20.エクリードVS魔族 烈火剣
3/16までにアップした分の再編集版です。
最新話は3/23(日)朝6時アップ予定
エクリードの炎で燃え上がる魔族の男。しかし、
「熱いな……」
火だるまになったにも関わらず、男は表情も変えずに呟いた。
周りの客が隙を見て逃げていく。
「店の中じゃ思うように動けない。ボク達も外に出よう!」
エルミーの声がけにより、二人も外へ。
魔族の男も続けて外に出てくる。
先程まで燃えていた男だが、火は消え、体に僅かに煤がついた程度だ。
「エクルの火を受けてもピンピンしてる……なんてやつだ!」
「ならば!」
エクリードが剣を取り、一気に距離を詰め斬りかかる。しかし男は腕で受けとめた。
「硬い!」
「歯ごたえがないな。」
男の拳がエクリードの腹を捉える。ギリギリで下がったが、凄まじい衝撃にエクリードは吹っ飛んだ。
「エクル!大丈夫!?」
エルミーが近寄る。倒れたまま体を起こして答えるエクリード。
「大丈夫だ、痛ぇけど……」
騒ぎの様子に町人が集まってきた。
「おい、こんなに人間がいるなら、誰かセイラン・トレディの事を教えろ!」
魔族の男は人々に呼びかける。しかし誰も答える者はいない。
「誰も知らないのか。」
そう言うと男は、掌を握った。男の掌に光が集まってくる。
ヤバい
エルミーは底知れない危機を感じた。そんな彼女を、その小さな体を覆い隠すように、エクリードが押し倒した。
「じゃあ用は無いな。」
男が掌を開く。
轟音とともに、掌に溜まっていた光が一気に放出された。
男の掌を中心に爆風が吹き荒れ、人も、建物も、全てをなぎ倒していく。
エクリードの体に遮られ、エルミーには何も見えず、その吹き荒れる風の音だけを聞いた。
「エルミー、無事か……」
エクリードはそう言いながら、ゴロリと地面に転がった。
「エクル!大じょう……ぶ……」
エルミーは言葉を失った。
町の建物ほぼすべてが崩れ落ち、至る所で煙が上がっていた。
先程まで乱闘を見物していた人々も、全て跡形もなく消えた。潰えた命が霊子に変わり登っていくのを、エルミーは見た。
「こんな、嘘だ、町が、人が、みんな」
体の震えが止まらない。
戦いや略奪とも違う。
一瞬にして人々の日常が奪われる様をエルミーは目の当たりにした。
「まだ生きているのか。」
魔族の男が話しかけてくる。
「お前が……お前がやったのか!こんな酷いことを!」
「酷いものか。どうせ俺様にかかれば人間など滅びる運命だからな。」
「許せない、お前みたいな奴がいるから、いつまでも魔族と人間が争い続けるんじゃないか!」
「それがどうした?俺様以外の魔族だって同じだ。どうせ最後にはみんな滅びることになる。」
「こいつ……」
エルミーが剣に手をかける。
しかし、そのエルミーをエクリードが制した。
「エクル!無理しちゃ駄目だ!」
「大丈夫だ。この程度なら大した怪我じゃない。」
そう言うエクリードを、凄まじい程の怒りの霊子が包みこんでいた。
「下がってろエルミー……」
エクリードは両掌を広げ、深く息を吸った。
「アレをやるのか!」
エルミーが叫ぶ。
エクリードの体内に吸収された霊子が霊幹で変形し、炎となって血管を駆け巡る。
指先に到達した炎は外に飛び出し、掌に炎が溜まっていく。
炎はどんどん大きくなり、掌だけでなく、腕、肩を通じ、エクリードの全身を燃え上がらせた。
腕を振り上げ、両掌を合わせ、そして叫んだ。
「燃えて無くなれ!」
掌から頭上高く燃え伸びる炎!
やがてその炎は形を成し、巨大な炎の刃となった!
「烈・火・剣!」
エクリードの左足の踏み込みが大地を揺るがす!
そして振り下ろすと同時に一気に巨大化する炎の刃が、魔族の男を切り裂いた!
「ぐああああああ!」
炎の刃は男の頭を僅かに逸れ、右肩から腕を切り裂いた。
「外した!?」
しかしまだ炎の勢いは衰えていない。
エクリードはなおも炎を振り上げ、頭を狙った。
しかし、いざ振り下ろす時になって、エクリードは急にエルミーの言葉を思い出した。
魔族だから脅威だなんておかしい!
他の方法が無かったか、エクルも考えなきゃいけないんだ!
