七話
広大な校内。所々、窓から陽光が差し込み生徒たちを照らす廊下。カツカツといつもの一割増しくらいの速度で進む俺。なんで、こんなにソワソワして早歩きなのかと言うと――
「ジーグゥー待ってよぉ」
「……あぁごめんごめん」
本日魔法歴史係、チーム魔歴のお仕事をこなしております。
って言っても、授業で使う物があれば準備したり。先生のパシリになったりするだけだけどね。
だから、ちょっと緊張して、ついつい足早になっちゃうのよ……
この時間は至福。至福のひと時だ。
だってホリィと二人っきりでいられるんだから。ガチの二人っきり。しかもクッソ広い校舎のおかげで、移動に結構時間がかかるんだ。それがまた嬉しい。
好きな人と一緒にいたいと思う事、ちょっとでも長い時間を過ごしたいと思う事はごく自然なことだろ?
「ジーグゥーがホリィを置いていこうとするから、ジーグゥーの袖握っておこうっと」
……
やっば……かわいすぎ……まじ天使……
一見汚物をちょこっと触るみたいにちょっとだけ摘まんでるけど。それ摘まむ意味あります? って感じで摘まんでるけどさ。それがたまらない。その上目遣い……もう可愛すぎてなんも言えない。恥ずかしくてもう前しか向けない。ホリィを直視できないよ。
……いやぁーしかし、流石随所随所にブリブリ感が出るんだよなぁ。でも可愛いんだよなぁ
よし! この制服、今日からもう聖服でいいかもしんない! 俺の中にいない堕天使さんも、そうですね。って言ってるし。そうしよ……
「ごめん嫌だっ――」「いやじゃない! この学校広いし迷ったら大変だからいつでも摘まんでいいよ。これからそうした方がいいかも……」
あ、ヤベ、食いつきが良すぎた……しかもちょっと調子に乗ったかも、嬉しすぎて少し言い過ぎた。
引かれたか?
「はぁーい。じゃあジーグゥーの袖は私専用にするぅ! 誰にも触らせちゃだめだよぉ?」
俺の心配をよそに、ホリィは満面の笑みで首を曲げながらそう言ってきた。
俺の心臓はまたもや撃ち抜かれた……
「グスタッ……わ、わかったよ」
「グスタ?」
「いやなんでもない、気にしないでくれ。ただのクセだから……さぁ教室へ戻ろう」
俺はそう言って、教室までの最短方向とは少しずれた道を先導した。ホリィが若干方向音痴なのを良いことに少しだけ遠回りをして教室へ戻ったのだ。ちょと罪悪感を覚えつつも、色々なルートを覚えた方がいいもんね? と自分に言い訳をしていた。
だけど……少しくらいいいだろ。ちょっとでもこの時間を長く嚙みしめたいのだ。
好きな人と長く一緒にいたいと思うのは自然なことなのだ。
いいのだ。
――
俺達が教室に戻ると、待ってましたと言わんばかりにリテが声を掛けてきた。
俺達が魔歴の仕事があるのを知ってて楽しみに待ってたのだろう。
せっかくの美人が台無しになるほど、机にだらけきって机と一体化しているリテ。
「おぉ、遅かったじゃねーか。ジーグに変な事されなかったか?」
「変な事ぉ? なぁーんもないよ。ただ、ジーグゥーの袖が私専用になっただけぇ」
ホリィはそう言って、ちょこんと摘まんだ袖をリテに向けてアピールした。
それじゃ、なんの事だがわからんだ――
「……そうかそうか。いつでも摘まんで迷子にならないようにしとけよ」
「うん」
……すごっ! よくその一言で理解できんな。流石幼馴染。
「水の妖精さんに会ってくる」
「おう。土の妖精にもよろしくな」
「土の妖精さんはここにはいないもん!」
「かっかっか」
ナチュラルにただのおっさんだよな。こいつは、でもこいつもまじ綺麗なんだよなぁ
「おいおい、ジロジロみんなよ。なんかいつもよりその”性”服が輝いて見えて眩しいんだよな。特にその”性”服の袖部分がよぉ。いつもの”性”服と違う”性”服を着て来たのか?」
