十四話
その後、エグゼドさんはターチスと少しばかり会話をして立ち去っていった。
一歩一歩遠ざかるエグゼドさん……一歩遠ざかる度に……俺は……
俺は二人が会話するそばで完璧に目を奪われていた。
どんな話し方をするのか? どんな仕草をするのか? その一挙手一投足をジッと見つめてしまっていたのだ。一緒に会話しているはずのターチスだが、完全にノイズだった……てか、エグゼドさん以外の声は俺の耳に入ってくることはなかった……
好きかどうかは別として、俺の理想が歩いている。と、言っても過言では無い程、完璧に理想の女性だ。
ん? これ夢か? と、余りにも理想通りで夢を疑う程だった。
次はいつ会えるだろうか? 見るだけでも気分が上がるエグゼドさんには是非ともまたお会いしたい。
だが、現実と言うボケはしんどい……よく俺の前に立ちふさがる現実のやろー……残念ながら部活動以外で上級生と接点を持つのはなかなか難しいのだ。年に何回かは共同授業や、演習等もあると言うがそうそううまく一緒になれるとも思えないし。しかも、この馬鹿でかい学園内だ……そうそうすれ違うことだってない……
ターチスがなぁーもうちょっとなぁー、エグゼドさんと仲良ければなぁーなんかあったかもしれないのになぁー。
所詮はターチスだなぁ。大先輩とかなしなし。なんかさっきの決め顔とか思い出してきて余計にイライラしてきた……
ったくターチスがよぉ……
「ジーグ、今めちゃくちゃ失礼な事考えてねぇ?」
「……いえ」
俺は完全なる無で、嘘をついた……嘘をついたらオーガがでるぞ、なんて昔から言うがオーガ程度俺なら瞬殺。俺と一戦やりたきゃもっと大物を――
「嘘つくなや。俺もリテ程じゃないけど――って、どうしたエグゼド? なんか忘れもんか?」
え? エグゼドさん戻ってきた?
え? 俺が嘘ついたから? いやいや、んなわけないか……
なんだろ?
カツカツカツと、凛々しくも優しい音をたてて舞い戻ってきたエグゼドさん。
次の瞬間理解が追いつかない事態が発生した。
俺の肩をグイッと引っ張り、耳元に女神のクチビルを近づけそっと呟く。
それは俺にしか聞こえない甘いささやき……
いや、俺以外には誰にも聞かせたくない……そう思わせる魔性のささやき……
「次は二人っきりで会いたかぁ……ジーグから声掛けてくれてもよかよ? 待っとくけんね?」
胸の動悸が追いつかない。あまりに衝撃過ぎてドキドキすら起こらない。人を、異性をダメにするようなとびきり甘いニオイで、とびっきりの甘い言葉を囁くエグゼトさん。その言葉は俺の心を絡め取るように染み込んでいった。
顔を離し、小さく微笑むエグゼドさん……光が後ろから射し、影ができた顔は……
「おいおい、二人でなぁに話してんだよぉ」
「なんでもなか、バイバイジーグ」
「は、はい。さようなら……」
「うん」
これどういう感じ? ……おじさん、最近の若い子の事わかんないから現状が全然わかんない。
二人で会いたいって事? エグゼドさんが? 俺と? それは後輩として?
