六話
クッソ広い校舎。
そのクッソ広い校舎が丸っと入って尚且つその何倍もあるグランドで、俺達一年生は横一列にしっかりと並び、ヤキュウ部のキャプテンの話を聞いている。
キャプテンはとても凛々しく、その低い声は俺たちにしっかりと響いた。見るものを落ち着かせる優しい瞳。鍛え上げられた肉体。頼りになる先輩だろうというのが俺の第一印象だ。
「……以上がヤキュウ部の説明になる。何か質問あるやつはいるか?」
チラッと視線を向け周りを見てるが誰も手を上げなかった。そりゃそうだ、キャプテンの説明は的確で俺たちが訪ねたかったことを全て網羅していた。それだけでもキャプテンの優秀さが伝わってくる。
「「……」」
「……いないようだな。ではこれから全員でランニングをして練習を始めるぞ」
部活動――勇者様広めた放課後活動。この部活動からスポーツというものが始まり今では一大産業になっている。プロを目指して全力を尽くすものも多い。そのスポーツの能力が凄まじくて入学している人達も何人もいて、学園でも何人ものプロ選手を輩出しているらしい。まあうちのヤキュウ部はそこまでゴリゴリの部活ではないんだが、それでも数年に一度はプロ選手を輩出しているらしい。
ちなみに、競技中は魔法の使用は一切禁止されてるため己の肉体を鍛えあげ、鍛え上げた肉体のみを使用することになる。
俺も剣や槍なんか、色んな武器を扱うために血のにじむような修練をしているが、そんな筋肉とはまた別系統の鍛え方が必要で俺にはその時間を確保する程の情熱はない。
まあ、ヤキュウ自体は凄く好きだし運動は気持ちいいから全力で頑張るけどね。あのボールがグローブにバシッと決まる瞬間。バットがボールを真芯で捉えぶっ飛んでいく瞬間。そして全力を尽くして勝利する瞬間……んーたまらん。
「よーし! 今日の練習はここまで! 一年はストレッチして道具の片付けを終えたら解散だ!」
キャプテンの力強い声で終わりが告げられた。気付けばもう夕方。
みんなはととても良い汗をかいており、これぞ青春!って感じ。
「「はい!」」
理不尽な事に対しては反抗してよいが、部活は基本上下関係が厳しい。
こんな感じで片付けなんかは一年の仕事だ。
そうやって一年同士の関係性も深まっていくのかもしれないな。
そんなふうに考えながら、一緒になった一年生と交流を深めていると、一人の二年生がやって来た。
俺を含め他の一年生が挨拶をすると、サッと手を上げ返事をして俺に話しかけてき。
「おい、お前がジーグだったか?」
「はい! 本日よりお世話になります。一年特進クラスのジーグ・グリナスです!」
「おう、よろしくな、二年特進クラスのターチスだ」
ターチスきたぁー
凄いのきたぁー想像以上ぉおお!
真っ黒な髪に、適度な筋肉に高身長、そして……
くっそ! イケメン! ビビるほどのイケメン!
甘いマスク! 虫がたかって来そうなほどの甘いマスク!
男の俺から見ても、完璧なイケメン!
