17.エルミーVS魔界の闇
3/16までにアップした分の再編集版です。
最新話は3/23(日)朝6時アップ予定
「まあ、羊の魔物の毛刈りを?」
「そうなんだ。魔族達が穴から出てくる羊魔物の毛を刈って、人間に売ってるんだよ。
結構評判良いみたいでさ。エクルなんて、ずっとここで働いてくれとか言われて、ちょっとその気になってたんだよ。」
「なってねえよ!」
目の前の映像の中に割り込んできたエクリードがそう言うと、ミューズは目を細めてウフフと笑った。
いつもの本国と魔界組との通信。
今日はデンエシンだけではなく、ミューズも一緒に出ている。エルミーがどうしてもミューズと話がしたいと言うので、今日は特別に地獄門前からお届けしているのであった。
「凄いよ。魔族達もこの世界で人間と、対立ではなく共存するために頑張ってるんだ。
ボク、魔界ってもっと怖い所だと思っていたけど、ここは皆がいろんな価値観を大事にして、本当に自分らしく自由に暮らせている。城にいたら分からなかった色んなことが、魔界に来たら見えてきたんだ。いつかミューズとも一緒に来たいな。」
「私はエルミーがたくさんお話してくれるから。それで十分よ。」
「そっかー、ボクはミューズと一緒に美味しいもの食べたりしたいんだけどな。あ、美味しいものと言えば、こーんなでっかいマカイタケが山に生えてて」
「エルミー、あの、そろそろ…」
女子トークの勢いに押されて空気と化していたジジイ(デンエシン)が申し訳なさそうに口を挟んだ。
「チェッ、まだまだ話したいこと、いーっぱいあるのに。」
「明日話せばいいだろ。定例報告して今日は終わり。」
エクリードからは一応セイラン・トレディの足跡を追って近づいているという報告を受けた。なんとなく成果ゼロ感を誤魔化している印象はあったが、ミューズがニコニコしている手前、あまり厳しい事が言えないデンエシン。
「とても楽しそうでしたね、エルミー。」
通信を終えたミューズもまた嬉しそうにそう言った。
「そうじゃな、しかし……」
デンエシンの顔はいつになく険しい。
「魔界は魔界じゃ。良い面ばかりではない。旅を続ければ嫌な面も見えて来る。その時、あの子が何を思うか……」
「あの子は自分の考えをちゃんと持っています。何があっても受け止めることが出来るはずです。それにエクルもついています。」
「いや、奴もまだ青い。魔界の闇に触れて己を貫き通すこと、容易くはあるまい。だが、この世界の矛盾のしわが寄せ集まるあの大地で、この世界の真の姿とエクゼスナイツの使命を知る。それもまた、あの子らが真の騎士となるための試練なのかもしれぬ……」
デンエシンは最期にため息をついた。
—---
「見て!なんか集落的なやつ!」
エルミーが喜びの声を上げて指さす方角には、塀で囲まれた家の集まりが見えた。町という程の大きさではないが、元々街道からも外れたポツンと農家だったのが、人が集まってきてそれなりの世帯数になったというような場所だった。
「あそこでまたお手伝いかなんかしてさ、一泊だけ泊めてもらおうよ。」
既に日は傾き始めていた。手伝うことがあるかは分からぬが、エクリードも歩き回ってそれなりに疲れていた。
「そうだな、ちょっとお願いしてみるか。」
「イェーイ!ボク、先に行ってるね!」
駆け出していくエルミー
「さっきまで疲れた、もう歩けないとか言ってたのはどこのどいつだよ……」
呆れるエクリード。
塀の外には男が一人、地べたに座ってうたた寝していた。本当は見張りか何かかも知れないが、機能している様子はない。
「おっちゃん、こんな所で寝てたら風邪引くよ。」
エルミーは男を起こそうと、その肩をポンと叩いた。すると、男は力なくそのままドサリと倒れてしまった。
「あ、ごめん、強かった…」
男性の顔を見てエルミーの表情が強張る。男の目は開いており、頭から大量の血が流れ出てきた。
「え、コレ、死んで……」
「どうしたエルミー!?」
異様な雰囲気を感じてエクリードも走ってきた。
「これは……」
二人は集落に入った。
家はあるが誰も歩いていない。集落の真ん中の道では、同じ様に人が何人か倒れている。
「酷い……まさか悪魔の仕業!?」
「いや、違う、コレは……」
その時、近くに倒れていた女からウウッと声が漏れた。エルミーは慌てて駆け寄り声を掛ける。
「大丈夫!?」
「工場が……皆……子供を……」
「工場……?」
支えるエルミーの手に血がつく。完全に腹が切られていた。
「お願い…子供達を…」
そこまで言って女は事切れた。
「工場って、まさか…!」
後ろにいたエクリードが、怒りを抑える様な口調で言った。
「内臓工場だ……」
魔界で子供をバラバラにして内臓にする工場。仕入れの方法は様々だが、こうして人里から少し離れた場所で人拐いを行うケースも少なくない。
「これを、人間がやったっていうのか……こんな、酷い事を!」
エルミーが立ち上がる。
「許せない……絶対にぶっ潰してやる!!」
「駄目だ。」
エクリードが制する
「はぁ!?なんでよ!こんなに酷い目にあった人見て、何とも思わないの!?」
エクリードの周りの霊子からも燃えるような怒りが伝わってくる。彼もまた同じ気持ちであるはずだ。にも関わらず、エクリードは怒りを殺すかのように静かな口調で言った。
「魔界不可侵の原則が、あるからだ。」
国家は魔界に介入してはならない。
法の無い魔界において、一国家が己の法を振りかざし、魔界人を裁くことは禁忌とされていた。
「畑仕事は手伝うのに、こんな悪い事した連中は放置はするの!?そんなのおかしいよ!何が原則だよ馬鹿野郎!」
エルミーがフワッと空に浮き上がった。
「おい、どうする気だ!?」
「エクルがやらないならボク一人でやる!」
「よせ!俺達が魔界に介入すべきじゃないんだ!」
「一生言ってろ!ボクはボクのやり方で魔界を救う!」
エルミーは空高く舞い上がり、彼方へ飛んでいく。
「クソッ!」
エクリードは走って後を追った。




