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10 .ユリナVS地獄の穴のこと

3/16までにアップした分の再編集版です。

最新話は3/23(日)朝6時アップ予定

「もう無理、走れない……」


 館を飛び出したユリナ達三人は、全力で走って逃げ続けた。

 一時間以上もかけて3つほど町を越えた先の廃墟にまで到達する。(筆者注:覚醒者が本気で霊幹を回して走ると時速5〜60キロくらいの巡航速度が出る。とても疲れる。)


 そして一時的に身を隠すなら町中よりもあえてこういう人の少ない廃虚が最適とセイランか言うので、三人はやってきた。

 いくつかの廃虚には先客がいたが比較的原型を留めた良い空き家があったので、今夜はここでの半野宿を決めた。 


「ユーシャ君、あなたずいぶん足が速いじゃない。」

「なんでかな。逃げようと思ったら足が動いたんだよね。霊子が後押ししてくれたのかも。」

「そう、良かったわね。」

 セイランはそれ以上話を広げず、横になった。暫く三人とも無言たったが、息が整うと、


「今回は完全に私のミス」

 セイランが寝転がったまま言った。

「ユーシャ君に言われたときにやめれば良かった。迂闊だったわ。金に目が眩んだって言われてもしょうがない。ごめん」

 セイランがユリナ達に謝るのは初めてだ。それほどに、危険な目に遭わせた責任を感じているのだろう。うまい返しも浮かばず、重い空気が流れる。

「まあ、一応生きて帰ってこれたんだし、良かったじゃん。」

 ユーシャがフォローに入る。

「そ、そうだよ。それに最後には穴も塞がってたじゃない?塞げなかったわけじゃないんだからさ。」

「そう、そうね。そうなら、それはそれで良いんだけど。」

 セイランは大きくため息をつき、腕で顔を覆った。

「最初からやめておけば良かった。地獄の穴を塞いで人助けなんて、性に合わないこと。すこしでも話題になったらって、思ってただけなのに、考えが甘かった。こんなことで命捨てそうになるなんて、馬鹿みたい、私……」

「セイランさんが動いてくれなかったら、僕達全員死んでいたよ。いち早く危機に気付いたセイランさんのおかげ。もし、僕とユリナだけで旅をしていたら、今頃とっくにあの世行きだよ。セイランさんがいてくれるから、僕だって地獄の穴を塞ぎに行ける。凄く感謝している。」

 無言で鼻をすするセイラン。


「それに、今回ばかりはユリナのおかげで助かったね。」

 ユリナは脳天が爆発するかと思うほどの驚きを必死で噛み殺して、表情を変えずに答えた。

「私は、何もしてないよ。」

「なに?ユリナが何だって?」

 話を変えたいとばかりに、セイランも話に加わる。

「何でもない。何もしてないなら。私、怖くて震えてただけ。変なこと言わないで。」

「ユリナ」

 ユーシャがユリナの言葉を遮った。

「今後も旅を続けるなら、セイランさんにも知っておいて貰った方が良い。」

 ユリナは唇を噛みながら俯く。 

「気付いてたんだ……」

「何の話?」

 セイランが起き上がった。

「ユリナ、僕から話すよ。良いね?」

 ユリナは無言で頷いた。


「セイランさん、ちゃんと聞いてほしい。」

 ユーシャがセイランに向き直る。


「地獄の穴を開けているのはユリナなんだ。」



 セイランは無言で、暫く動かなかった。

「どういうこと?」

「今まで僕たちが塞いでいた地獄の穴は、全てユリナが開けていたものだったんだ。」

 セイランは目を丸くした。

「嘘よ、そんなこと、あるわけ……」

「ユリナは自分で開けた穴に僕達を案内して塞がせていた。その証拠に、ユリナは新しい穴が開いたという現場に行くとすぐに見つけるのに、前からある穴ではユリナは探そうともしなかった。また僕達がピンチになると、必ずタイミングよく地獄の穴が開き、僕らを救ってくれた。レストランや、昨日のように。全部ユリナがやっていたことなんだ。」

「でも、私と戦った時に開いた穴は…この子、あの時倒れていたじゃない。」

「死にかかった事によって力が暴走したんだ。身体の危機を感じて霊幹が急回転する。珍しい話じゃないよ。」

 ユリナが開けていたと思えば、今まで起こった全ての出来事に理由がつく。セイランの顔が青ざめる。

「ユリナ、本当なの……?」

 ユリナは顔を上げない。

「なんとか言いなさいよ!」

 セイランがいきなりユリナの肩を掴んだ。

「自分が何をしたか分かっているの!?魔界人がどれだけ悪魔のせいで大変な思いしているか、魔界にとって地獄の穴ってどういうものか、わかっているの!?」

「落ち着いてよセイランさん。ユリナは力のコントロールが出来ている。だから小さな穴しか開けてないんだ。開けられないと言った方が正しいかもしれない。」

「そういう問題じゃない!悪魔はねぇ、一匹いれば霊子に誘われてどんどん集まってくる可能性だってある。倒せば良いってもんじゃない。いるだけで、脅威になる可能性があるの。一人の人間の気まぐれで出して良いものじゃないのよ!」

 セイランの目はいつものような冷たい視線ではない。燃えるような怒りが漲っているのを感じた。ユリナはセイランから目をそらすことが出来ず、震えながら大粒の涙をこぼす。

「ごめんなさい……わたし、地獄の穴を塞ぐ人がいるって聞いて、それで、地獄の穴が開けば、きっと塞ぎに来てくれると思って……」

「そんな理由で……」

 ユーシャが大きくため息をついた。

「それ、僕じゃないよ。多分ただの噂だね。魔界はそういう本当かどうかも分からない噂に溢れている。そんな噂信じて来る奴なんて普通いないよ。だよねセイランさん?」

「え、いや、それは……」

 何故か口ごもるセイラン。

 そこで燃えていた怒りが途切れてしまったのか、あーもうと吹っ切れた様に叫ぶと、頭をかきむしった。

「とにかく、今後は下らない理由で地獄の穴を開けるのは禁止!どうしても開けたくなったら私かユーシャ君に言うこと!あと地獄の穴塞ぐのも無し!暫くは地獄の穴商売は止めにするわよ!」

 立ち上がるセイラン。

「私は外を見張ってる。あんたたちは疲れてるんだから、サッサと寝なさい。」

 そう言ってセイランは出ていった。







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