21.エルミーVS魔族の霊子
3/16までにアップした分の再編集版です。
最新話は3/23(日)朝6時アップ予定
空から車椅子の男と魔族を探すエルミー。
一時間ほど飛び回ると、砂煙を上げて走る車椅子を見つけた。あの魔族が、凄まじい勢いで押している様だ。
そのまま暫く空からこっそり後をつけようと思ったが、唐突に目眩を発症した。
「ヤバ、落ちる……!」
大きく体勢を崩し墜落。
しかし地面スレスレでどうにか持ち直して減速し、ドサッと地面に倒れ込んだ。
「飛べるのはせいぜい、一時間ってとこだな…」
頭の中がグルグル回っている。手足もほとんど動かない。エルミーは空を見上げたまま寝転がっていた。悪魔も人も、周りにいないのが幸いだった。
「こんな霊子変形を、シュレーは一人で何時間も、しかもあんな大きなプレーンを、あんな速度で……」
エルミーの飛行は、エクゼスナイツの同僚でもあるシュレイアの模擬霊子変形である。やっていることは同じだが、シュレイアは自分だけでなく触れているものも一緒に飛ばすことが出来る。帝国のプレーンも、彼女の霊子変形によって飛ばされているのだ。
大きな物を飛ばしたり、速度を上げたりしようとすると霊幹への負担も大きくなる。
しかしシュレイアはエネルギー補給のために甘い物を食べ続ければ何時間でも飛行が出来てしまう。
「やっぱり、あの子は化け物だな……」
思えば、魔界に来てから初めて、一人きりで物を考える時間が出来た。
そうなると唐突に、一人でいることが寂しく思えた。鬱陶しく思っていたエクリードすら、近くにいてくれたら良いのにと思う。
ミューズ、シュレイア、その他エクゼスナイツのメンバーや、城の皆の顔が頭に浮かんだ。
「あ、そう言えば……」
エルミーは頭の中で通信の霊子変形を行った。頭の中で通信先のデンエシンの声が聞こえてきた。
「どうしたんじゃエルミー?何かあったのか?」
「ううん、なんでも。デン爺元気かなと思って。」
「エルミー、そんな、わしのことを心配して……」
なんて良い子なんじゃと、老人がすすり泣く声が聞こえる。
「それとさ、お願いがあるんだ。なんか魔界にあるなんとかってスイーツ食べたいって前に言われたんだけど、名前忘れちゃって、聞いといてくれない?」
「ほう?シュレイアに聞けば良いのか?」
「いや、ユリナ」
デンエシンが急に咳き込む音が聞こえた。
「どうしたの?大丈夫?」
「い、いや、ちょっと茶が変なとこに入っただけじゃ。」
「気をつけてよー、そういうのが一番危ないからさ。じゃあ、お願いね。通信終了。」
通信が終わるころには、体も動くようになっていた。
「あいつら、あっちに向かっていったな。」
見れば、かなり遠くだが何やら建物が見える
エルミーは小走りで、車椅子の男達が向かった先へと駆けていった。
その建物は古びていたがそれなりに大きな館だった。周囲に人の姿はない。
門から庭に入り、扉のところで中の様子を伺う。すると中から何やら声が聞こえ、エルミーは慌てて身を隠した。それと同時に扉が勢いよく開き、何人か人が飛び出し、一気に門から出て走り去っていった。
隠れながらも遠目に見れば、緑の髪の女が走る後ろ姿。
「まさかセイラン・トレディ……?」
追いかけようとするエルミーだったが、その時館の中から何やら声が聞こえてきた。
「もう動けるんだろうな?」
「黙れ!しつこいんだよ貴様は!」
そんな会話をしながら出てくる車椅子の男。
続いて魔族が出てくると思ったが、建物の扉の周りが急に中側から吹っ飛んで崩れた。
そしてその崩れた壁から出てきた姿を見て、エルミーは驚愕した。
出てきたのは確かに先ほどの魔族の男。しかし明らかに大きさが違う。先ほどまでせいぜいエクリードより少し大きい程度だったが、今はゆうに3メートルを越そうかという巨体だ。