今日初めて会ったのに? ……なにこのこみ上げてくる喜びは……
だが、俺にはホリィ……
いや、ホリィはもうあれなのか……
だけど、だからって言って……
そんなすぐに……
……ホリィ
……いつもそうだ。どんな時だってあのホリィの笑顔がちらついて離れない。
なんでなんだよぉ……
「よい、よい。これは実によい展開ではないか」
「り、リテさん! 無能なターチスにはなにが起こっているのかわかりません! 教えてください!」
……うぜぇ、なんでまた現れてんだよ。まったく気配感じなかったよ。
どんな状況だって俺がここまで接近されるまで気付かないとあり得ないんだけど……
はぁー、まぁいいや。どうせ全部理解して馬鹿にしてるだけだし
始まったこのバカ二人を止める事もできないし……
「未熟なターチス大先輩にも分かるように教えてしんぜよう」
「ははぁーおねげぇしますだ」
「ズバリ! お乗り換えだ! 狙っていた馬車に乗れなかったから、乗れそうな馬車に乗り換えようとしてるってことだな」
「ほうほう」
「まぁ実際一台目には乗れてもねぇんだけどなぁ。かっかっか」
「リテ言ってやるなよ。未使用フェンリルが泣くぞ! くっくっく」
「まだ、そんな気持ちになってねぇわ! 本当にびっくりするくらいうぜぇ二人だなぁあ!」
「まぁ冗談はさておき……ジーグ、先輩とし忠告……いや……助言だが」
絶対に冗談じゃねぇだろうが
てか、珍しくちょっとだけ真剣な感じだな
「エグゼドはなかなか大変だぞ?」
「え? それって――」
「ほうほう、面白そうだな。ターチスが言うくらいだ、よっぽど面倒な理由があるってことか?」
おいおい、ターチスがハードル上げるからリテの目の輝きが大変な事になってるぞ……
「あぁ。理由がなかったら二年特進クラス、イケメン担当のターチスさんが、あんな絶世の美女ほっとくわけねぇからな」
なんだよイケメン担当ってよ。どんだけ自信あんだよ。
実際イケメンなのがむかつくんだけどな……
いまもすれ違う女子がみんな見てるもんなぁ。性格は終わってんのになぁ
「……スレートファミリーって知ってるか?」
「!」
その言葉を聞いて体が硬直した
「私は知らん。ジーグは知ってるみたいだな」
「……まぁリテは知らんよな」
おいおい、おいおい……リテ……スレートファミリー知らねえのかよ。
逆にありえないだろう。
子供だって知ってるぞ。
このゴードゥ魔法学園があるゴードゥ王国一番の武闘派マフィア……
……いや、もっと正確に言えばゴードゥ王国があるこのタゴイズ大陸一のマフィアだ。
小国程度なら取り締まることすらできない程、裏社会で権勢をふるっているという。
どの国だってまともに相手はしたくない超武闘派マフィア。
だがスレートファミリーは、義を重んじ薬物や弱者を食い物にすることはないらしい。
百年前から存在し、勇者様曰く
「久々に本物の”漢”達を見たぜ。これぞ本当のYAKUZAだな」
と、言ったらしい。
いまいちわからんが、とにかく一般市民には手を出さないみたい。
その関係者? ……いやターチスの口ぶりからしたら、身内レベルか?
「……その、跡取りだ」
……オワッタ。
それは流石にないわぁー
それは無理だよぉ
それは手がでないよぉ
話が違くなってくるもん
スレートファミリーの関係者っていうか、ご本人様だもん。
みんな手でないよ。
イケメン担当でも荷が重いわぁ
「まぁそういう事だからよ、ジーグ頑張れよ? あ、ちなみにエグゼドのボディーガードも特進クラスにいるんだが、エグゼド命の狂犬だから気を付けろよ? そいつもスレートファミリーの一員だから無法はしねぇだろうがな」
えぇええ。すげぇ嫌なんですけど? なにボディーガードって。
しかも気を付けろとか言って、めちゃくちゃ笑顔じゃん……
それに、そんな事言われても、俺とエグゼドさんはなんもないのに……
まぁどんな絡まれかたしようが、構成員ならぶっちゃけ、タイマンで負けることはないだろう。
跡取りの学園内のボディーガードになるほどだから、かなりの実力者なんだろうけど。
実は俺、一度だけスレートファミリーの大幹部、八人会と呼ばれる一人とすれ違った事がある。
かなりの強者で、まともにやり合えばただでは済まないと思わせるだけの力は感じた。が、負けるとは思えなかった。負けないからと言って戦いたいとは微塵も思わないが……
まぁ八人会であのレベルなら、その上の四天王やボスのボディーガードともなると、俺じゃどうしようもないだろうな。
だが、恋は障害があった方が燃える……
いや! 違うだろ、まだそんなんじゃない
まだ……とかでもなく
あぁーもういやぁ
こんな時でもまだ、ホリィの笑顔を思い出してしまう……
あ、ちなみに、ターチスとの用事はいつの間にか終わっていた……
俺の心はグルグルと回り続け、出口は見えなかった。
しかし、休み明け学校へ行くと俺にとっての大事件が二つも起きることになる……
しかも二つ同時に……
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