だ。」
「エクル達も?」
「ああ、魔族もきっと同じやつだろう。」
「エクルでも倒せなかったってこと?」
「倒せなかったというか、なんというのかな……」
エクリードはしばらくウーンと唸った。
「今考えるとなんだが、あの車椅子の男が来てから俺も魔族の奴も、お互い戦意を喪失した様な気がしたんだ。だから決着がつく前に終わっちまった。」
「戦意を喪失……」
ユーシャがんんん~と、何やら考え出した。そこへ、
「終わったよ〜。」
と、陽気な声を上げながらエルミーが戻ってきた。後に続くセイランは俯いて暗い表情。
「セイラン、どうしたんだ?」
セイランが顔を上げ、エクリードと目が合うと、途端に顔が真っ赤に。
「セイランさん大丈夫?顔赤いよ?」
「なんでもないわよっっ!!」
いきなり叫ぶセイラン。
体の周りには、相変わらず大量の桃色ハート霊子が。
これ、本当に皆にバレて無いの……?
霊子が見えないとは言え周りの連中のこの感度の低さには若干不安にもなった。
「話はまとまったよ。セイランがエクゼスナイツに入ることとなった。」
「えぇ〜!」
驚愕するユリナとエクリード。
「ちょっと、まだ入るって言ったわけじゃ……」
エルミーがセイランにウインクする。
セイランはそれ以上何も言わなくなった。
「魔界での活動には有識者の協力が不可欠だ。素性を明かせないボク達と比べて、セイランのネームバリューは魔界では抜群だから、エクゼスナイツに入ってもらうことにしたよ。」
「本当?じゃあ、セイランさんも一緒に帝国に帰れるってこと?」
「そんなわけねぇだろ!」
否定的なエクリード。
「なんでよ。団員の推薦があれば入団は可能だ。」
「そんな勝手にエクゼスナイツに入れられるか!いくら団員の推薦があったって、承認は陛下か、陛下の代理人が……」
そこまで言ったエクリードが青ざめた。
エルミーは徐ろにユリナに向き直り、跪いた。
「魔界におけるユリナ皇女殿下の保護・護衛任務延長にあたりエクゼスナイツ2名でのリソース不足懸念を鑑みて現地での戦力追加を提案いたします。なお追加要員は現行エクゼスナイツ合流までの期間に現地ボランティアとして有志で皇女殿下の護衛に当たっていた現地剣士セイラン・トレディの採用がその他剣士採用の際と比較し工数の削減に繋がり一刻も早い状況改善が求められる現況において最適と考えます。
ユリナ皇女殿下、何卒、ご承認賜りたく存じ上げます。」
「はい!承認します!」
淀み無く早口で言うエルミーに元気よく即答のユリナ。
「よし、サマ皇帝陛下の代理人としてユリナ皇女殿下に承認賜りました。コレで文句ないよね。」
「やったー!これでセイランさんと一緒に帝国に帰れるんだね!」
セイランに抱きつくユリナ。
「そ、そんなに言うなら、暫く一緒に行動してあげなくもないけど……あ、でもボランティアってのは取り消して!これまでの分も含めて報酬はたんまり貰うからね!」
私のお小遣いなくなっちゃうよーと、嘆きながらも和気あいあいとするユリナと一同。
エクリードは頭を抱えた。
「こんな、無茶苦茶な……」
「まあそう言わずに。別にユリナが気に入ってるからスカウトしたわけじゃないよ。セイランの氷は霊子の動きを止める凄い力なんだ。」
「はぁ?私そんな事した覚えないわよ?」
「わからなくても無理はないよ。普通はね。でもさっきの戦いで分かった。セイランの氷の中で停止してる霊子が見えたんだ。普通の氷じゃ出来ない芸当だよ。」
「霊子が見えた……?」
「エルミーは霊子が見えるんだ。凄いでしょ。」
エルミーが胸を張るのとは裏腹に、セイランは言葉を失った。
霊子は見えない。
今更言う話ですら無い。
誰も彼も霊子があるということ事態は事実として知ってはいる。だが霊子の存在を意識することはほぼ無い。認知できないからだ。
「ユリナの言った通り、ボクは霊子が見えるんだ。だからどこに霊子が多いとか少ないとか、どんな形してるとか分かるわけ。それに人の感情に変化があると霊子も釣られて少し変形するんだ。その人が何をどう思っているとか、大体わかっちゃう。だから、セイランが何か隠してそうってのも、分かっちゃったんだよな〜」
笑みを浮かべるエルミーに顔をしかめるセイラン。
「霊子が見えるってことはないでしょう。」
「ん?」
ユーシャの言葉に、エルミーの顔から笑みが消えた。