体は悪魔のように紫黒く、体中に鋭利な角が生えている。
「あれが、本当の姿……?」
だが大きさだけならば、魔界の悪魔にはもっと大きなものもいるから珍しくはない。
問題はその周囲の霊子だ。
とんでもない範囲の霊子が魔族の気迫によって異形を成している。
霊子は正直だ。周囲の雰囲気に押されてすぐ形を変える。実力者が近くにいればなおさら、その者に合わせた形に変化する。それでもここまでの広範囲の霊子を、存在感だけで変化させる者は見たことがない。
更には霊子の質も異様だ。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ
キケンタイですら目じゃない。
凄まじい獰猛性を孕んだその霊子。触れるだけで、肌が焼けたかと思うようなヒリヒリとした緊張感と嫌悪感に苛まれる。
「ん?誰かいるのか?」
魔族の声がし、エルミーの体が硬直した。下手に動くことは出来ない。しかしいきなり攻撃してくるような奴である。今見つかれば、命はない。エルミーは静かに深く息を吸った。
魔族がエルミーのいる方へ掌をかざす。光が掌に集まってくる。
「おい、やめろ。すぐに爆発させるなと言ってるだろ。耳が痛いんだよ。」
急速に光がしぼんで消えていく。
「早くしろ、セイラン・トレディを追うぞ。地獄の穴を開ける力はもうすぐそこだ。」
二人は門から出て出ていった。
エルミーは二人が完全にいなくなるのを待った。暫くして魔族の獰猛な霊子が消えたのを確認すると、エルミーも門から外に出た。
「あいつら、セイラン・トレディと接触していたのか……」
体が震えていた。
今まで大概のことは霊子を通して分かるから、何かを怖いと思うこともあまりなかったように思う。しかし今日は、霊子が見えるからこそ、人一倍の恐怖を感じたように思う。
「あいつらより先に、セイラン・トレディを見つけないと……」
とは言え、既に先ほど走り去っていったセイランらしい人影はもうどこにも見えない。
「せめてどちらに向かったかだけでも、何か手がかりがあれば……」
そう思って辺りを見回していたエルミーは、微かにだが、周りと少し異なる霊子があるのを見つけた。
近づいてよく見ると、何やら尖った霊子がいくつも、同じ方角に尖りを向けて並んでいる。攻撃性は感じないから、霊子突き等の残滓では無さそうだ。
「なんだこれ?初めて見る……」
そう思って、霊子の群れを手で触って見ると、
「うわっ!」
まるで手を強引に引っ張られる様に、体が動いた。慌てて手を引っ込めるエルミー。
「霊子に引っ張られた?」
恐る恐る、今度は体全体を霊子にさらしてみた。すると背中が押されるかのように体が前に出て、自然と足が回り始めた。
「霊子が押してくれている?こんなことがあるの……?」
以前に、ミューズに霊子斬りを習った時のことを思い出した。
「空中の霊子にお願いするの。斬るのを手伝って下さいって。」
「霊子がそんなの、わかるわけないでしょ。」
「わかるのよ。霊子は皆素直だから、ちゃんとお願いすれば、応えてくれるわ。」
仮説を立てよう。
もし、セイラン・トレディ達が先ほどの魔族に対峙し、命からがら逃げる事が出来たとする。彼らは必死に逃げようとしたハズだ。その逃げたいという気持ちに霊子が応え、変形したのだとしたら……
「この先に、セイラン・トレディがいる……」
別の可能性もある。こんなにも空中の霊子に作用させられる者がいるとしたら、それはよほど霊子の扱いに長けている者であろう。もしかしたらそれは、先程見たあの恐ろしい魔族かも知れない……
「ええい、考えすぎるな!ボクらしくないぞ!」
魔族にビビって弱気になっている自分に気付く。息を吸って思い切り霊幹を回し、エルミーは己を奮い立たせた。
「何が待っていても、負けない……行くぞ!」
尖った霊子に身を任せ、エルミーは走り出した。




