表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

十二話



 心臓の鼓動がまるで猛獣のように暴れ出し、今にも喉の奥から飛び出してきそうな程大暴れしている。 

 きっつ……


 朝の教室は柔らかい陽光と、生徒たちの笑い声に溢れていて、とても心地いいはずなのに、今は俺を残して自分たちだけ楽しんでいるような、そんな疎外感すら感じてしまう……リテ……せめてリテよ、早く帰ってきてくれ。一人ではこの時間を耐えられそうにない。


 ――いつもなら嬉しいホリィからの挨拶、朝一番で聞きたい美声も、トモエイル君(おじゃま虫)が一緒だと、こんなにも苦しいのか……まさかホリィからの挨拶をつらく感じる日があるなんて……





「ジーグゥーおはよう」


 当たり前のように、いつも通りの優しく間延びした声。たった一言で心が満たされていたのに、となりにトモエイル君がいるだけで……彼氏と言う存在がいるだけでこうも違うのか……


「あぁおはよう」


 平静を装って返事をした、その分少しぶっきらぼうになったか? 


「? まだ体調悪い?」


 ホリィが心配そうに首を傾げる、あぁ……いつもの仕草。

 嫌気がさす……こんな時でも心臓がトクンと跳ねる自分に……


「いや、もう平気だよ」


 嘘です。なにも平気じゃないです。体調悪い通りこして、瀕死の重症です。歩いているのが奇跡です。


「ジーグ君改めて先日は申し訳なかった。自身の未熟さのせいで君にまで迷惑を掛けてしまった。もし俺にできることがあれば何でも言ってくれ。必ず力になる」


 ……なら、ホリィと……


 って最悪か! こうして真摯に頭を下げて。こうまで言ってくれているトモエイル君にそんな事言ったらただのクズだろ……トモエイル君だってホリィの事が好きなんだ……


 トモエイル君だって……



「気にすんなよ。クラスメイトだろ? でも……もし、なんか困ったことあったら相談するから乗ってくれよ」


「あぁ! 任せてくれ!」


 力強く頷くトモエイル君。これは嘘じゃなく俺が困っていれば全力で力になってくれるだろうな。いい奴なんだよなぁトモエイル君……なんでいい奴なんだろ


 嫌な奴だったら滅茶苦茶嫌いになれて楽だったのに。……いやそれは噓か。嫌な奴なら嫌な奴で、なんでそんな男と付き合ってんだよ!ってなるもんな。どっちにしろ苦しいのには変わりないな

 

 はぁー

 


 俺は心の中で盛大にため息をついた。



 そしてトモエイル君は、ホリィに断ってから席に戻っていった。救いなのが席が離れていることだな。



「ジーグゥーなんかホリィの事怒ってるぅ? もし怒らせてるなら理由聞いてちゃんとごめんなさいしたいな……ジーグゥーとは仲良しがいい……」


 ホリィが不安げに俺の顔を覗き込んでくる。なんで俺がいつも違うのわかっちゃうの? 俺の事ちゃんと見てくれてるからなの? それとも、誰でもわかるくらい、俺平常心保ててないのかな?

 

「ジーグゥー……」

 

 潤んだ瞳が、ホリィという沼に俺を引きずり込む……


 くっそ……可愛い……じゃねぇえ。


 俺は自分を落ち着かせるために、心の中で深呼吸をした。


 ふぅー


  

 ――いや、怒ってねぇよ? 怒ってねぇけどさ? なぜに急に告白されたトモエイル君と付き合ってんの? ホリィって誰でもいいの? ちょっと軽い娘なのかな?


 ……ぶ、ぶ、ぶりっ子だもんね? ……今も男受け狙ったような表情してんもんね? 計算高い女なんだよね?


 そういう女なんだね? あぁああぁー、危ない危ない、ホリィみたいな……ホリィみたいな女に引っかからなくて良かったなぁー


 ……はぁ


 ……無理


 ……ホリィごめんなさい。そんな事思ってません。これっぽっちも思ってません。ごめんなさい。


 一応実践してみたけど、これ全然ダメだよ! 相手の事嫌いになる。悪口を言ってすっきりする。とかさぁ。これはダメだ。


 まぁひどい相手に対しては良いかもしんないけど、ホリィには当てはまらないもん。俺嫌な事されたわけじゃないし。


 今だって俺が怒ってると思って、解決しようとしてくれているだけだしさ。


 何やってんだよ……



「そんなことない! ちょっと考え事してただけだよ!」


「……本当に?」「ほんと! ほんと!」


「じー……」


 ホリィが疑うように俺をジッと見つめる。その視線は可愛くて嬉しいんだが。嬉しいけど、もうホリィはトモエイル君と付き合っているわけで……だから、席が離れているとは言え、トモエイル君の手前あんまり仲良くするのも申し訳ないんだけど。でも俺からこういうのもうやめよう? とか言うのもなんか違うし……あぁもうどうしたらいいのよ!



