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五話





 ドキドキが止まらないまま放課後を迎えた。

 今日の俺は脳内シミュレーションの鬼となり様々な妄想を繰り広げていた。

 こうきたらこう、こんな会話にはこう、こういう時にはこう。色々考えすぎってわかってるんだけど……

 好きな人と、ご飯に行くってスゲー緊張する……でも楽しみ。


 どんな服を着て行こう? どんな香りがいいだろう? お店は? 時間は? 席の配置は?

 何時まで一緒にいてもいい? 帰りは送る? 会話の内容は?


 考え出したらキリがない。無限ループ


 でも楽しい、ホリィの為に考えているこの時間が愛おしい。


 俺は本当にホリィが好きなんだ。一目惚れって言ったら、見た目だけを見て好きになってしまったように感じるけど、それはいけないことだろうか? 


 そんなことない! だって俺はもうホリィの内面も知りたい、全てを知りたい。確かに最初は見た目から入ったけどそんなこと関係なくホリィの事が好きで……好きで……どうしようもない


 ホリィの全てが欲しい、傲慢だけど、ホリィの全てが……



 ……



 ……



 なんて一人深く深く思考の奥に潜っていると、気が付けば準備万端、食事処で席についていました。



 時間のあら不思議


 

 店内はとても落ち着いた雰囲気。太い梁がむき出しになった天井、使い込まれているが清潔感漂う気のカウンター。一つ一つが上品でそれらを愛でるだけでも癒しを与えてくれる、そんな上質な空間だった。

 俺は、オーダー取りに来た店員に軽く挨拶し、女性陣のオーダーを伝え、満を持して自身の渾身のオーダーを伝えた……



「ロック、ダブルで」


 決まった……


「えぇジーグゥーはお酒強いんだ! ロックとかカッコイイ!」


 ホリィは両手で自身の頬を挟みながら目をキラキラさせ、俺を見つめる。いつもとは違う空間で、いつもとは違う席順。そして美しい私服。

 正直フリフリの洋服なんかを想像していたが、違った。シンプルだがとてもオシャレで、俺はドキドキが止まらなかった。


「そうかな? このお酒にはこの飲み方が一番合うってだけだよ。お酒本来の味を味わう為には最も適切な飲み方をしないとね」



 噓です。全くの噓です。洗練された動きで出された琥珀色のお酒。上品な匂いがして美味しそうに感じるけど……こんなの濃すぎて飲めません。


 だけど、リテが言うんだよ……


「ホリィはロックのダブルとか、カッコ良く酒が飲めて、酒が強い奴が好きだぞ」


 ってさ! ならカッコつけちゃうじゃん? そらぁダブルいっちゃうよぉお。行かない男子いないよぉ



 世界の国々では飲酒に関して色々年齢制限があるけど、この国では俺はもう飲める歳だ。だけど飲めるからってまだまだ強くはない。そんな俺がロックのダブルとかけっこうながんばりですよ?


 だって、好きな人の前ではカッコつけたいし、見栄張りたいもん。


 あ、ちなみにホリィ達の国では飲酒の年齢制限はないんだってさ。やっぱり国によって色んな違いがあるね。



「ふぅー、この苦味いつ飲んでもいいな。ホリィも飲めたらよかったのにな」


 噓です。強すぎて味なんてわかってません。カッコつけてグラスを傾けて氷を転がしてみたけど、それただ早く氷が解けて薄まって欲しいだけです。



「私は、そんな強いの飲めないのぉ。だってあんまりお酒強くないからぁ。酔っ払い過ぎたら大変だしさぁ。……ジーグゥーが責任持ってくれるならいいけどぉ?」



 ホリィは、木のぬくもりを感じる丸椅子にちょこんと座り、グラスにちょびっと口をつけながら、上目遣いでボソッと呟いた。


 ……持ちます。地平線の向こうまで責任持ちます。持ちたいです。全責任を未来永劫持ちます



「くうぅー……オヤジィもう一杯!」



 おい、リテ! キレイなウェイトレスさんを捕まえてオヤジとか言うな。ここけっこうな店だぞ? 俺かなり無理してこの店予約したからな。この洗練された動きのウェイトレスさん達見ろよ? もはや芸術の域だぞ? それをオヤジってお前……それに――



 ――お前が俺よりつえー酒飲むぁあ!


 俺が、リテに心の中でグチグチ文句を言っていると、ホリィがさっきより小さな声で、今度は独り言のように言った。だけど俺には届いていた。



「ホリィ……やっぱりどんな事でも強い人が好きだなぁ」


 


 ほんのり赤く染まった、色白の肌がいつもより色っぽくて、いつもより少しトロっとした話し方が可愛くて、ほんの少し本音を話してくれているような気がする君を見るのが嬉しくて


 俺はまたホリィの事を好きになってしまった。




 ――



「ごっそうさん!」

「ジーグゥーごちそうさまでした」


「どういたしまして」



 楽しい時間はあっという間に終わった。


 終わったけど、また作れるように頑張ろう。


 終わったらまた始めればいいだけ。楽しい時間はまた作ればいい。


 結局二人が住む寮まで送って解散となった。


 しっかり寮の入り口に入ったことを見届けたあと、リテが戻ってきた。

 

 醜悪な笑みを貼り付けて……

 

「ん? どうした? なんかあったか?」


「ちゃんとお前の策に乗ってやったんだから、これからも楽しませろよ?」



「!」


「全部もろっとお見通しだ! ってか」



 恥ずかしい。


 (ニヤリ。計画通り。)



 じゃねぇよ!




「おや、おや、おや、おや……おやすみ」


「くっくっく、嚙み過ぎだ。明日はヤキュウ部に入部する日だから気合い入れてけよ? ホリィの大好きな()()()()()()()()はヤキュウ部だからな?」




 あ……やべ。楽しいことありすぎて忘れてた




 二人の幼馴染のターチスさんてヤキュウ部だったんだ


 



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