なんで、こんな時に……
炎を振り上げたまま、動きが止まるエクリード。そのまま、炎は徐々に小さくなり、消えてしまった。
「エクル!?なんで!?」
その時、近くからキコキコと、金属の擦れるような音がした。
「待って、ちょっと待って。」
見れば、車椅子に乗った男が、戦いを制止するかの様に掌をこちらに向けて近づいてきている。
「すまない、こいつは僕の召使いでね。ちょっと血気盛んなものだから、すぐ手が出てしまうんだ。」
男は世間話でもするかのような軽い雰囲気で言った。
「悪気はないんだ。僕からも言って聞かせるから、この場は収めて欲しい。そういうことで。おい、行くぞ。」
車椅子の男が声を掛けると、腕を失った魔族の男も無言で後を追う様に歩き始めた。
「ちょっと待て!」
エルミーが男達を呼び止める。
「やり過ぎたで済むわけないだろう!お前らは一体何者だ!」
「お嬢さん、僕らの事より、自分の心配をしたらどうだ。」
男が、振り向きエルミーを見つめる。
「こんな騒ぎを起こしちゃ、さぞかし注目されるだろうな。君達が何者で、ここで何をしているのか、気になるだろうなあ、皆。」
「それがどうし…た…」
言い返そうとするエルミーだったが、急にエクリードの言葉が頭によみがえってきた。
俺達が魔界にいると騒ぐやつがいる。
魔界不可侵の原則は守ってることにしなくちゃいけないんだ。
ここでもし正体がバレることがあれば、魔界での乱闘騒ぎだけでなく、地獄の穴について探る任務にあたっていることも知られてしまうかもしれない。そうなれば他国に付け入る隙を与え、帝国の立場が悪くなる。国際問題に発展しかねない。
「理解できたようだな。賢い子だ。分かったら大人しく国に帰るんだな。」
車椅子の男と魔族は共に去っていった。
暫く二人とも、黙っていた。
「エクル、なんで烈火剣を奴に食らわせなかったの?」
「お前の言葉を思い出したんだ。そうしたら、魔族だから斬って良いなんて思えなくて、急に、自分が人殺しのまま戻って来れなくなるんじゃないかって不安になって……」
「そうか、ごめん、ボクが余計な事を言ったばっかりに……」
「いや良いんだ。敵の仲間も現れた中で生き延びただけでも儲けものだ。」
エクリードはそう言うが、エルミー自身、相手が退こうとしている中ではもう少しでも情報を集めておくべきだった。いや、元々はそのつもりだったのに、エクリードの言葉を思い出して、自分の行動が国家に影響するのではないかと、エルミーも不安になったのだ。
「あいつら、セイラン・トレディを探してたな……」
エクリードの言葉に、エルミーはハッと気付いた。
「もしかして、さっきの奴らが地獄の穴を開けている……?」
「えっっ」
「各地で地獄の穴を開ける魔族。そうやって霊子を増やし悪魔や魔族を活性化させようとしていた。しかし折角開けた穴が塞がれていることに気づく。奴らはセイラン・トレディが穴を塞ぐ事に関係していることを知り、彼女を探している。地獄の穴を塞ぐ力を、消すために……」
独り言をブツクサ言うエルミー。
「それは、何か違うような……」
否定するエクリードに構わず、
「ボク、あいつらを追いかけるよ。エクルはセイラン・トレディをお願い。」
「いや、ちょっと待て。勝手に話進めるな、危ないだろ。」
「心配しないで。あんな奴と戦うつもりはないよ。コッソリ後つけてみるだけ。それに、ボク一人のほうが、隠れたり逃げたりする分には都合良いしね。」
そう言うとエルミーはフワリと浮き上がった。
「とりあえず空からあいつらを探してみる。」
「待て待て!早まるな!地獄の穴の件はその、あんまり関係ないって!」
「ちょっとでも可能性があるなら、確かめてみたいんだ。何かあったら連絡する。エクルも気をつけてね!」
そう言ってエルミーが飛んでいくのをエクルは見届けた。
「おい、いつまでも遊んでないで、車椅子を押せよ。」
車椅子の男がそういうと、魔族の男の頭が体から離れた。
頭の周りに光が集まり、タキシードを来た紳士風の、新しい体が現れた。
「綺麗な身なりだな。お前にしては上出来だ。」
車椅子の男の言葉に、魔族の男は眉をひそめた。
「何故止めた?」
「馬鹿か!すぐに何でもかんでも爆発させやがって!こんな町中で虐殺騒ぎ等起こしてみろ。すぐに噂になり正義感にかられて犯人探しに躍起になる奴らが現れるぞ。それにあいつら、エクゼスナイツだ。」
「なんだと!?」
「間違いない。あの剣技、エクゼスが使っていた烈火剣だ。忌々しい連中だ。何が狙いかはわからんが、あれをまともに食らえば、貴様とてただでは済まんだろう。その軟弱な体ではな。」
「馬鹿にするな!あんな奴らにやられるものか!」
「この場で奴らだけ始末することは容易いが、魔界で仲間がやられたとあれば帝国とて黙ってはいない。大挙して押し寄せてこられては、これまで地道に積み重ねてきた努力が水の泡だ。ここは慎重になれ。」
「クソッ!地獄の穴の力さえあれば!」
「焦るなよジンセ。お前は愚かだな。力はあるが使い方を知らない。僕に任せておけ。そのために悪魔共を町にばらまいたのだから。」
話してる最中に、ジンセが頭に指を当てた。
「悪魔の一匹がセイラン・トレディを見つけた。館に向かっている。」
「ほら見ろ、噂をすれば、かかったじゃないか!僕らも館に戻るぞ。」




