1.ユリナVS悪魔
3/16までにアップした分の再編版です。
最新ep.26は3/24朝6時頃アップ予定
悪魔が現れた!
魔界の荒野に新たに生じた地獄の穴から出る悪魔が、目の前の少女に襲いかかったのだ!
2メートルを超す巨体。
人の形をしているが腕は地面に届きそうなほどに長く、黒紫色の肌に、目は赤く光っている。人間の恐怖を掻き立てるその威容。
しかし対峙する少女は顔色一つ変えることなく、腰の鞘から剣を抜き構える。
スゥーっと、深く息を吸う。
地獄の穴から出る霊子が呼吸とともに体に入り、脳の霊幹を回すのを感じる。
感覚が研ぎ澄まされていった。
長い腕を振り上げ、悪魔が少女に殴りかかる。顔面ギリギリまで引きつけた上で、しゃがみながら身を翻しての少女の斬撃が悪魔の腕を捉えた。
悪魔の体から切り離されて飛んでいく右腕。さらに振り向き攻撃してくる悪魔に、今度は少女の方から踏み込んで残った左腕も一閃。
瞬く間に敵の戦力を奪う戦闘運び。
悪魔の感情はわからぬが、これには流石に怯んだ様子。後ろに飛び退き距離を置く悪魔。
だがこの隙を、彼女は逃さない。
剣を担いで思い切り力を込める。
強烈な左足の踏み込みが大地を叩き割る。
「くらえ」
少女が剣を振り下ろす。
体重と気合がこもった渾身の一撃が空気中の霊子に伝わり悪魔に放たれる。離れて体勢を整えようとしている悪魔に隙を与えず、その体を真っ二つに切り裂いた!
右と左、二つに分かれて地面に倒れ込む悪魔。そのまま動かなくなる様子を少女は静かに見つめた。
え、ヤバ、強、わたし。
—--
まずはこの時代のこの世界について簡単にご紹介しよう。
それが読者諸氏にとって、この冒険譚を読み解く一助となるであろう。
この時代よりもはるか以前、かつてはここにも大小様々な国家が形成され、人々の当たり前の生活が営まれていた。
しかしある時、地獄の穴が開く。
穴から溢れ出る悪魔たちは人々を襲い、多くの命が失われ、国家が滅びていった。
悪魔から逃げる人々は悪魔の少ない大陸外周に集まり、海岸線に沿う形で環状に国家が残る。
一方で、国家の法に追われたならず者達は悪魔蔓延る無国家地帯を目指す。
国家と秩序が失われ、ならず者と悪魔が混在するこの混沌たる大地をいつしか人々はこう呼ぶようになった。
「魔界」と…
そんな魔界の荒野に立ち悪魔を倒したこの少女は、(自称)美少女剣士ユリナ、十四歳。
見た目は大分カワイイ(あくまで自称)だけで、至って普通の女の子。
パッチリお目々に栗毛のボブカット。胸元にチェックの模様の入った白シャツに、こちらもチェックのミニスカート、こだわりの膝上15センチ。 だが、手に装着する宝飾のついたアームガードと、細身の長剣を腰から下げている様から、ただの少女ではないことが伺える。
(筆者注:軽装でも防御面に有用となるアームガードを装備するのが魔界の冒険者には一般的であった。)
改めて、動かなくなった悪魔の姿を、ユリナは興奮を抑えながら見つめた。
控え目に言って、楽勝。
悪魔と戦うのは始めてではない。
ただこれまではもっと小さな悪魔にも苦戦し、怪我を負うこともあった。それがこの見事なまでの戦いっぷりはどうだ。
強くなってる!