「んん? なんだろう? 絶対に俺のこと馬鹿にしてるよな? 制服ってちゃんとした言葉で言ってる? なんか違う言葉で言ってない? 確かにさっきちょっと制服に関して、違う言葉で”聖”服って考えてたけどさ、その言葉とは違う気がするなぁ絶対に馬鹿にしてるよなぁ。しかもなんでそんなピンポイント? リテってマジで俺の心読んでるよね?」
「んなもん読まなくても、ジーグの表情見れば一発だ」
どうやったら、表情見るだけで人の妄想わかんだよ。
まあいいや、これ以上は藪蛇になりそうだし。
今日は部活の日だから体力温存だ。
――
「おい、ジーグなんかお前の性服いつもと違って輝いてないか? それいつもの性服かぁ? いつもの性服とは違う性服だろ?」
「お、ターチスも気付いたか? なんか心なしか輝いて見える性服だよな? 特に」
「「袖の辺り!」」
うざ、忘れてたよ。部活にはもう一人おっさんがいたの……
まじうぜぇ。なんで情報共有してんだよ。
そんな報告連絡相談はいらねーんだよ……
はぁー子供みたいにはしゃぎやがって
めちゃくちゃ楽しそうにしてやんの……
まぁ嫌いじゃないけどさ……
少しの間バカ二人とじゃれ合っていると、マイ天使がトテトテといった感じで歩いていた。きっと部活の為にバレー会場へと移動をしているのだろう。
エンジェルは俺達に気づくと、ぶんぶんと手を振ってくれた。大きく大きく手を振り回すホリィ。あぁ可愛い……今日何度目になるかわからない独り言。
「ターチスばいばーい! リテもバイバイ!」
あるぇえー? 俺は? 俺へのバイバイは?
なし? へ? なし?
俺は内心、めちゃくちゃ焦っていた。心臓がバクバク言い出していた。心臓が止めてくれぇ! と悲鳴を上げるほどだった。体全体が重くなっていくのを感じた……
……ま、まあ、まあまあ、この馬鹿どもは幼馴染だし、まあまあ、幼馴染だしね。
そうそう、幼馴染だしね。
ここは俺からバイバイって言えばいいだけだから。
幼馴染は子供の頃からの付き合いだから、やっぱり先に声掛けちゃうもんね。
ほら、幼馴染だから。お友達よりまずは幼馴染が先だから。
幼馴染が先でお友達は自分からちゃんと挨拶するのが、法律だからね、憲法だから、国際法だからさ。
別に無視されてるわけじゃない……のよ……
さぁ気を取り直して――
「ば……」「ジーグゥー部活頑張ってねぇ! 私も頑張るから! 明日もチーム魔歴のお仕事あるからね! また一緒に先生の所に行こうね!」
そう言って、ホリィは袖を握る素振りを見せて手を振ってくれた。
瞬間、全ての状態異常が治った。体からは堕天使さんの羽が生え、俺を天界へ導こうとしているような高揚感で一杯だった。
「しゃっ! 幼馴染のボケ共ぉ! なにが幼馴染だ! なにが法律だ、憲法だ! 国際法だ! 全てはチーム魔歴の前にはゴミだ! よっしゃあぁあ! マジでうれしいぃ!」
「かっかっか、ジーグ心の声がでてるぞ」
「お前、先輩に対してボケって言いすぎだろ。どんだけホリィに声掛けられて嬉しかったんだよ」
「まあまあ、ターチス察してやれよ。自分だけ無視されたと思って、テンパったんだろ。んで、私たちは幼馴染だし、声を掛けられるのは当たり前。俺は友達だから俺が声を掛ければいいだけ。とか考えてたら、幼馴染共には無かったコメント付きの返信貰っちゃって感情爆発しちゃったんだろ」
「うる……うるせぇえ! お前なんなんだよそのスキル! もうこえーよ! あ、でもターチスさんボケって言ってすみませんでした」
そんなやり取りを、いつものように首を捻り唇を細めつつこっちを見つめるホリィ。きっと首の骨が一生懸命支えているのだろう。首の骨さえ魅了するホリィに今日一のスナップを付け手を振る俺。
あぁいつみても好き。いつ見ても可愛い。と思いつつ部活には励むのだった。
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明日は昼十二時過ぎに投稿します。