8.ユリナVS欲にまみれた魔界の剣士
3/16までにアップした分の再編集版です。
最新話は3/23(日)朝6時アップ予定
「あのワイン美味しかったなぁ。また飲みたいなぁ…」
レストランの騒ぎ以降、セイランが急にやる気を無くした。
昼食のために入った安食堂で食事を平らげたあとも、机に突っ伏し、ずっとウジウジと呟いている。
「また言ってる。私達の持ってるお金じゃ飲めるわけないでしょ。」
「わかってるわよ。でもさ〜、忘れられないのよね。」
これは酒好きにしか分からない余談なのだが、飲んでいるときはただ美味しいとしか思わないのに、いざ次の日になってみると、猛烈にまたあの味に出会いたくなることがある。そうなると他の酒を飲んだり、他のことで気を紛らわせようとしても駄目で、何も手につかなくなる。
恋煩いと同じ。
ユリナは大きくため息をついた。
「お酒の何がそんなに良いんだろうね。」
ユリナはユーシャに話を振ったが、ユーシャもまたボーっとしたまま答えなかった。
「ねぇ、聞いてんの?」
「あ、ごめん、ちょっと考え事。」
「ユーシャ君も全然話聞いてくれないし……」
ユリナはふてくされて黙り込んだ。
沈黙の一同。
すると周りの客達の声が聞こえてきた。
「聞いたか、東の町が襲われたんだと。」
「町が丸ごと無くなったって噂だ。」
「地獄の穴も開いているし、悪魔の仕業か……」
聞き耳を立てるユリナ。
「何か異変が起きてるんだわ……
セイランさん、調べに行こうよ。」
「町が無くなるなんて、魔界じゃよくあることよ。チンピラに襲われたり、悪魔に襲われたりしてね。」
「よくあるって……魔界の人が困ってるのに、それで良いの?」
「知ったこっちゃないわよ。魔界で生きていくなら、それくらいのリスク切り抜けられない奴が間抜け。
それより、手っ取り早く儲けられる良い話、どっかにころがってないかしら……」
そこへ、
「セイラン・トレディ様、ですね?」
声をかけられてセイランが僅かに顔を上げた。
声をかけてきたのは一人の女。
整った顔をしているが、無表情で、視線もどこか虚ろ。セイランの方を向いてはいるもののどこか目が合わない感じがあった。
目立つのはその服装だ。フリルのついた豪華で真っ赤なドレス。安食堂の中においては明らかに浮いており奇妙だ。
しかし一つだけわかることがある。
この高級感溢れる服装と佇まいは間違いなく……
金持ちだ!
セイランの目が輝き出した。
「地獄の穴の件で頼みたいことが御座います。」
「はい!地獄の穴の件ですわね!
悪魔一匹10 万、大型なら20万から!
地獄の穴塞ぎは悪魔無しで10万、悪魔有りの場合は応相談となっておりまぁす!」
いつの間に決めたのやら、歯切れよく商談を始めるセイラン。
全部ユーシャ君のおかげなのに……
しかも高いしと、ユリナは冷めた目でそのやりとりを見ていた。
しかしユリナの意に反して、女は動じる様子もない。
「分かりました。地獄の穴を一つ塞いでもらいたいので、一緒に来ていただけますか。」
「お安い御用でございます!」
元気よく返事をするセイラン。そんなセイランの後ろで、ユーシャがクイクイっと服を引っ張った。
「どうしたの、ユーシャ君?」
ユリナも顔を近づける。ユーシャは2人にだけ聞こえるように言った。
「無理かも。」
「え?」
「塞げないかも、地獄の穴。」
「はあ?」
セイランが声を上げる。
「どうされましたか?」
「ちょ、ちょっと待ってください。地獄の穴を塞ぐのには入念な準備が必要で、先に作戦会議が必要なので。」
「わかりました。外で待っています。」
そう言って女は先に出ていった。
「いきなり何言いだすのよ!」
女がいなくなった事を確認し、声を荒げるセイラン。
「自分でもよく分からないけど、時々塞げないときがあるっぽいんだ。」
「そんなの今までなかったじゃない。」
「僕も穴が塞げる事に気付いたのは割と最近なんだ。だからまだ自分がどこまで出来るかも分かってないことがある。
お金まで取って、出来ませんでしたじゃマズいでしょう。」