「わかった。ジーグゥー隊長を信じます!」


 ブリッと敬礼したホリィを見て、また心がズキッとする

 俺もなんとか通常通りのノリで敬礼を返す。


「ホリィ平隊員、本日も頑張っていこうではないか」


「はい、隊長! どこまでも付いていくであります!」


 ……そうだよな、どこまでも一緒にいたかった。いつか魔歴とか関係なく、いつもでもずっと一緒にさ……



――



 授業が全部終わり、部活の時間。

 今日は夕方になっても日差しが強く、動いていると汗が止まらない。

 汗と土のにおいは心地が良いが、体力的には辛くなってきた。

 だけど今はこれがいい……



「ジーグ君! 今のボールの捕り方良かったぞ! 次はバッティングしてみようか」


「はい! キャプテン!」


 運動をして思いっきり汗を流す。

 これも、あの本に書いてあったことだ。運動すると気分があがり清々しい気持ちになる。


「いいぞ! もっと腰をぶつける感じでやってみろ!」


 魔道具から繰り出されるボールをバットでしっかりと打ち返す。遠くに飛んでいく白球。


 この瞬間が野球の醍醐味とも言える。


「はい! キャプテン!」


 大声を出す! 腹から声を出して、邪気も一緒に出してしまう。……らしい。まぁとにかく今は何かに打ち込みたい。

 

 だが、そんな時間は長くは続かない。

 


「いいよぉ! いいよぉ! まぁーつもといい〇! 真ん中もっこり舘ひ〇し!」


 ……キャプテン? のわけねーか……


「おい! ターチス、今ジーグ君の指導をしてるんだから邪魔するな」


「キャプー心配すんなよ、後は俺が見とくからよ」

「いや、お前指導するの下手糞だろ? 感覚派だから、絶対に無理だって」


 そう。ターチス……先輩はレギュラーで滅茶苦茶上手なのだが、感覚派の為教えるのが下手糞なのだ。


 そこはびゅびゅーだよ! 

 今のはぎしっといけよ! 

 ボールの横じゃなくて心を見るんだよ!


 わかるかぁ! と、言いたい。声を大にして言いたい。


 だからキャプテン頑張って下さい。俺は今全力で体を適切に動かしたいのです。



「さっき、リテ(マネージャー)が、キャプテンどこだろう? っておっぱいフリフリしながら探してたぞ?」 


 ターチス……先輩がニヤニヤしながら言う。これ絶対に噓だわ……俺でも見抜けるよ……

 

 キャプテンが騙されるわけ――


「……っ! ……ジーグ君。ターチスは一見感覚派で指導が下手に思われがちだが、その実超一流の指導者の片鱗も合わせ持っている。今日その片鱗持ってるかわかないけど。だけど、今日は持ってる気がする。だからしっかりと指導してもらいなさい。俺は少々用事があるので、行ってくる」


 さっきまで熱心に指導してくれたキャプテンはどこに行ったんだ……まぁこの戯言もいつもの真剣な表情で言ってるんだが……ある意味常に真剣なのか……


「……はい」


「ターチス後は任せたぞ? あ、ちなみにティッシュ的な紙とかある?」


「かっかっか、リテに貰っとけ」


「そうだな! いってくるぜ」



 ……ティッシュ的な紙ってなんだよ。ティッシュだろそれ。キャプテンまともな人だと思ったのになぁ。表情真剣はそのものなんだよな。表情だけみたらさ、どんな真面目な話してんだろう?って気になるレベルだもん。はぁーまともな人っていねぇのかな?

 ここって世界屈指の学校だったよな


 キャプテンは俺が下を向いている間に消えていた……

 残ったのはなぜか張り切ってるターチス……先輩だけ



「ホレホレ次の球が来るぞ! その球をホリィだと思ってぶっ叩いてみろ」


 そんなことできるかぁああ


「ホリィだからって、股間で打とうすんなよ! お前の大事な未使用フェンリルが死んじまうぞぉ! ぎゃっはっは」


 うぜぇ……本当にうぜぇ……



 そうだ! 俺の中の黒い電球がパッと光った。そして俺はバッティングホームを少し変えた。 


 そして五十球入っている魔道具から最後の球が放たれた。俺から見て左斜め前から声を出していたターチス。俺はそれに(ターチス)向かって、フルスイングをかました。


 かきーーーーーーん!


 芯を捉え打ち返され打球。豪快な音を出したその白球は、「我が親の仇を討つ!」と言わんばかりに豪速でターチスに向かい、見事目標(股間)を撃破した。


「ぐふぉっ!」

 

 変な声を出し悶絶するターチス……先輩。さらに俺には聞こえない小さな声を出しその場に崩れ落ちるターチス……先輩。うずくまり、声にならない声を発し、右へ左へとクネクネする物体。あまりの悶絶具合に笑みがこぼれてしまい、またもや笑顔になってしまった。


 ターチスよ、俺の為に体を張ってくれてありがとう。今なら素直に言えるよ――



「ターチス……先輩。ありがとう」


 心からの感謝を込めて、悶絶し動くことができない先輩に頭を下げた。

 多分だが俺の肩は小刻みに震えていたと思う……



「ジーグ! 回復魔法掛けろやぁー! 頼むからぁ!」


 くぐもってほとんど聞こえない悲痛な叫びはグランドの土に吸収されていった。



 俺は再度ターチス……先輩に頭を下げ、次の白球を待った。


 あの魔道具にはもう球は入っていないかもしれない……多分入ってない……てか入ってない……だけど、諦めたらそこで終わりだ……



 ターチス……先輩から視線切り、バッターボックスに立ち白球を待ち続けた……




「じーぐー!!!! 回復魔法ぉ! もう限界ぃ……じ……ぐ……ぐっ……」



 待ち続けた……



「……」



 一歩も動かず、バッターボックスで……













「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひ感想、ブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただけると自分でもビックリするくらいモチベーションが上がります! 



ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