「どうした? 俺のイケメン具合にビビってんのかぁ? まぁ俺の限界を超えたイケメン具合を見てビビらねぇ奴なんてそうそういないからな」
……あれぇー? でも、この人もちょっとあれな人かなぁ? と、思っているとマネージャーの仕事を終えたリテがやってきた。
いつもの制服とは違ってマネージャー用のジャージを着ているリテは、新鮮で、まあ、まぁ、ちょっと可愛い、まあまあね……
「ナルチスうざぁ」
「おい! 先輩に対しの口の利き方は気を付けろって言ったろ? リテ」
「へーい」
「本当にわかってんのか? まあ部活中で他の奴らが居る時だけ気を付けてくれたらいいけどよ? いくら幼馴染でもそこらへんは厳しいからな?」
「ああ、わかってるよ」
「改めてよろしくなジーグ。ホリィから聞いてるよ、あいつと仲良くしてくれてるんだろ? これからも頼むな」
……あいつ? ま、まあ? 幼馴染ですし? 年上ですし? それくらいの距離感なのはしょうがないですね。
「えぇ。もちろんです。係も一緒ですし。昨日はディナーにも行きましたから、全力で仲良くしますから。安心してください」
「……」
「おお、バチバチにライバル意識燃やしてんな。てか、昨日二人で飯行ったみたいに言ってるけど、私も行ってるからな?」
「わ、わかってるよ!」
「……そうかそうか、ジーグゥーは、ホリィにホの字なのか?」
うわぁーこのゲスな笑顔既視感があるわぁーリテと同じだわぁー
「……ターチスさん、俺の名前はジーグゥーではなく、ジーグ! です」
「ターチス、こいつ、ホリィ以外がジーグゥーって呼ぶと怒るからやめとけ」
「そうかそうか、特進クラスでもトップの割に可愛い所があるじゃねーか。……んでホリィに惚れてんのか?」
「発言は控えさせていただ……」「ゴリゴリに惚れてるよ!」
「おいー言うな! なんでリテが言うんだよ! 言うなぁ!」
「バレバレなんだからいいじゃねぇか」
「そうかそうか、どこが良かった? ブリブリ具合が良かったのか? 顔か? あ、……その表情は顔だな? 確かにホリィはバリ可愛いもんなぁ。幼馴染って立場で見てもクソ可愛いもんな? なぁ? そうだろ? あぁぁあん?」
「そ、それは……」
「あんだけ可愛い奴なんてほとんどいねぇだろ? このクソでけぇ学園内でもトップクラスだろ? 付き合ってどうしてぇんだよ? あぁあん?」
なんで、ホリィの周りにはこんな下品な奴が多いんだ……てかなんでリテもターチスさんも巻き舌?
「そんなの分かりきってるって! こいつは毎晩毎晩ホリィを使ってるしな」
「っ! お、おい! あれは――」
「そうかそうか! 昨日の夜も使ったのか!」
「間違いなく使ってるだろうな!」
「「かっかっかっか」」
「……」
……なんなんだよこの、クソ下品な二人組は。息がピッタリでスゲーウザイ……
「くぅー初日から笑わしてくれるじゃねーかよジーグ! まぁ心配すんなよ、俺はホリィの事は何とも思ってねぇから。幼馴染として本当の妹の様に可愛いとは思ってるけど、女として見てねぇから」
先程とは一転。優しい顔になったターチスさん。そして何かを思い出すように、ターチスさんはそう言った。なにを思い出しているのかは全くわからないが、その言葉は嘘をついているように思えなかった。
「ジーグ、これは本当の事だぞ? それは私も保証するから心配すんな。それにぶっちゃけ、ホリィもターチスの事を異性として、男として見てはねーから気にすんな。マジで幼馴染のお兄ちゃんとして、大好きなだけ、ブラコンだよブラコン。だから協力者が増えたと思えばいいんだよ」
リテもまた、ホリィとターチスさんとの関係性を強調してきた。リテの場合、俺がターチスさんに無駄なライバル意識を燃やし、脱線するのを嫌がっているような感じがした。無駄な心配して時間を掛けるなって感じ。
「……わかりました」
「俺も色々協力してやるから、大船に乗ったつもりでいろよな! なんなら、今日のネタを提供してやろうか?」
ターチスさんは、またゲスな顔を浮かべ俺に聞いてきた。
はっきり言うが、俺はホリィの事をそんな事に使わない!
もちろん! お付き合いを重ね、お互いを良く知って、お互いの同意があって、大人の関係になるのは大歓迎だし、なりたい。
だからと言って、イヤらしい妄想にホリィを登場させる気は一切ないのだ!
「かっかっか。良かったなジーグ、ネタ提供してもらえよ! ネタをよ! オカズをよ!オカズを!」
しかし、俺の純情? なんてこの人たちの前では意味をなさない……マジでなんなんだよ、このクソ幼馴染共は……
あ、俺もクソって何回か言っちゃった気がする……
こうしてまた一人、俺は心強い? 味方を手に入れたのだ……
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