「大丈夫よユーシャ君、自信を持って。貴方なら出来る。人間ね、その気になれば何だって出来るのよ。だからほら、頑張りましょう?ユリナ、あんたからもなんか言ってあげなさいよ。」
ユリナからは、いつも無表情なユーシャがこの時はとても不安そうに見えた。
「ユーシャ君…」
そんなユーシャに頑張れと言うのは間違っているような気がして、別の言葉を探していたら、
「ユリナが一緒なら、出来るかも…」
「えぇっ!?」
ユーシャによる言葉の不意打ち。油断していたユリナは意味を掴みかね、思わず赤面。
ユーシャはユリナから目を逸らして黙り込んでしまった。
「ほら、ユーシャ君もこう言ってるんだから、あんたしっかりユーシャ君をサポートしてあげなさいよ。」
「う、うん、わかった…」
パァっと表情が明るくなるセイラン。
スキップしながら先に出ていってしまった。
ユーシャは俯いたままだ。不安げにブラブラしていたその手をユリナは握った。
「一緒に行こう。」
手を繋いだまま、二人はセイランのあとに続いた。
安食堂から馬車に乗って1時間ほどのところにある、古びた屋敷へ三人は案内された。
セイランは落胆した様子を隠そうともせず「ハズレかも」と悪態をついた。こういうところもユリナは嫌だった。
「お連れしました。」
女に案内され屋敷に入ると、車椅子に乗った小柄な若い男と、召使風の男が三人を出迎えた。
「やあ、いらっしゃい。ご足労いただき悪かったね。僕の名はカイン。一応ここの主ということになっている。」
カインは横にいた召使いの男を親指で指した。
「こいつはジンセ、僕の召使いだ。まあ主とは言いつつ、召使いと呼べるのもこいつだけ。魔界に逃げ延びた。没落貴族さ。」
自虐的にフフッと笑うカイン。それに対し、隣の召使、ジンセはピクリとも笑わず表情を崩さなかった。
見た目は若いが、服装こそ綺麗なタキシードに白い手袋までしていかにもな召使。
しかし背が高くて体格も良い。今も険しい表情で三人を睨みつけている。
とても食事や身の回りの世話だけするタイプの召使とは思えない。
「セイラン・トレディよ。こっちはアシスタントの―」
「ユーシャです。」
「え、勇者?」
「いや、名前がユーシャ。」
「紛らわしい名前だね…それに君は、」
「はい、ユリナと言います。ご招待に預かり、光栄です。」
ユリナは丁寧に深々とお辞儀をした。顔を上げると、カインは少し驚いた様な顔をしていた。
「どうされました?」
「あ、いや、どこか知り合いに似ている気がしたものでね。でも気の所為だったみたいだ。魔界の連中は貴方と違ってもっと粗暴だから。」
一応褒められたということにして、ユリナはフフッと愛想笑いした。
中庭に案内された三人。
そこには、少し大きめ、直径3メートルほどの地獄の穴があった。
「最近急に穴が開いてね。悪魔が出てきたりはしないが、気味が悪いから何とかしてくれないかい。」
「え、ここに穴が開いたんですか!?」
ユリナが急に大声を出したので一同ビックリする。
「そうだよ。何か?」
「あ、いえ、こんな家の中にまで穴が開いたら大変だなと思って…」
そんなユリナをユーシャは不安げに見つめていた。
頑張ろっと、ユリナは小声で励ました。
とりかかるユーシャ。
しゃがみ込んで地獄の穴に触る。
しかし何も起きない。普段ならば触った瞬間にでもサッと地面に戻っていくが、地獄の穴は変わらず黒く輝いている。
ユーシャは立ち上がると、フゥーと息をついた。
「これ、本当に新しく開いた穴ですか?」
「そうだよ。」
「そうですか……」
ユーシャは再び穴に触り始めた。
固唾を飲んで見守るユリナ。
セイランは深く息を吸った。
「塞げないのか?」
ジンセが声をかける。慌てるユリナ。
「ちょっと調子が悪いみたいで…あ、もちろん、塞げなかったらお代は結構で…」
ユリナの言葉を聞いているのかいないのか、ジンセは無言で少しずつ近づいてくる。
「塞げないのなら、用は無いな。」
ジンセが言い終わる前にセイランが動いた。
バッと手を突き出すとセイランの両手から大きな尖った氷塊が飛び出し、ジンセと女召使の胸に突き刺さった。二人はその場に倒れ込んだ。
「キャアアア!?」
ユリナの悲鳴が中庭には響いた。