己の成長に心が震える。
魔界人の一人でも観客のいなかったことが悔やまれてならない。顔がニヤけるのを抑えながら、剣についた悪魔の体液を払い、鞘に収めようとした時だった。
「左だ!」
いきなり背後から声が聞こえてユリナはえっと思う間もなく振り向こうとしたら、なんと先ほど切り落とした腕が単体でユリナに向かって飛んできていた。
「うわっ!!」
咄嗟に剣で払う。どうにか避けるも、腕は宙を舞い、空中で方向転換して何度もユリナに襲いかかってくる。
「ぼーっとするな!後ろ!」
腕の攻撃を何とか避けていたものの、今度は後ろからもう一本の腕も飛んできた。
胴体から切り離された分、軌道が読めず、的も小さい。先ほどよりもはるかに厄介だ。
「右手の甲にコアがある。ああでも、弱点が無い分左手の方が躊躇なく突っ込んできているな。先に左手を封じてから右手を…」
声は聞こえてくるがそっちを振り向く余裕がない。そもそもどっちが右手か左手かも判別つかない。とにかくがむしゃらに剣を振ると、片方の手首の切断に成功し、スポンと飛んでいった。
これで少しは楽にと、一瞬気が抜けたのがいけなかった。残るもう片腕が、油断しているユリナの首を絞め上げたのだ。
「うぐっ!」
ユリナの呼吸が止まる。振りほどこうとしても腕の力は強くて動かず、そうこうしているうちに意識も遠のいてきた。思ったよりもヤバいと、焦り始めるユリナ。
その時、ユリナの脇を人影が通っていく。
誰……
見ればユリナと同い年か、少し幼くも見える少年である。少年は、ユリナが切り離した悪魔の手を拾い上げ、地獄の穴に近づいた。そしてその上にそっと悪魔の手を置き、自らの手を重ねた。
ユリナは、目を疑う光景を目の当たりにした。
少年がしゃがむのに合わせて悪魔の手が徐々に地獄の穴へと沈み込んでいく。そして少年の手が地獄の穴に触れると、黒い輝きが徐々に弱くなっていく。
それだけではない。
地面に不自然に広がっていた黒い光が、まるで少年の手を中心に水がひいていくかのように、元の地面に戻っていく。
そして少年が立ち上がるころには、地獄の穴はキレイサッパリなくなり、本来の地面に戻っていた。
「ふ、塞いだ……………」
悪魔の手が力を無くし、ぽとりと落ち、そして砂となって消えた。悪魔の最後だ。
息苦しさから解放されたユリナは、ゲホゲホとむせつつ、少年の方を向く。
少年は目を細め、どこか覇気のない様子でユリナをジッと見つめている。
「さっき声かけてくれたの、あなただよね?助かったわ。ありがとう。まあ、ピンチって言うほどじゃなかったけどね。」
強がりを言うユリナに対し、少年の眉がピクッとつり上がった。
「ド素人丸出しだな…」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
「あの程度の悪魔に手こずるとか、本当に剣士?よくこれまで生きてこられたね。」
「はああ!?何それ、偉そうに!別に手こずってなんかいないし!むしろあなたの声のせいで気散っちゃったんですけど!」
「悪魔は同じ種類でも個体毎にコアの位置が違う。コアが分からないときはバラバラになるまで切り刻むのが鉄則。そんな事も知らないの?」
ユリナは言葉に詰まった。
知っていたのである。
というか今言われて思い出した。だがこれまで戦った悪魔はたいていが頭とか胸のあたりを破壊すれば消えていくものだから、大体がそういうものだと思っていた。
「あ、あなたねえ、いきなり出てきて偉そうなこと言ってるけど、私がいなかったら今頃さっきの悪魔にやられていたかもしれないのよ!?少しは感謝しなさいよ。」
「そう。そうなんだよね。」
アッサリと引き下がる少年に拍子抜けした。
「この辺は本来、平和で歩きやすいエリアなんだ。悪魔だってほとんど出たことがない。さっきの地獄の穴だって、つい最近まで無かったはずだ。」
「ええ!っていうことは、さっきの穴って新しく開いた穴っていうこと!!?」
この時より136年前、大量に開いた地獄の穴だったが、その後は新しく穴が開くことは無いとされていた。
しかし最近、新しい穴が開き始めているという噂が魔界の人々の間に流れていた。
「あの噂は本当だったのね。」
しかし、今はその穴の跡形もない。
地獄の穴は塞がらない。
蓋をしようが土で埋めようが関係なく、悪魔も霊子もあふれ出てくる。それがこの世界の人々の常識。
だから魔王がいなくなった後も、溢れ出てくる悪魔達に多くの人々が苦しめられ続けている。
過去に地獄の穴を塞ぐことに成功した人物は、一人しかいなかった。それなのに……
「あなたが、塞いだの……」
「そうみたいね。」
何をどうしたのか、疑問は尽きない。
ただ、地獄の穴を塞ぐ力が目の前にある。
ユリナは震える体を抑え、唾を飲み込んだ。
「あなた、名前は……?」
「僕はユーシャ……」
「ユーシャ君、ね……」
ユリナは真っ直ぐユーシャを見つめて言った。
「お願い、私と付き合って。」
3/16までにアップした分の再編集版です。
最新話は3/23(日)朝6時アップ予定




